開いている、と聞いた(千字戦②)
がん、がん、がん。
雷鳴のような音が店の正面から響き渡った。何者かがシャッターを叩いている。
鳴るはずのない音だった。壁掛け時計の短針はすでに午前零時を通過している。閉店時間はとうに過ぎていた。
黄川田はレジの奥に突っ込んでいた手を引っ込め、消灯した店内を見渡す。
大小さまざまな酒瓶が、コンビニ風の狭い空間に何百と並び、その表面に何百もの小男の顔をおぼろげに浮かび上がらせている。自分の顔だとわかっているのに、亡霊と目が合っているような気になる。
「誰だ?」
か細い声は、レジ台すら飛び越すことができず、ワックスをかけすぎた床に落下した。
がん、がん、がん。
返答の代わりに、ノックというには強すぎる殴打が、シャッターの向こうから帰ってくる。
「見てわかんないのか、もう閉店だよ」
しばらく待つ。来ない。
がん、がん、がん。
轟音の度に黄川田の心臓が変拍子を刻む。
さまざまな可能性が猛烈な速度で脳内を通過し、さまざまな残像を置いていった。
「まだ開いてるって、聞いたよ」
不意にシャッターの向こうで低い声がした。声色に聞き覚えがないか、必死に記憶を探る。あいつにも、あいつにも似ているような気がする。
まさか、サツを呼ばれた……?
そんなはずはない、唯一通報できるはずの店主は、店の奥で縛り上げられている。ほかでもない俺がそうしたのだから、間違いない。
黄川田は唇を噛みしめながら、例の音が再び響くのを辛抱強く待ち続けた。
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