僕の相棒
長年、親身になって支えてくれた前歯の差し歯が取れた。
僕を見捨て、支えるのを放棄したのは鶏の骨が原因だった。
支えてもらっていた側の僕の好物、手羽先の唐揚げをムシャムシャ食べていたら、手羽先の骨が運悪く彼にヒットしてしまった。
グラグラグラグラ、その日から彼はいつも口の中で体を揺らし僕を脅す。
「オマエな、オレがいつまでもそばにいると思ってんじゃねーぞ」
差し歯がそう言う。
彼をなだめすかし、食事の時も彼に負担を与えないよう注意を払う日々。
「なんだかうまくやれてるな」
気づかない振り見ない振りをしていた僕はそう感じようと心がけていた。
先日、ただ一回の過去の過ちで彼は去っていった。
僕のそばから。口内から。
仕事が終わりピリ辛サキイカをつまみに晩酌をしているとなんの挨拶もないまま彼はコロンと床に落ちた。
僕も悪い。それも分かっている。何度も謝った。
君にも原因はあったはずだと妥協点も探した。
でも彼はそれを認めてはくれなかった。
相棒との決別の日。
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