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230222 東洋経済 「Chat GPTが雇用を奪う」と考える人に欠けた視点 AIは世界をオートフォーメーション化しうるか

AIの登場によって人の雇用の機会が奪われると言われて久しい。最近では、Chat GPTの運用開始も大きな話題を呼んでいる。果たして、このような文明の発展が人類にもたらすのは、幸福で豊かな世界なのか、それともディストピアなのか。世界的に注目を集める社会理論家、アーロン・ベナナフの新著『オートメーションと労働の未来』を監訳した経済学者の佐々木隆治氏が、世界経済の動向、そしてAIが社会を変える可能性について語る。

AIは人の雇用を奪ってしまうのか

AIによる雇用崩壊論が言われ出してから10年以上がたち、その誤りが明白になったというのが現在だと思います。むしろ、近年注目されるようになってきているのは、オートメーション化というよりも、ビッグデータと機械学習によって生み出されるアルゴリズムの危険性です。

つまり、雇用の喪失ではなく、アルゴリズムによる行動予測や行動修正が人々の意思形成を歪めたり、既存の差別意識などを再生産することが深刻な問題になっているのです。

イーロン・マスクによるTwitter買収が意味するもの

昨今のインフレの深刻化のもとで、中央銀行が金融引き締めへと転換した結果、株価が下落し、GAFAもそのあおりを受けて業績が悪化しています。そこで大量のレイオフを行うとともに、これまで構築したプラットフォームやアルゴリズムの力をつかって収益化できるところで確実に利益をあげる方向へとシフトしようとしています。

イーロン・マスクによる従業員のリストラとTwitter有料化の流れはその典型でしょう。デジタルプラットフォームやクラウド、さらにそれと結びついたリアルなプラットフォームの独占を通じて、「賃料(レント)」を収奪するモデルへの移行が本格化している印象を受けます。

現実に起きているのは「雇用の劣化」

オートメーション論者はAIやロボットで大失業が起こると言いますが、現実に起きているのは「雇用の劣化」です。

高度成長の時代が終わりを告げ、資本蓄積が停滞し、成長エンジンである工業が衰退していくと、その結果として、労働需要が低迷し、全体として労働条件は低下していきました。

もちろん、サービス業では雇用が増大しましたが、そのような業種では生産性の上昇によって利益が増えていくわけではないので、人件費の削減が基本的なトレンドとなっていきました。

AIやビッグテックに対抗するために必要なこと

いま雇用やビジネスの話で何が流行っているかというと、「テクノロジーで世界が変わる」系のオートメーション論がやはり根強いように思います。しかしそれとは別の方向で社会を変えるビジョンを持つことが必要です。そのひとつに、「ポスト希少性社会」というビジョンが挙げられます。

デジタルプラットフォームなど、人類全体でシェアすべき資源を大企業が所有して囲い込んで「希少性」を発生させ、賃料(レント)をとるのが現代の光景です。

「豊かさ」を、モノの多さや生産性ではなく、「アソシエーション」という、人間同士の自由で協働的な結びつきをキーワードに考えていく必要があるのだと考えています。

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