ゲーム屋が見たApple、Googleの“サイドローディング強制”議論
僕は結構、違和感あるんですよね。EUにありがちな「政治が技術屋を脅かす」やり方に、さすがに今回はどうなんだろうと思うことがあります。
そもそもサイドローディングって何? という方には、去年の記事にはなるんですが、 西田宗千佳さんが「 西田宗千佳のイマトミライ」に執筆されたこの記事がまとまっていて読みやすいと思いますので、読んでみてください。
要するに、機械とOSで作り上げた“Apple王国”だの“Google王国”だのの中に、もうひとつ別の国を造らせろ、という議論。「他に住むところが無いからここに住み続けるけど、お前んとこは税金が高いから新しい国を作るわ(お前の領土の中に)」という話、悪意で誇張するとそんな感じです。
これって、ゲーム業界でも似たような話、ありますよね。
Steamがやり玉に挙がっていたのは記憶に新しいですが、同じことはプラットフォームを持つ大手3社( ソニー・インタラクティブエンタテインメント、任天堂、マイクロソフト)にも言えるはずです。
この3社が持つエコシステムは構造的にはほぼ、AppleやGoogleとやっていることは変わりません。根本的な違いとして、電話という道具なのかゲーム機という娯楽なのかという点がありますが、大きいのは「ゲームは小売店でも買える」という点でしょうか。実質的な独占状態ではあるものの、Appleのように「Appストアからしかアプリが買えない」とは状況が多少違います。
前置きが長くなりましたが、その辺の議論について思うところがあったので簡単に。
セキュリティに対するコストに無関心
国家を運営するには、外敵から身を守るための防衛力が必要です。その辺の思想的な議論は横に置いておいてね。この点については識者からも声が上がっていますが“悪意のあるソフトウェア”という外敵の排除に、相当な金額が費やされています。なんでって、最終的にソフトウェアのリリースを許可するかしないか、合格・不合格を判断しているのが人間だからです。
Appleやソニー、任天堂、マイクロソフトは自前の品質管理部門を持っていて、僕も元々はテスター出身なので、知り合いが各社に多く勤めています。彼らは日々、膨大な量のソフトウェアを審査しています。
その量はプラットフォームによって異なりますが、新規の申請以外にもバージョンアップやパッチ更新のための申請もあり、想像する量を遥かに超えています。果たしてサイドローディングで“建国”される王国では、それだけのコストを負担できるのか? 疑問です。結果、セキュリティが悪化することが懸念されるわけです。
目に見えるものしか見ていない不安
そういった悪意のあるソフトウェアの排除について「そんなの利用者が気を付ければいいだけじゃない?」とか「簡易な審査のGoogleでもそんなに問題起きてないじゃん」とかおっしゃる方もあろうかと思いますが、あなたはあなたが使っているソフトウェアがどうやって動いているのか、今どんなプログラムを実行しているのか、理解していますか? そんなの、目に見えないからわかりませんよね?
車を運転できるが、車は作れない。なんとなく構造はわかるが、実際に運転しているときにどういう動きをしているのか見ることができない。それと同じです。
Appleやゲーム大手のプラットフォーマーたちはハードウェアの保護も考えていて、ハードウェアに過度な発熱や摩耗を強いるプログラムを禁止しています。SDKやAPIなどで一定程度は制限されているとは言え、実際にそういったソフトウェアを作成することは可能です。 それが意図的に作られたものか意図せずに作ってしまったものかに関わらず、 バッテリーやメモリーモジュールを摩耗させ、製品寿命を縮めるようなソフトウェアは審査で弾かれています。
この問題は解決しなくていい問題
この問題に関してAppleはかなり譲歩をしていて、件の“税金”を下げる条件も付けくわえていますが、それに当てはまらない大手のアプリ開発業者からはまだまだ怨嗟の声が聞こえてきています。
その点、GoogleのAndroidは実質的にサイドローディングを許可しているわけですが、それでもやいのやいの言われるのは、やはり公式ストアであるGoogle Playを利用するユーザーが多いからでしょう。
要するに「自由が欲しいっていうお題目やけど、客がようけ入る店のショバ代を安く上げたいんや」と言っているようにしか思えません。そこにユーザーの利便性、安全、そういった利益を考慮する姿勢は見られません。
アメリカ企業による独占が気に食わないヨーロッパのいつものやつなんじゃないの? としか僕は思っていませんが、当たり前に安全で普通に使えているスマートフォンというのは一朝一夕には作れないものです。それはゲーム機も同じです。少なくとも、王国を維持するための努力と費用に対して敬意を払いなさいよと、言いたいです。
個人的には、Appleは一切の妥協をしなくていいと考えています。「サイドローディングが許可されていないプラットフォームの使用」という選択肢を、ユーザーに残して欲しいと思います。
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