【web小説・ダイマ/感想】ミックスベリーの花束


 ミックスベリーの花束(icecrepe先生)

ダイレクトマーケティング

本作品はノクターンノベルズに掲載されているR-18作品です。

 「青年と人外少女の中編バディアクションもの」としてこれ以上の作品はどのような媒体でも一生得られないのではないか。そう思ってしまうほど突出して私が愛読している作品が「ミックスベリーの花束」です。

 城館に郵便物を届けに来た青年が、何一つ理解できない状況で人間よりも強大な力を持った少女たちに追い回され、命の危機に瀕し、掴み取った情報を必死に知識と法則として理解し、生還を目指す。緊張感溢れるアクションと頭脳戦が貫かれる中で、主人公である青年も館の住人である少女たちも、皆一人一人が鮮やかな魅力を持っています。R-18なので色香としての傾向が気になる方もいらっしゃるかもしれません。人外少女に追いかけ回されるならマゾ向けなのか、など。答えとしては、皆が皆個性的なので「その子による」としか言えません。

 館の住人達は一見すると人間と姿形は変わらず、見た目の人外性は強くありません。反して、その精神性は人類社会と相容れず、しかも全員個性的かつ魅力的です。九つの「ベリー」たちは皆全く性格が異なり、個性的で、誰か一人は刺さることでしょう。「君の推しのベリー誰?」と気軽にオタクと話せる世界に棲みたい……この記事はそのためにあります。僕の推しはダンスベリーとキュラスベリーとアプスベリーとエリクシベリーです!!!! まあ全員好きですし僕は一匠×シトロベリー前提でカプを見ていますが!!! 浮気よ!!! 君の癖を教えてね!!!! 

 「生還できる方がおかしい」と断言できるような理不尽な物語で、実際に彼が異なった道を進んだ場合の「BAD END集」が揃っているほどです。

 ミックスベリーの徒花  ~『花束』BADEND集~

 このBAD END集も「単にミスして生還できませんでした」というものではなく、アナザールートと呼ぶべき色さえ備えたものすらあり、本編では知ることのできなかった少女たちの一面を垣間見ることさえでき、決して単なる敗北シーン実用集ではありません。

 私はシナリオとキャラクターが素晴らしい作品を摂取したとき、敗北シーンは義務的に確認するに留まることが多いのですが、このBAD END集はシナリオでもキャラでも魅せてくるため、唸らされるものがあります。妖艶なものもあれば、退廃的なものもあり、愛に満ちたものも、あまりにも熱く気高いものさえあります。館を駆け抜けたならば、もう一度挑戦してみることをぜひおすすめしたいです。

 また、館を駆け抜けたあと淋しくなってしまった人のためにアフターストーリーさえ存在します。

 ミックスベリーの花園  ~『花束』アフター~

 ここまでくると最早福利厚生の塊です。このアフターストーリーも、怠惰な日常が引き延ばされるだけのような類では決してなく、むしろミックスベリーの花束がエロゲならアフターストーリーの本編が始まるその瞬間に2ndOPが流れ出すこと間違いなしと述べてよいほど全てが濃厚です。アフターでがっつり掘り下げが行われる要素も多く――というよりそうなっていない部分がないと言ってもよいくらいです、ただでさえ本編で魅力的だったその全てがさらに強い魅力を放ち出します。スポイラーになるので何も言えないのですが、本編が最高だったならBADもアフターも信じて間違いありません。

 無駄を削ぎ落とした洗練された文章。緻密に構築されたプロット。主人公を含めあまりにも魅力的な全てのキャラクター。あらゆる点が強すぎる作品です。隙がない上にどこを見てもポイントが高いという理不尽といえるシリーズです。

 その完成された筋の中で姿を見せる少女たちのせいで、新たな扉が開いてしまうかもしれませんし、あるいは自分の癖はこれだったのだと腑に落ちることもあるかもしれません。

 ぜひ、その城館に一歩足を踏み入れてほしいのです。夢中になって、ずっと囚われてしまうかもしれませんが。

 ミックスベリーの花束


ここから先、ネタバレしかありません

このnoteを書いている段階で気づかず、書き終えた今気づいたのですが僕はミックスベリーの花園に101話以降が存在していることに気づいておらず、今気づいて情緒がバグっています。100万回読み返してるのにね。やったあああ! ですので、ネタバレの話はすべて100話までの情報で構成されています。今から読むのでもしかすると読破組はニヤニヤできることを書いているかもしれません




館を駆け抜けて

 私はこの作品を本編の途中から追い始めた人間です。確か終盤にさしかかったアプスかカハナあたりから読んでいたと思います。朝の隙間時間に更新分を読み、大興奮していたあの日々をよく覚えています。隙間時間に読んで、昼休みに読んで、帰宅してからも読んでいました。

 完っっっ全にやられました。アプスが最初から情報を示してくれていたのに、何の疑いもなく見事に終わりました。完結時の呆然とした思いは強烈なものでした。反骨を貫き、艱難辛苦の全てをともに駆け抜けたダンスが咲いたとき、ベリーであってベリーでない彼女の魔性に完全にやられました。

 一匠の相手といえばシトロですし、熱愛しているのはカルアです。対峙する者であればラムでしょう。ダンスは同じ目的地まで駆け抜けた相棒としてその諦めない心、不屈の意志をみせる横顔をかっこいいと思っていましたし、今もそう思っています。だからこそ、当時はただただ本編の結末に打ちのめされ、呆然とし、その一面に強く魅了されました。

 最後を持っていったのはダンスですが(見事です。もう誰も彼女をバカにできないでしょう)、カルアからはじまり全てのベリーが魅力的です。本編の段階でノチェロ妹を数えてよいかは微妙ですが、少なくとも最後に姿をあらわしたエリクシベリーはアフター抜きでも極めて魅力的でした。

 そして、全てのベリーを一匠とダンスは突破して、最後の最後。ダンスが勝利しました。花園でその愛情を「対等のせめぎ合い」と表現されるだけあるダンスです。本編だけだとその最後の一手はまさに魔性と思われたのですが、アフターを含めて改めて読み返すと、館での戦いを生き残った一匠に最後の勝負を仕掛けて成し遂げたダンスは人とベリーの戦いの常道で正々堂々対等に勝っていて、本当にかっこよく思います。アプスが最初から情報を示していて、エリクシベリーはルール違反を嫌い、あくまでルールの範囲内で彼女は勝ちました。本当に見事だと思っています。

ベリーの話を、いくつか

エリクシベリー

 花園やBADの話もしたいですし、一匠さんの話もしたいのですが、どうしてもベリーの話と絡んできますし(本編の話だけでもすごくダンスに思い入れてしまいます)、ベリーの話をします。

 エリクシベリーはとんでもなくツラが良いです。小説でツラが良いとはどういうことかと自分でも思うのですが、ツラが良い空気しか出してないので仕方ありません。花束本編、ラストバトルを制した一匠の前に姿を現した彼女は本当に人間離れしてうつくしかったのです。

 息を呑むほどのシルバーブロンドの長髪と透き通る肌を持つ城館の主。
 不遜な深紅の瞳がまっすぐに俺を見つめ、風に揺られたワインレッドのドレスに襞が生まれる。
 彼女の胸元には一枚の看板がぶら下がっていた。
 『私は負けベリー』

桜のベリーと宵の口 ◆ 

 huh?

 花園にはコミカルな描写がしばしば見られますが(カルアというとまずかたつむり状態になっている姿を私は思い浮かべてしまいます。そこから本編やBADや花園最序盤あたりを読むとグチャグチャになります)、「あの」エリクシベリーがしょうもないことになっている様はどうしようもなく親しみを感じさせてくれました。

 少なくともカードゲームにおいて彼女は穏当に表現してあまり卓越していませんし、お酒にも強いわけではありません。

 現れる度に人外めいてうつくしいのですが、付き合いやすさも感じさせます。本編の別れ際に寂しくなったら来いと言うだけあって、とても面白い性格をしたベリーです。

 もっとも、館の外にいたところで話し相手はダンスしかいません。どこかのベリーが人類総数-1をぶっ殺して最高の証明をしたので、他に話し相手が欲しければ館に来るしかないのですが。マジふざけんなよ……一匠の相棒は最高のベリーです。

 とても親しみやすいエリクシベリーですが、花園のエリクシベリーが親しみやすいのは一匠と彼女が館主と来訪者として、男女として普通に話す間柄だからでしょう。

 エリクシベリーはルールに厳格な館の主であり、特にBADなどでは寛容さと断固とした姿勢を併せ持つ主人としての性格を強く見ることができます。

 エリクシベリーに限った話ではありませんが、一匠が餌ではなく客だからこそ花園はああいった空気になっているところはあります。

 そもそもベリー間の仲間意識のようなものはBADを参照せずとも彼女たちにはないので、花園のゆるっとした空気は一匠が生き残って客人の男として良い感じに機能しているからこそなところもあります。

 仮に一匠が館に残るにしても、BADでシトロのために残った彼のように状況が違えば彼自身がよりよい花束のための剪定を行うでしょうから、花園がゆるっとしているのは本編を頑張ったからこそなところはあります。ただ館に残るだけではなかなかこうはいかないでしょう。人類は滅び、ただ一人残った一匠も腎虚の危機ですが、概ね状況はよいです。約一名ひどい目に遭っているやつがいますが、そいつの話は後でしましょう。

「では砂場一匠。私を捕まえてご覧なさい」

赤のベリーと賽の乱

 敷地内においてエリクシベリーは圧倒的です。ほぼ万能でしょう。彼女の力、特に暗示は攻略法が複数呈示されていますが、その気になりさえすればいつでももっと直接的な手段で全てをねじ伏せることができます。

 エリクシベリーによって尊厳を侮辱された一匠は怒りに燃えて報復を宣言しますが、敷地内において人間一人など彼女にとってみればいつでも始末できます。暗示の対処ができようができまいが関係ありません。

 敷地内での戦いにおいて、エリクシベリーがその気になれば人間では絶対に勝てません。暗示のような小賢しい真似をせずとも、雑に物理的に隔離すれば終わります。ですが、エリクシベリーは「絶対に攻略できない」状況を設定しません。それは決して余裕や慢心から来る驕りではなく、どれだけ追い詰められても、無様を晒しても、エリクシベリーは絶対に公平さを欠きません。

 一匠もまた同じで、敷地内において無敵であるエリクシベリーを敷地外の資産を用いて強引に攻略することをよしとしません。それでは屈辱は雪げません。

 意地っ張りの頑固者同士がぶつかっているので、ちっぽけな人間とほぼ万能の化け物の勝負が成立しています。無様を晒して逃げ回っているエリクシベリーを見て、まさにそのことに意地を見出して嬉しくなっているのは一匠らしいところでしょう。

 砂場一匠を攻略して人類を滅ぼしたダンスが、館主エリクシベリーを下した一匠を涼しく祝福するのも全員のプライドの高さが極点に達していてとてもよい決着です。

 そして、一匠やエリクシベリーのような者にとってその決闘はまさに決闘ですが、喧嘩はやはり喧嘩に過ぎません。

 両成敗。

 優しいシトロの無慈悲な宣告で花園の締まらない空気が戻ってくるのが不器用な連中の話としてとても素敵です。まあ、一匠とエリクシベリーはそこからが地獄のはじまりなのですが。

 緩い空気。けれど相棒は隣におらず、難易度もただでさえ理不尽な本編以上のエクストラモード。

 本編よりひどいじゃん! という気持ちと本気になっても致命的にはならないやりとりのバランスは不器用な者達にとってはただただ難易度の高い誇りの戦いであり、そういった面倒な都合に囚われない子たちにとっては絶好の好機でもあります。そのしっちゃかめっちゃかな状況がとても楽しく、それが成立するのはエリクシベリーがエリクシベリーだからこそです。

 そして、そのエリクシベリーが決闘を受けて立つ程度のところに一匠が辿り着いたからこそのしっちゃかめっちゃかさでもあります。たとえばキュラスベリーがストレガベリーになっていく様に対して一歩も歩み寄らなかったBADENDではエリクシベリーは完全に失望していますし、逆にこの館を余さず完全に攻略してしまうと、一匠は当然ダンスの真実にも気づいてしまい、彼女を外に出すわけにはいかず、彼女を見捨てることもできず、シャルトベリーになってしまいます。

 ほんの些細な行動の違いで、結果が大きく変わります。「一匠ならこうすることもあり得る」という幅の中で、「館は抜けたものの最後の最後でダンスに出し抜かれる」という館を攻略できなくても、館を攻略しすぎてもいけない繊細な糸の先に花園があります。

 そう思うと、花園のしょうもない空気は良かったな、本当に良かった、という気分に強くなります。人類は滅亡しますが。BADに行くと当面は人類滅亡を回避できる物語。

 花園の一匠はエリクシベリーの提案を蹴ってベリーにならず人として死ぬ道を選びますが、彼はきちんと老いて死ねるでしょうか。砂場一匠君とエリクシベリー様はぐちゃぐちゃのどろどろになってそのへんに転がっていそうな空気があるので、彼の命は常に危険でしょう。しかしまあベリーは館を出ませんので、「あなた以外の全てを蝕む」安全なダンスと浮気しておけばいいところ、人間でありたいと言いながらのこのこ嫁やら友人やらライバルやらがいる館に吸い込まれていく一匠の自業自得でしょう。お嫁さんが泣くのでできるだけ長生きしてほしいものです。

 エリクシベリー様開花祭絶賛開催中! なところで花園は止まっていますので、一匠とエリーはぼろ雑巾になっている印象が余計に強いです。ラムの優しさが五臓六腑に染み渡ります……。彼女がこういうところを見せるとカルアが面白くなるのでベリーたちの相乗効果はすごいです。

注:100話までしか読めていない僕を笑ってください

 一匠とあわせてしょうもない決闘の末路を迎えたエリクシベリー様ですが、断固として公平さを欠くことなく、顔面蒼白になり涙さえ浮かべながら取るに足らない人間に敗北し、律儀に誓いを守ってベリーたちに寄って集って滅茶苦茶にされている様は、やはり城館の主に値する存在だと思います。

 勝負は一匠の勝ちでしたが、その勝負とその勝利、その報復には価値があったと示しているのは最後まで公平に戦い抜いたエリクシベリーでしょう。エリクシベリーが両手を使わないと言ったら絶対に両手を使わないのです。ズタボロになってこのやり方では勝てないと悟ってもルールを遵守し、しかも小器用に諦めることなく、必死になって最後の最後まで悪あがきをして、滅茶苦茶悔しそうに負けます。エリクシベリーは万能さを十全にぶつけてきてはいませんが、エリクシベリーが本気で戦いに臨んだことは疑いようのないことで、だからこそあの決闘は茶番ではなく、一匠の誇りを回復しました。エリクシベリーの無様な敗北は、だからこそ高貴だと思います。人類を滅亡させる最高のベリー、ラスボスがダンスであるならば、館を駆け抜けた後アフターで戦うことのできる裏ボスとして完璧に格を保ったのがエリーです。

 『私は負けベリー』

 花園序盤のカリスマが崩壊するような姿も、だから振り返ってみればエリクシベリーは本当にそういうところだぞ、と不器用な高貴さを好きになってしまいます。しかもとんでもなく顔が良いですからね。

 彼女と「対等」になることはとても難しいですが、見下す彼女に牙を剥く価値は間違いなくありますし、見下すエリクシベリーもまた、駆け上がってくる相手に僅かな期待を抱いてくれています。プライドを賭けて挑むだけの意味がある相手です。一匠とエリクシベリー。その断固として誇り高い決闘を喧嘩両成敗にできるのが未熟なシトロであるというのもまた、くすりと笑えて楽しいところです。夫を寝取られた上に娘にされたシトロはこの喧嘩が始まる前から大迷惑を被っているので、両人をやっつけて構わないでしょう。大人しく褒美を楽しめばよいものを、余計な一言を口にした一匠をじとーっと睨み付けるエリーと何も弁明できない一匠。喧嘩の事後処理としては完璧で、さすがシトロの采配でした。一匠もベリーも何やら死にかけていますが、ダンスを除くベリー全員で囲っているので死にはしないでしょう。ほんとかなあ。

 友好的であれ敵対的であれ、彼女と関係すること自体に価値がある。そう思わせるだけの高貴さを持つエリクシベリー様の魅力は尽きることがありません。たとえ徹底的な濡れ場の連続で一匠と共にずたぼろになっていてもです。


ダンスベリー、あるいはフランジェベリー

 ダンスの目は白目が見えないほど真っ赤に充血しており、奇病に罹患したジャングルの原住民を想起させる。
 髪はぼさぼさ、足取りはふらふらで、口元には異様な笑みすら貼りついていた。

紫のベリーはカハナベリー ◆

「そうだね。じゃあせめて――――」

 カルアが息を呑む気配があった。


「あなたの幸せを踏みにじっていくね?」 

灰のベリーはフランジェベリー ◆

 本編における一匠の相棒。ダンスベリー、あるいはフランジェベリー。取るに足りない人であるからこそ侮られている一匠と違い、彼女はベリーとして館の住人たちから嘲られています。

 反骨精神とプライドの高さにおいて、ダンスを凌ぐ登場人物はこの作品にはいないでしょう。それは決して純粋無垢なものではなく、黒い感情も多々纏わり付いています。

 砂場一匠には弱点があります。彼は逆境にとてつもなく強いですが、穏やかな幸福に慣れると戦う力を削がれ、誇りを自覚しにくくなります。

 一匠がカハナとの悦楽に溺れているとき、ダンスは一見して異常な風貌に陥るまで一人で戦い続けていました。カルアを嵌めたとき、一匠もカルアも「ダンスは一匠を殺す」と確信するほどの殺意を燃やしました。

 「見返してやる」という彼女の中学生のような反骨精神が燃え上がるとき、当初は未熟な熱情だと思っていましたが、その熱量が尋常でないことに圧倒されました。一匠の隣にいる相棒は決して弱くない。情けない姿を見せるわけにはいかない相手だと背筋を正されるような思いがします。

 ダンスの反骨は完成しきっているわけではありません。シトロの愛情と同じく、BADにおけるアプスの邪悪によりそれはあっさりと誘導されています。

 ですから、一匠とダンスが二人で共に館を駆け抜けることに意味がありました。この二人にとって互いはあまりにも特別な相棒なのです。

 それだけの特別さがあるからこそ、私は、そして一匠は最後の仕掛けに容易くハマりました。「二重人格」という欺瞞を暴いた安心感もあったかもしれません。アプスが最初から示していた情報を吟味しきれていませんでした。

 結果としてフランジェベリーは一匠以外の全てを蝕み、人類は彼一人を除いて滅亡します。一匠が寿命で死ぬにせよ、ベリーになるにせよ、人類はもう一匠しかいないので、完全なる滅亡は時間の問題です。

 フランジェベリーこそが最高のベリーであるという言葉には何の嘘も慰めもなく、単なる事実です。たった三度の交わりで、その相手以外の全てをフランジェベリーは蝕み尽くすことができます。

 異常は明らかでした。けれど、ダンスを連れて日常に戻ってきた一匠は気が抜けていました。働かなければなりませんし、ダンスとの新しい生活も考えなければなりません。それは館での命を賭けた必死な全身全霊の戦いではなく、むしろある程度幸せなものですらあるので、外がやかましくても一匠はあまり気にしませんでした。ダンスは相棒として理想的であることで、最後の最後で一匠を出し抜いて自分自身を証明しました。

 一匠はベリーたちとの歓談の中で自分に恋人がいたらダンスは殺していると述べていますが、実際のところ彼に人間の恋人はおらず、妻はシトロのロリコンなので、人類が滅びてなおダンスとの仲は良好です。ダンスもべつに全く一匠を悪く思っておらず、むしろ二人の仲は極めて良好と言えるでしょう。

「あいつが他の寿司を食いたいとか言い出したら、お前と会う理由もできる」

 お、とダンスの頬が微かに赤くなった。
 口元には嬉しそうな笑み。

「……言うね」

「喜んでいただけて何よりです、お嬢様」

 俺達はふっと笑い合った。
 もしかするとこんな風に笑みを交わしたのは初めてかも知れなかった。

灰のベリーと夢の色 ◆

「ただいま」

「……おかーえり」

灰のベリーと縄の棘

 ダンスは――――なぜかウサギの全身スーツのようなものを着ていた。
 灰色のロップイヤーがぺろんと垂れ、両肩に乗っている。

「おかえり~」

 ダンスは垂れた耳の片方を手に取り、ふりふりと左右に揺らした。
 よく見るとそれはパジャマのようだ。

「ただいま。……」

灰のベリーと旅の淵

 絶対に妻の目の届かない場所。「外」で一匠とダンスはイチャついているので、シトロベリーは夫をぶん殴る権利があります。

 もっとも、花園での二人の関係は相棒でこそありましたが、最終的にダンスが出し抜いたのであり、一匠は出し抜かれた側です。ダンスはベリーたちを見事に「見返して」やりましたが、一匠は最後の最後でしてやられていて、相棒関係ではありますが一匠はどうしても一枚落ちます。だからこそ、

 ダンスベリーは館の主を見下ろし、にまーっと蛇のように笑う。

「……やるじゃん」

 俺は無言のまま、ふ、と小さく笑みをこぼす。

「正直、無理だと思ってた。一匠にはできない、って」

「期待されないのはいつも通りだ」

「で、そういう目を見返してやったご気分は?」

「……」

 俺は言葉にしなかった。
 その返答にダンスは微かな笑みをこぼしたようだった。

Re:赤のベリーはエリクシベリー

「エリクシベリーを打倒する」

 そのあまりにも非現実的な目標を、ダンスは「一匠には無理」と期待していませんでした。つまり、館のベリーがダンスを見るようなダンスの一匠に対する期待のなさが、濃淡はあれ存在していたのです。

 ダンスがベリーにそうしたように、一匠がダンスのそういった軽侮を見返した。そのときの言葉にしないやりとりで、確かに二人は通じ合いました。緩みきっていた精神を研ぎ澄まし、侮辱された誇りを取り戻す。

 「勝つ」

 この決闘は一匠とエリクシベリーにとって必要であっただけでなく、一匠とダンスベリーの相棒としての関係にとっても必要だったと思います。

「……やるじゃん」

 人類総数-1を滅ぼした少女からの評価はとても重いです。見直した、という相棒の言葉は何よりの賛辞でしょう。

 たしかに花園の間、ダンスと一匠は仲が良かったです。外で浮気してイチャついていました。二人のやりとりは「おかえり」と「ただいま」です。それでも、一匠はダンスに出し抜かれた者でした。どうしても負けています。

 ダンスは一匠を、人類をくだしましたが、一匠はあのエリーを下しました。二人の相棒が、また相棒として隣に並び立ったような気がして、決して安定しているのではなく、互いのプライドをもってせめぎあい、それこそがこの二人の親しい尊重ある関係として確立されたように思いました。

 一匠とダンスは嘲られたら、尊厳を傷つけられたら、必ず報復し、名誉を回復するという他者への怒りだけでなく、自尊感情を緩ませていた自身への怒りすらも抱えながら突っ走るところにかっこよさがあります。

 お互いに「やるじゃん」と思える仲であることは、私としてはとても見ていてよかったなあ……と思えるものでした。人類滅亡していますが。ダンスがやらかしましたが。

 そんな二人だからこそ、互いの攻略法は分かっています。

 恋や愛はともかく、ダンスと一匠は仲が良いです。やり方はまるで違いますが、互いが互いを攻略するとき(したとき)の表現は同じです。

「うん。だって私たち、きっと――――」

DUcHesnea ◆ 

「なぜなら俺たちは、きっと――――」

黒いベリーはシャルトベリー ◆ 

「きっと、永い付き合いになるから」

DUcHesnea ◆
黒いベリーはシャルトベリー ◆

 ダンスは帰還した日常で最後の罠に嵌めました。

 シャルトベリーは「完全攻略」して得た知識を隠し、ダンスを沈め続けます。

 いずれにせよ、二人の考えは同じです。

 「敵対するのではなく、お互いの内側に入ったり幸福に沈めたりすること」

 それが単に無理を強いるより相棒に効果的だと互いによく理解できています。

 ダンスにやられた一匠は後の祭りです。人類が滅亡しているから、二人の付き合いは長くなるでしょう。

 シャルトベリーにやられているダンスは一時的に我を忘れるとはいえ光を失っておらず、だからシャルトベリーは永遠を武器にベリーとしての長期戦を挑む、という点で最後の一言の色は異なりますが、「長い付き合い」になるのは変わりません。

 二人の相棒としての互いへの尊敬という観点からしても、花園の対エリクシベリーの地獄のEXモードはよかったと思います。

 エリクシベリー打倒。ちょっと詰めが甘い相棒には難しいだろうなという難関を、見事にクリアして勝利した。やるじゃん、というダンスの一言はプライドを燃やして戦った一匠にとって値千金の価値があると思います。

 あまり性格の良い自尊感情のコントロールや他者評価をしないコンビですが、それでもこの二人が館を駆け抜けた頃のように「お互いにやっつけて見返してやったコンビ」として今度こそ間違いなく並び立った瞬間は本当に嬉しいものでした。

 良い感じに落ち着いたしダンスちょっと里帰りしない? しませんか。そう……。

 僕はこの二人の祝勝会を見たくてたまりません。

(執筆後追記。ぼくは100話までしか読んでません。もしかしてあるのでは?)

 「愛情 :対等のせめぎ合い」と設定されるだけあって、ダンスは特に受け攻めが固定されず、精神的に完成されたベリーでもないのでどこかやりとりには気安さとともにインモラルさもあります。しかも浮気です。

 エリクシベリーとの決戦後、多少の軽口や皮肉なんかを口にしながら振り返り、倒錯的な行為に耽って、あっさりと別れるふたりを見てみたい気がします。シトロベリーは怒っていいです。

キュラスベリー

 キュラスに助けられた時、俺は彼女に労いや賞賛の言葉を掛けなかった。
 いや、それどころか礼一つ言っていない。

 彼女が自分のフロアでダンスを助けようとした時も。
 アプスベリーを返り討ちにした時も。
 俺は彼女を褒めず、礼を言うこともなかった。

黒いベリーは墓の色 ◆

 本当の出来損ないは、俺だったのだ。

黒いベリーは墓の色 ◆

「黄色い花って、女の子には人気無いんですよ」
(中略)
「黄色いバラは女の子にも人気があるんですけど……あれって元々バラを引き立たせるために創られた品種なんです。黄色いバラの美しさはバラの美しさに過ぎないの」
(中略)
「私もこのお店を開いてすぐ近所の女の子たちに聞いてみたんです。黄色い花って嫌いなの? って。そしたら「女の子っぽくなくて嫌い」とか「ギトギトしてて嫌い」って言う子が多くて」
(中略)
「黄色って、女の子にとってはたぶんそういう色なんですよ」
(中略)
「もう少し人の目に美しく映るように咲いてくれたら……もっと人気が出たのかしらね」

黒いベリーは墓の色 ◆

「……花は人を喜ばせるために咲いてるわけじゃないでしょう」

 俺はラナンキュラスの花に手を添えた。
 女の顎にそうするように。

「一生懸命咲いていれば、誰かがそこに美しさを見出すんじゃないですかね」

黒いベリーは墓の色 ◆

「私が小さかったころ、そんな風に大事にしてもらったことなんてなかったのに! なんでそいつのことはみんなちやほやするの?! 死にぞこないの出来損ないなのに!!」

 既に濡れた目元に新たな涙が溢れた。

「わたしだってかわいいって言ってもらいたかった!!」

 空気が小さく震える。
 キュラスは濡れた言葉を吐いた。

「わたしだって一回ぐらい一番になりたかった! わたしだって……好きだって言ってもらいたかった!」

 涙が散り、床を濡らした。

「こんなに……こんなにがんばってやったのに! 一生懸命やったのに! なんで褒めてくれないの?!」

「……」

「何で私に居て欲しいって言ってくれないの?! 居ても居なくてもいいなら最初から殺してくれればよかったのに!!」

黒いベリーは墓の色 ◆

 私にとって深く、とても深く印象に残っているベリーはキュラスです。本編開始前では邪悪なアプスのいじめを受けており、そもそもベリーとしては見下される側で、愛されてもいません。同胞意識に欠けるベリーにとって、ベリーだから特別気にかけるということはありえませんが、同じ同胞であるシトロベリーは例外です。ほぼ不干渉であるエリクシベリーにとっての一線であり、主人公である砂場一匠の逆鱗であり、最強のノチェロベリーをはじめとして多くが彼女を庇護下に置いて大切に扱っています。一度も男を蝕んだことのない、無能どころか助けがなければまともに生きていくことも難しいベリーであるにもかかわらずです。

 本編でキュラスは下克上を果たしました。自分を虐めていたアプスベリーへの復讐を徹底的に行い、行い続け、可逆的とは言えアプスの精神は崩壊します。

 だから、キュラスはアプスをいたぶっている。いじめっ子といじめられっ子の関係が逆転したことでのびのびと花園で過ごしていると、ただそれだけだと最初は思っていました。

 一匠、ダンス、ラム、エリー。そういったプライドの塊のような子達を見て来たからということもあるかもしれません。特にダンスです。

「うん。ゲームセンターとかコンビニとか、ボーリング場とかカラオケボックスとか。学校とか病院にも行ったよ」

「……それ、楽しいか」

 つい癖でバックミラーに目をやり、俺はまた前方へ視線を戻す。

「人、一人もいないだろ」

「うん」

 ダンスは事も無げに頷く。

「私しかいない、私だけの世界。……素敵じゃない?」

「そうかな」

 寂しさに耐えられなくなってあの館へ向かった俺とは違い、こいつはこの孤独な世界を心から楽しんでいるように見えた。 

灰のベリーと百舌の贄 ◆

 人類を滅ぼした新たなる世界の主、フランジェベリーは崩壊した孤独な世界を心から楽しんでいます。一匠が来てくれればそれはそれで楽しいですが、べつに一人でもそれはそれで楽しい子です。一匠が寂しさに耐えかねて館に行っている間、ダンスは外の世界を開拓して満喫しています。

 ことさら一人になりたがっているわけでもなく一匠が来れば嬉しく、かといって一匠がいないならいないで世界を楽しむ術はいくらでもある。ダンスにはそういった余裕があります。

 花園では人恋しさに負けて館を訪れた一匠ですが、彼もまたそうするに足る理由があれば、おそらく人類がより発展し、滅び、長い長い時が過ぎるまでの間をただ一人で立ち尽くすことができる人です。

 空に火の粉が舞った。
 近くで炎が上がることもあった。
 何かが轟音と共に通り過ぎることもあった。

 七色の光が天を覆ったりもした。
 聞いたこともない生物の叫び声が聞こえた。
 何かが柵にぶつかることもあった。

 俺は待ち続けた。

黒いベリーは漆の色 ◆ 

 一匠は寂しさに絶対の耐性を持っている人ではありません。むしろ、求められて愛されることについては弱い方です。殺しに来るなら戦えますが、愛されてしまうとどうしても心が揺らぎます。

 ここには桜色の小瓶が山ほどある。
 何度セックスしても元に戻ることができてしまう。
 それはカルアが殺意を放棄したことを意味する。
 殺されないのなら。
 それどころか愛されてしまうのなら俺は――――

 ダンス。
 助けてくれ。

 ここが。
 カルアベリーが。

 ――――俺の居場所になる前に。

灰のベリーは雲の色 ◆ 

「お願い……行かないで……!」

 鉄柵に掴まったままずるずると崩れ落ちてしまいそうなカルア。
 涙で顔をくしゃくしゃにしたその姿に俺の胸は張り裂けそうになる。

 俺はもう一生、こんな風に誰かに望まれて、愛されることはないのかも知れない。
 ――――それは別に苦しくも何ともない。

 ただ、残されるカルアの気持ちを想うだけで俺の目には熱い涙がこみ上げてきた。
 残されるシトロの寂しさを想うだけで俺の口からは悲哀を帯びた湿った息が漏れ出す。


(泣くな……! 男だろ!)

赤のベリーはエリクシベリー

 カハナのやり口はまた例外として、カルアの愛情に一匠はかなり弱いです。自由が利くならそれでも振り切れる人ですが、不自由な状況下で愛をぶつけられ続けると心が折れそうになるという自覚があります。

 もちろん一匠にとっての完全なアキレス腱はシトロベリーなのですが、シトロはアプスの邪悪にねじ曲げられるようなことさえなければ、一匠の意志を尊重します。どれだけ苦しくても、どれだけ悲しくても、一生会えない一匠との別れの場であっても、なんとか笑ってさよならをしようとします。

 砂場一匠は好意を受けると屈するかどうかはともかく揺らぎますが、彼は惑わされない限り、意図的に堕落へ導かれない限り、断固として折れません。世界がどうなろうが知ったことではなく、館の住人がどこかへ消えても、微塵も動くことなくラムベリーを待ち続けることができるのが彼です。

「お前に……負けたくなかった」

黒いベリーは漆の色 ◆

 一匠はそういうところがありますし、それはラムベリーも同じことです。一匠とラムは特別な関係で、最終的にはプライドで結びつく仲です。今回のnoteでは時間に限りがあってラムに項目を割けないのですが、僕は一匠とラムの関係を不器用ながらもかっこいいと思っています。互いが互いにとって敬意に値するものである、ということの切なまでの証明が二人にはあります。尊厳、プライドを語るときにこの二人を欠かすことはできないでしょう。

 本編で出会った当初、取るに足りない一匠をラムは侮っていました。ラムは館を攻略し続ける一匠への評価を改め、その仲は少しずつ良好になっていきますが、ただただ甘く、少し嗜虐と被虐が入り混じったその関係性に一匠はこれでいいのだろうと思っていました。

 BADの一匠はラムの気高さを高く買い、負ける訳にはいかないと意地を通しておそらく世界が滅びるまでラムを待ち続けて、起きた彼女を驚かせましたが、花園のラムもまた現状をよしとするような弱いベリーではありませんでした。

「私は負け犬なんかじゃない……!」

青いベリーは倦みの色

 花園での、あるいは本編終盤以降の彼女は一匠を認めることで気安い仲になり、「犬」のように扱われる倒錯的な行為にも耽っていました。だから、一匠としてはそういう好みなんだろうと思っているところなのでしたし、花園でのラムのコミカルで可愛らしいシーンは確かに彼女の魅力でした。

 けれど、人外の化け物『ラムベリー』には誇りがあります。

 俺は手負いだ。
 そして次の相手はエリクシベリーだ。
 温存しなければ。
 賢く立ち回らなければ。
 耳元で囁かれるそんな言葉が薄れ、遠ざかっていくのを感じる。

 俺は矜持を賭けてこの場所に立っている。
 立ち向かうべき相手はエリクシベリーただ一人。
 半端な覚悟で臨む者と安い勝負をしている場合ではない。

 では、半端ではない覚悟の持ち主が立ち塞がったら?
 そいつもまた、屈辱感に苛まれていたとしたら?
 自分をないがしろにし、軽んじる者に命がけで噛みつく闘志を持っていたとしたら?


 俺は――――


 俺は静かに頷いた。

青いベリーは倦みの色

 だからこそ、全てが終わったあとで一匠は心の底から断言します。

「お前は格好良い奴だ」

赤のベリーと業の青

 当初から特に一匠と戦ってきた相手との、静かなこのひとときは強く印象的でした。花園での戦いは誇りの戦いです。一匠がエリクシベリーに噛み付くためのものです。ですが、その戦いの場でラムベリーも本気で一匠と対峙することができ、彼女は真剣に彼に挑みました。

 「勝利条件を達成する」ことではなくて「誇りには誇りでぶつかる」というその不器用さが、ラムやエリー、そしてダンスといったベリーと一匠がとても相性の良い理由なのでしょう。もちろんそれはあくまでかっこいい矜持の話で、女の子としては一匠はシトロに弱く、花園ではだいぶカルアにも靡いていることさえ館の外のダンスに見破られていますが。

 そして、こういった一種の根底的な意地があるからこそ、一匠にはうまく処理できない相手がいます。それはたとえばほぼ問題にならないどころか有益でさえありますが妻のシトロですし、あるいは手段やプライドを投げ捨て目的に一直線に愛をぶつけにくるカルアですし、彼女自身が見せてくれなければ、きっと一番彼にとってわかりにくい女の子がキュラスベリーでしょう。カルアとシトロについて、一匠と同じくきちんと読めず、一匠と同じラインで、しかし一匠より盛大に読み外しているダンスが参考になるでしょう。

「マジだよ。だからゲーム上、『一匠のことは欲しがらない』。欲しがらないって素振りを見せたまま一匠がエリクシベリー様に敗けるのを待つ。で、最後の最後に手を差し伸べるの。「どっちがいい?」ってね」

「……」

「あの二人にもプライドはあるよ」

灰のベリーと春の靄

 とてもダンスらしい考え方です。花園でのEXバトルにおいて、勝者は一匠を100年好きにできます。しかし、シトロは一匠の妻であり、カルアも心を掴みつつあります。そんな状況下で、そんな強権に縋らなければ一匠を手に入れられないというのはプライドに関わる。だから邪魔者をすべて排除して、順当にエリクシベリーに負けた一匠にシトロとカルアが二択を迫る。一匠に好かれているからこそ、ルールではなく一匠の意志で決めさせるはず。実際にはそんなことはなくシトロもカルアも全力で向かってくるのですが、どうしてもプライドに重きをおいて考えてしまうのがこの二人の魅力です。

 そして、シトロとカルアには愛し愛されているからこそのプライドがあるはずだと踏んでいるダンスは、逆にラムのことは安く買っています。

「ラムはその逆。「ゲームに勝ちたい」って名目で一匠を『奪りに来る』。……」

 ダンスは批難するような眼差しで俺を見つめる。

「お分かりよね? あなたラムにも好かれてますでしょ?」

灰のベリーと春の靄

 実際、ラムは一匠の前に立ちふさがりました。敵対組です。一対一を選んだという読みも正しいです。しかし、ダンスは完全に動機を読み違えています。こうやって性根を見下されている状態から誇りのために対峙した。だからラムベリーはかっこいいです。

 一匠とダンスの敵対・非敵対予測と実際の状態。それは二人の頭の良さの比較ではなく、二人がどのような考え方をする人間か、各ベリーをどう思っているのか、そして実際にベリーたちはどんな子なのかを表現していて、キャラクター性を一気に深堀りするお気に入りのシーンです。

 この項目はキュラスの項目なので深掘りはしませんが、「一匠は外に出たら絶対に自分と浮気する」というダンスの確信や、一匠が勝てるとは思っていないからこそ、挑戦しないでほしいと希望を口にしたり、家出してもう館に帰りたくないのに「戻らなかったら助けに行く」と断言するダンスなど、EXモード前準備編はダンスの魅力の塊です。一匠は自分の怒りにダンスが相棒として共感してくれないことに少し寂しさを感じていますが、それはダンスがそういうベリーだからに過ぎず、ダンスはダンスなりに一匠をとても大切にしています。仮に一匠が囚われて、ダンスが助けに行ったとしても、ダンスが挑まなければならない戦いは一匠が挑んだそれより遥かに厳しくなるでしょう。それでもやるのがダンスです。

 閑話休題。一匠も、ダンスも、ラムもプライドのために炎を燃やします。花園のラムの炎はあまりにも気高く美しいものでしたが、たとえばダンスなど最早ドス黒いまであります。アプスに捻じ曲げられたり、人類を滅ぼしたりしますが、それはその執念の魅力をかえって高めているように思います。一匠もプライドを心地良すぎる状況で忘れてしまったりすることはありますが、それに気づくと多大な自己嫌悪とともに尊厳の回復のために全力を尽くします。

 愛されたかった。

 キュラスのそんな願いはあまりにも遠いです。普通の人間社会ではそんなことはないかもしれません。ですが、砂場一匠と館のベリーたちからそれを望むことは不可能に近いでしょう。

 だからこそ、

「すごいな、キュラスは」

 は、はっと彼女はまだ息をついている。

「こんなに上手いとは思わなかった」

黄色のベリーと悪の息 ◆

 花園においても一匠は人心というものを上手く解していません。せいぜい自分も持っているプライドについては上手く自他を考えられる程度です。だから、キュラスに言葉を投げかけたときもその言葉がキュラスにとってどんな意味があるのかまるで深く考えていませんし、むしろ「軽率」と表現される少女をいいように攻略している節があります。愛情の性質として「染められたがり」であるキュラスに滅茶苦茶効くのは言うまでもなく、花園においてアプスに徹底的に復讐しているキュラスですが、悪い男にいいように染められている不良女学生のような趣がそこにはあります。

 花園でこのシーンを見たときはキュラスとアプスのセンシティブな聖域を上手いこと転がしたものだと感心しつつ何やらいかがわしさに興奮しましたが、その後のBADでキュラスが何を求めていたか、そして得られなかったかを思うと一匠に染められた悪い子である「キュラス」について、大切に愛されてほしいという気持ちがとても強くなります。

「私とキスして、楽しい……?」 

緑のベリーと草の床 ◆

 キュラスと一匠では互いに向け、求める感情が違います。キュラスにはまるで愛されなかった子供がそれをようやく(けっこう悪い形で)与えられているようなところがあります。

 本当はもっときちんと愛されるべき子なのですが、なにせ人類は滅亡しているので唐変木でロリコンで浮気性の砂場一匠くらいしか相手がいません。

 アプスへの復讐心と無視できない非行への興味。どうしても一匠が向ける気持ちには危険因子への注意という側面が混じりますが、BADと違って、感情は決してそれだけではないです。

 他のベリーと比べて突出しているわけでも、手慣れているわけでもない、下手な方とすらいえるキュラスですが、BADのときと違って一匠はちゃんと彼女を見て、お互いにあまり器用ではありませんが、関係を構築しつつあります。

 館においてキュラスベリーはたいした扱いは受けていないというのは今もそうで、けれど彼女は少なくともストレガベリーになった果てに死に至った絶望に落ちることは当面ないでしょう。

 砂場一匠はかなり悪い男であり、酒を飲ませて軽率な女の子に不埒を働いて浮ついた言葉を吐くようなたいへんよろしからぬ男ですが、そういった一匠の便宜上の都合から始まった関係はいつまでも何も変わらないわけではありませんし(なにせ一匠は徹底的に女心を理解する必要があり、それができるようパワーレベリングされている最中です)、「悪い子」であるキュラスはあまりそういった弱さを見せようとしませんが(弱いことは彼女にとって非常にセンシティブな問題です)、好きだと連呼していたときの朦朧とした気持ちに、もっともっと雑に一匠にダル絡みして、一匠に可愛がられて愛されてほしいと思っています。それに、花園で垣間見ることができますが、キュラスにもなかなかすごいところはありますから、そういったところもぜひすごいと言いたいです。キュラスは悪い子ですが、好きですし、大切ですし、なかなかやるところもあるのです。

 だからこそ、

「何でそいつは弱くても良くて、私はダメなの?!」

 キュラスが指差したのは俺の陰に隠れたシトロだった。
 桜のベリーは小さく息を呑み、俺は警戒に身を強張らせる。

「私が小さかったころ、そんな風に大事にしてもらったことなんてなかったのに! なんでそいつのことはみんなちやほやするの?! 死にぞこないの出来損ないなのに!!」

 既に濡れた目元に新たな涙が溢れた。

黒いベリーは漆の色 ◆ 

「私が妹になってあげようか? 一匠おに~ちゃん」

「俺の妹ってことはシトロがお姉ちゃんになるぞ?」

「うぇ~……それはイヤ」

赤のベリーと淫の黄色 ◇

 キュラスBADで彼女が叫んだシトロへの感情。弱くても何もできなくても愛されたシトロと見向きもされなかった自分。エリクシベリーとの喧嘩が終わったあと、雑にシトロにうえぇ、という態度をとるキュラスはそうだよなぁ、と苦笑しつつ、そういった軽口を叩ける状況を本当によかったと思っています。一匠くんの本当のご家族? 全部死にました。ダンスが殺した。まあ大した問題ではありません。

 それに、優等生のシトロベリーの周りにいる年少組は決して良い子たちとは言えないというか全員人殺しの化け物なのですが、ともあれたいていシトロをそれなりに好いているので、一人くらいシトロはちょっと……という子がいるのもシトロの人生の彩りのためにもよいような気がします。

 ダンスはこう、相棒感があるのに年下の少女と対等に主導権を奪い合ってそういうことをしているというインモラルさがあるのですが(しかも浮気属性があります)、キュラスは本当に悪い男がいっぱいいっぱいな女の子をいいように誑かして、その子もまんざらでもないような感じが滅茶苦茶不健全でよいと思います。シトロはびんたしてもいいです。

「お前はダメな奴だと思ってた」

「見直した?」

 くるくるとバトントワリング。
 仄かに上気した頬と汗に濡れた髪、それに笑顔が眩しい。
 若いな、なんて台詞が胸を過ぎる。俺だってまだ社会的には子供の部類だが。

「見直した。本気で行くぞ」

ミックスベリーと藍の口

 佇まいをスポーティと表現される彼女が、花園に多くある日常の一コマで得たこの純粋な一言は、間違いなく打算のない一匠の本心の言葉で、このシーンのことはずっとずっと、キュラスに関わる絶対に誰かが口にすべきことだったものとして強く記憶に残っています。花園における安全さを不穏にしている一人は間違いなく彼女でしょうが、BADのように剪定され花束から除かれた一人になることなく、それでも愛されてほしいと願ってしまいます。

アプスベリー

「はじめまして。私はアプスベリー。これからあなたが私に期待する未来図をひとつずつ裏切って、すり潰してあげる」

緑のベリーは貪の色

 最悪女。性格が悪いとしか言いようのないやつで、実際BADではシトロとダンスという聖域(色んな意味で)をねじ曲げている邪悪の塊です。そうでなくとも本編の段階でキュラスはアプスに滅茶苦茶されていて、花園ではベリーたち特有の仲間意識の欠如もあって人格に異常を来すほどキュラスにアプスが滅茶苦茶にされています。あぷ。

 花園でのボロクズのような扱いを見ているとそんなに……となりますが、本編とBADを見るとそうだね、としか言いようがなくなります。

「あぷあぷ言ってるのに強心剤なんか作れたのか……?」

「こうやって――」

 フィルターを置いたラムは胸の高さで「何か」を掴み、ぶんぶんと上下に振る仕草を見せた。

「逆さまにして振ってたら、いつものアプスが出て来る」

(酷ぇ)

赤のベリーと業の青

 アプスベリーは間違いなく最悪女で、性格が完全に終わっているのですが、魅力がないかというとそんなことはなく、むしろ僕は彼女のことが大好きです。エリクシベリーは裏ボスとして格が高いですが、アプスベリーは館の知識・技術担当の悪党としてあまりにも格が低いです。その下劣さは彼女の魅力を損なうどころか、くらく輝かせているようにさえ思います。

 そして、このシリーズの強い特徴なのですが。

「久しぶりの×××なんだもん」

 卑語を平然と口にするアプス。俺は頬を赤らめた。

緑のベリーと空の鞘 ◆

 館のベリーも、そして一匠も。「そういった言葉」がとても苦手です。皆めちゃくちゃ恥ずかしがります。品性下劣なアプスだけが平然とそれを口にして、相手を赤面させる。その様はひどくどきどきさせられるものがあります。さらに、

「すごいでしょ? 私ね、きっとベリーの中で一番気持ちいいよ」

緑のベリーは沼の色 ◆

 技巧的な問題ではなく、単なる身体構造の問題として。アプスベリーの一部は最高です。金色の髪の矮躯の少女。しかも性格は邪悪そのもの。それでいて一人だけやたら猥褻なことを言い、身体的なそこは完璧。最悪に最悪を重ねて最悪をぶちまけたようなベリーなのですが、悔しいことに好きです。

 そもそもカルアにせよラムにせよ一匠が述べているとおり悪であるには違いなく、間違いなく人を殺めていないのはシトロだけです。本編ではダンスもそうでしたが、あいつは全人類-1抹殺を達成したので、今のキル数は館ランク1位です。

 とはいえ、一匠が表現しているように彼女達を悪とするならアプスは邪悪で、悪質さは全く違います。自らの望む行動を採った結果、副次的に悪行が発生している他のベリーと違って、アプスベリーは邪悪な振る舞いを好き好んで行います。

 花園のキュラスも悪いことが好きと言っていますが、それはしょせん不良少女のレベルです(アプスに対しては平然とラインを越えますが)。アプスは人の尊厳を踏みにじり、破壊し、ねじ曲げ、全てをグチャグチャにしてそういって破滅して死んでいく相手を楽しむ女です。好きなことをやって副次的に悪行が発生しているのではなく、そもそもの主目的が悪行であり、しかもその程度は度が過ぎています。

 なのでキュラスがアプスを滅茶苦茶にしていても館のベリーは誰も咎めません。不可逆的に壊れたわけではないので、彼女の知識と技術がいるときはバグっているアプスを一時的に正常に機能させて使っています。

 まあアプスだしいいか。

 そういう空気が館にはあります。もっともそれはアプスに限った話ではなく、BADで一匠が剪定を行ったとき、「まあいいか」と周囲は気にしませんでした。ベリー同士の関係は面倒ですが、そういった淡泊なところもそもそもあり、そしてアプスは特に野放しにしておくとめんどくさい類です。

 館主のエリクシベリーと旧知であるということも手伝ってめんどくさいので、たいしたことのないキュラスが雑に復讐している分には都合がいいです。館をシトロにとって安心安全な場所にしておきたい一匠としては、その聖域はコントロール下に置きたいものでもありますが。

 カハナベリーとアプスベリー。
 知謀タイプで似ている二人だが、品性には天と地ほどの開きがある。
 男もドン引きするような卑語をまき散らすアプスの言葉遣いはカハナにとって耳の毒なのだろう。
 現に姫君は先ほどから顔を紅潮させ、俺と少女の営みから目を背けている。

紫のベリーと緑の夜 ◆

 アプスベリーとカハナベリー。その強烈な魔性の魅力を語り尽くすにはどうしても情事に触れざるを得ず、そしてあくまで穏当に紹介したいこの記事でそれはできません。アプスはまだなんとか項目をひとつ作れたのですが、カハナは無理です。あれこれ考えましたが、どうしても穏当には書けません。カハナを穏当にオブラートに包んで語っている時点でもうカハナに負けているようなものです。柔弱上品お姫様の誘い受け泥沼トラップについてそういう要素抜きにうまく語れる気がしません。最悪のカスのアプスはそれ抜きにして多少書けるのでまだ救いです。とはいえ、どうしても皮相的になってしまうのですが……僕の実用ベリーはカハナがトップで次がアプスです。×××でものを考えているのかな?

「ねえねえ」

 未だ表情に熱っぽさを残したアプスが俺にしなだれかかる。

「私、役に立つでしょ?」

「……」

「ね? ね?」

(中略)

「ああ、そうだな」

「でしょ? ね、ね、いいコンビ? いいコンビだよね?」

紫のベリーと緑の夜 ◆

 「いいコンビ」かどうかはともかく、一匠にとって「相棒」とはダンスベリーを指します。打算で考えられるからこそ、一匠にはアプスの言いたいことがわかります。アプスの知謀、エリクシベリーとの長い付き合い、技術、そういった様々なものは一匠の役に立ちます。一匠がうまくアプスを扱える限りにおいて。

 しかし、一匠の相棒はダンスです。たとえ最後の最後で裏をかかれて人類が滅んだとしてもそれは変わりません。困ったとき、知恵を借りたいとき、一匠は相棒に相談し、相棒はそれに応じてくれます。

 けれど、アプスは有用な毒です。使い道はあるけれど、危険すぎます。妻であるシトロが館から出られない以上、同じ館に住むアプスはハイリスクです。コンビになる、後ろ盾に立ち庇護することなどありえません。

 子供をいたぶるのは趣味ではないが、『アプスベリー』にはここで死んでもらった方が良さそうだ。
 二度と浮かび上がってこないよう、汚泥の底に沈めよう。

緑のベリーと草の床 ◆

 本編やBADではなく花園において、「ここで死んでもらった方が良さそうだ」とまで言われる女なだけはあります。

 こういったどうしようもなさと、でもこいつ頭回るし技術もあるし床での技術も高いし恥ずかしいこと言うし全ベリー中なんかの性能が最高なんだよな……と無限に謎の好感度の上がり方をする女です。最悪。なんでこんなベリーを好きにならないといけないんだ? 趣味が悪いからです。はい。

 キュラスの方は自業自得だが、アプスはさすがに可哀そうだ。
 こんな場所で眠ってしまったら風邪を引いてしまうだろう。

 俺は小さな少女を抱き上げた。
 羽のように、いやそれよりも軽い。

緑のベリーと鶴の厄

 しかしながら、元々の『アプスベリー』はともかく破壊された結果のアプスは本当に悪辣さの欠片もない少女なので、そちらのアプスが苦しんでいたり泣いていたり、困っていたりすると弱いのが一匠で、周りも少し呆れている節があります。弱アプスとシトロに弱いのは仕方ないですからね。ノチェロ姉も深く頷いています。

「病気……」

「そう、病気。あなたは小さなものばかりを愛でるようになっている」

「……」

「それは病気」

青いベリーと櫨の枝

 砂場一匠がロリコン扱いされるのも、無理からぬ話です。もっとも、彼の場合「子供を損なうことはあってはならない」という最低限のルールによって子供を特別扱いしているところはあるので、そこはくんであげるべきでしょう。ロリコンですが。あぷ可愛い集を語りたいところではあるのですが、ロリコンの誹りを回避できそうにないので措きます。なにより僕はアプスベリーも大好きですからね! あぷあぷしてる方も好きですが!

話し足りないこと

 どれだけ述べても語り足りないことがあります。書けないカハナはともかくとして、カルア、シトロ、ラムについてはせめてもっともっともっと話したいです。ラムに少し触れることはできましたが、カルアとシトロについてはまるで足りません。

 カルアベリーの痛切なまでの熱愛について語らないことが許されるでしょうか。ここで終わるのが僕は悔しいです。カルアつむりくらいの話しかできていません。面白かわいいだけの子じゃないんです。本編の終わりは辛かったです。あまりにも。人類はダンスのトロフィーなのでどうでもいいのですが、カルアが辛かった。シトロベリーはまだ失恋として受け入れようと頑張っていましたから、カルアが本当にきつかった。

 一匠やダンスやラムやエリーの場に立てばこれは矜持の話であり、カルアとシトロの「愛」はおそらく最強の敵ですらあります。ですがそれは否定されるようなものではなく、プライドとともに歩かなければならないものでもありません。深くて狭い愛情を貫くということについて、カルア以上にやりとおした子はいないでしょう。シトロは一匠の妻です。ダンスの想定よりは実力行使するタイプですが、夫婦関係の尊重を重視しています。館の仲も同様に。だからこそ彼女は多くに好かれ、特に一匠の溺愛を受けています。

「……敗けない?」

「敗けない」

 頭部の皮膚を剥がし、海老茶色の髪を手で梳く。
 子供の髪は柔らかくみずみずしい。

「勝つのは俺だ。ちゃんと帰って来るから待ってろ」

 うっとりと目を細めたシトロはこくんと頷いてくれた。

Re:桜のベリーはシトロベリー

 夫婦だからこそ愛している砂場一匠を信じる。シトロはそうする子です。

 対するカルアベリーは全く違います。彼女はそういった「物わかりの良さ」を全く持ちません。だからこそ、彼女の愛情はときにあまりにも悲痛でした。

 別れ際、シトロは一匠との別れをよいものにしようと頑張ってくれます。

 彼女の向こうにはシトロベリーの姿もあった。
 幼いベリーは両目に涙を浮かべながらも、精一杯の笑顔で俺を見送ろうとしていた。
 俺の記憶にその姿を留めて欲しいと言わんばかりの笑顔。
 その頬には清らかな涙がとめどなく流れている。

赤のベリーはエリクシベリー

 同じとき、同じ場所にいるカルアだけが違います。他の皆がそれぞれの形で一匠の勝利を尊重し、その価値に値する見送り方をする中、一人だけ最後の最後まで絶対に諦めませんでした。

「私、もうあなたを殺したりしないから!! あなたと一緒になれるように頑張るから!!」

 ぼろぼろと流れるカルアの涙は熱を帯びているようだった。
 無表情で端正な表情が崩れ、彼女は雪の肌を真っ赤にしている。

「だから、行かないで……!」

赤のベリーはエリクシベリー

 アプスの「コンビ」と違って、カルアのこういった叫びには滑稽さは全くありません。ほんとうに、どうしようもなく好きになってしまったなら、もうどうしようもないんだという思いだけがただあります。

 一匠はそれに完敗する人間ですが、ダンスベリーが彼の相棒である以上その欠点は完全にカバーされます。一匠は自分はもうこれ以上愛されることはないかもしれない、ということではなくカルアとシトロの心の傷を思って苦しんで、それでも離れていくことができる人間です。人と人外の、ビターな別れでした。

 まあダンスがこのあとあなた以外のすべてを蝕むのですが。

「……おかえりなさい」

 カルアの瞳から新しい涙の粒が零れ落ちた。
 涙でくしゃくしゃになっていた表情に笑顔が浮かぶ。

「お待ちしておりました、一匠様……!」

白いベリーと秋の空 ◆

 花園一話のこれだけで、人類滅んだ価値はありました。カルアとシトロが泣いている。矜持のためにダンスと一匠は館をでなければならない。

 じゃあどうするよ! 人類を滅亡させる!

 寂しくなったので一匠は館に帰ってきました。

 完璧です。シトロはともかくカルアは人類皆殺しにしたことについてフランにどれだけお礼を言っても足りません。

 そんな彼女の強い愛は本編で一度一匠を敗北させているのですが、ここまで愛を貫かれるとかっこいいなと思ったのは一度や二度ではありません。

「一匠様こそ、カルアを甘く見られていませんか?」

 先ほど感じた白炎と同じ熱が俺の頬に触れる。

 思わずラムのフロアに後ずさる。

「『付かず離れず』?」

 こつりと更に一歩。

「そんな恋の在り方があると思います?」

白いベリーは詰みの色

「カ~ルア~。私とやり合う気ィ?」

「やり合う気です」

 カルアベリーは背筋を伸ばし、検事のような目を見せた。

「こればかりは譲れません。一匠様は私がいただきます」

「私、別に独り占めするつもりはないんだけど? カハナみたいに皆で――」

「私は独り占めするつもりです、ノチェロ」

 平手のような言葉が飛んだ。

「私は一匠様を程々に愛することなんてできません。全身全霊で独り占めさせてもらいます」

Re:白いベリーはカルアベリー

「こんなやり方で男に好かれると思うのか!」

 喝破した俺は脚に力を込め、立ち上がろうとした。
 俺の熱い説得によってカルアの腕からは力が抜け――――――――ていない。
 カルアの瞳には熱情しか見えない。

「好かれるかどうかなんて知りません。好きにさせて見せます!」

 珍しく大声を上げるメイドの姿に今度は俺がたじろいだ。

Re:紫のベリーはカハナベリー

 なりふり構わないカルアの姿勢はときにおもしろおかしいのですが、究極の場面に至ったとき、カルアベリーの熱情は強く、かっこよくさえ見えます。なりふり構わずなんでもやる。プライドとか、相手の尊重とか。そういったものは彼女の愛が燃え盛るとき無意味です。なんといっても、こうやって吠える一匠をカルアは自分の愛で打倒した実績があります。100年閉じ込めればどう考えてもカルアは勝ちます。普通に生活していても滅茶苦茶カルアに絆されている男の日常がカルアまみれになって耐えられるはずがありません。

 そういう勝ち方はプライドが許さないだろうとダンスなら思うでしょうが、カルアはそういうベリーではありません。だからこそカルアはときに面白く、ときにあまりにも強く、そして妻シトロがありながらどんどん一匠の気を惹き続けているのです。

 カルアはいつも本気です。あのエリクシベリーに皆が3時間ずつ復讐できる好機でも、彼女は微塵もブレません。

「の、ノチェロ! 放してください! 私は結構です! そっちは勝手にやってください!」

 カルアがバタ足をするように両脚を動かすと、メイド服から甘い香りが漂う。

「わ、分かりました! 一回だけ味見をしたらお返ししますから! くっ、このっ! ……い、一匠様は疲れている時が一番美味しいんです! せめて最初のひと口は私に――――!」

Re:赤のベリーはエリクシベリー

 やっぱりカルアベリーおもしれー女かもしれん……

 とにかくカルアには語れること語りたいことが山程あり、でてくるたびにカルアは面白かったり可愛かったり様々な魅力を見せてくれるので無限に語れるのですが、どうしようもないです。

 シトロについても語り尽くせません。語り尽くせないのですが、僕が語る必要はないかもしれないとも思います。シトロベリー強火勢筆頭は夫の砂場一匠さんなので。シトロ大好き人間の狂いっぷりとシトロの柔らかな応対は無限に味がします。ただ、シトロと一匠があまりにも相性が良すぎるからこそ、シトロには見えない場所でダンスと一匠が「ただいま」「おかえり」を何度もしている最悪浮気状態もまたおいしくなるのですが。シトロは未熟だからこそアプスに歪められることもあり、愛されるシトロへ向けるキュラスの感情もまたおいしいものです。シトロはシトロ個人のその魅力あふれる気質だけでなく、周囲を含めた関係性で見たときに特に味を増すように思います。エリクシベリー様にとってさえ、そこは踏み越えてはならない一線です。

 ラムベリーについては、もう多くを語りません。花園における多くの彼女の姿をここでは語っていないのですが、彼女のコミカルで不器用な部分をそれはそれとして愛しつつも、ラムベリーは! かっこいいんだよ!! という自分がいるので文章にしているとラムはそれだけじゃないんだって気が狂って僕が耐えられません。でも様々な面を含めてまるっとラムベリーを食べないのはもったいないです。このnoteは彼女の一面をあまりにも強く照らしすぎているので、ぜったいにすべてを味わうべきだと思います。BADですか。一匠→ラムの強火幻覚かと思うくらい強烈な公式BADです。脳焼かれますあれは。

 ノチェロ姉妹の話はほんとうに難しく、特に妹については困難を極めます。ノチェロ姉については、やはりBADのVSエリクシベリーでしょう。最強であり優しい彼女のすべてがあそこに詰まっているように思います。砂場一匠とかいうロリコンのせいでよからぬ趣味を開花させつつありますが、仲間がいるのでよいのではないでしょうか。最強でありながらシトロとあぷあぷにいじめてもらうとか誰だって頭おかしくなりますからね。

 無理です。カハナの話だけはできません。絶対にしません。あの姫君に意識を向けたら終わると砂場一匠が身を以て教えてくれているのにわざわざ死ににいくのはバカのすることです。べつに彼女のフロアで3回ルールで死ななくても普通に腎虚で死にます。カハナの魅力はそれだけじゃねーだろー! って叫んでいる自分もいますし、「エリクシベリー、アプスベリー、ノチェロベリー」といった特に古い関係から一歩離れてそれでも決してエリクシベリーから遠いわけでも、理解しないわけでもない彼女の在り方など語りたいところは関係性の暴力で山ほどあるのですがどこから回路が繋がってあいつに溺れだすか全く読めないので絶対に語りません。もうこれだけの文章量になってしまったことさえ危険です。僕はこのnoteを書き始めたときには全ベリーが好きなのは前提として、特に早口になってしまうベリーとしてはカハナを想定していなかったのですが、書くために読み返していてこいつのことを考えるとヤバいから意識にのぼらせないようにしていたと気付かされました。確かに普段は早口になれませんよ。考える前に実用しているので……そして悔しく思いながら色々考えるとカハナってそういった点を除いてもめちゃくちゃ魅力的だよなと思うのですが、そういった不埒な意図一切なしで姫君に近づいたとして無事で済むとは思えませんので僕は逃げます。好きなキャラクターについては語り尽くしたい人間なのですが、カハナは無理です。僕の頭がだめになるので。

 好きな作品を語っているといつだって語り尽くせないのですが、それでも語りたくなるのだから不思議なものです。

 君も館を訪れよう。この夏、カルアつむりが涼しい!

「カルアつむり?」

 くすりと名付け親が微笑むのが伝わる。
 いいえ、と彼女は否定した。


「パーフェクトカルアつむりです」

白いベリーは詰みの色


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