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音を導に闇を行け『Dark Echo』

概要

 『Dark Echo(以下、本ゲーム)』はAnd App、Google playストア、steamで販売中のパズルゲームだ。


 大まかなゲーム内容としては、周囲を暗闇に包まれた世界に放り込まれた主人公が、音を頼りに世界からの脱出を目指すというもの。

 ステージは表ステージが40面、裏ステージが40面の計80面。

 ここからは本ゲームのネタバレを多大に含むこと。記事内のスクリーンショットはgoogleplay版であること。以上の2点をあらかじめご了承いただきたい。


視覚化された音

 ゲームを始めると、主人公は周囲を闇に包まれた世界に放り込まれる。光源など存在せず、出口どころか道すら定かではない。

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スタート地点。足跡が主人公で、周囲をロングタップ、またはタップで移動

 だがこの暗闇では「音」を視認できる。足音や声だけでなく、水の滴りといった環境音すらも、だ。

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 主人公はまるでコウモリのように、音で空間を認識する

 音は歩く、主人公をタップするなどで出す事が可能だ。これを活用してゴールへと続く道を探すのがこのゲームの流れだ。

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 一面の出口。太い線が乱反射してる場所がゴールだ

 ゴールにたどり着くとまた別の空間に放り出され、新たに出口を探す。これを繰り返して闇の世界から脱出する事が最終目標になる。

 各ステージにはお宝と呼ばれるアイテムが隠されているが、実績解除用のコレクターアイテム以外の用途はないので無視しても構わないだろう。


脱出を阻むもの

 勿論、パズルには障害はつきものだ。場合によっては主人公を脅かす存在も現れるだろう。主人公を害する存在は赤い線で描かれる。現実の赤信号がそうであるように、この世界でも「赤」は危険を示す。

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赤い線に触れると主人公は死ぬ

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死にたくなければ、「赤」は避けろ。絶対に

 「赤」は障害物だけではない。この世界には主人公以外にも生物が存在している。怪物だ。赤い集中線のようなそれは、普段は動かずにじっとしているが、音を感じると凄まじい勢いで音の発生源へと駆け付ける。

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主人公を認識し、追いかけてくる怪物。捕えられたら死が待っている

 怪物を振り切る方法は距離を離した後、動かずじっとする。もしくはスワイプで石を投げて気を逸らすかだ。ただし、何も知らないプレイヤーは石を投げる方法が分からず、逃げ回るしかないだろう。

 もし気付かれたくないのなら、タップを繰り返すことで移動は遅いが音を立てないように歩く事も可能だ。その場合は歩いて音が出なくなるため、周囲の状況が把握できなくなることにも注意。

 また、主人公に危害は加えないが進行を妨げるものもある。一つは水だ。水は青い線で描かれており、入るとどんな状況でも音を発する。出るときも同様だ。そして水の中では静かに歩こうと音が響く。

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水中では動きも鈍くなるため、怪物に追いつかれやすい

 そして水中で出した音は地上にも届く。怪物に線が届かないように注意する必要がある。

 もう一つの障害は鍵だ。鍵は黄色の線で表現される。これに触れることでギミックが解除され、これまで塞がれていた通路やゴールへと進むことが可能となる。

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画面右側にうっすらと見える黄色い線が鍵。色合いがやや見えにくいのが難


一つの要素を突き詰めた佳作

 やはり評価点としては、「音」という我々が当たり前のように感じているものに目を付け、一つのゲームとして完成させたという事だろう。

 これまでにも『エネミーゼロ』などの音を重要なファクターとしてゲームシステムに取り込んだ作品はあったが、音そのものをゲームの要とした作品は音楽ゲーム以外ではあまり見かけられなかった。それを実現させられたというのは素晴らしいと思う。

 また、音がコンセプトのゲームであるため、環境音や怪物の唸り声などの音質にも非常に気を配られている。歩くたびに響く靴音、水の滴り、怪物の唸り声。それらが暗闇の世界に現実味を与え、臨場感を増す手助けとなっている。

 ネタバレになるが終盤から流れ出す風の音は、脱出劇の終わりを予兆させるものとして地味ながら良い演出だと思う。

 もう一つの評価点はビジュアルだ。この暗闇の世界は黒と白、そして3色の色だけで構成されている。しかし見える音の反射は、時に芸術的になる。

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真円状の空間で出した音。反射した線が幾何学な軌道を描いている

 以前取り上げた『The Room』の記事でも述べたように、筆者はパズルゲームに芸術性も求めている。それはただ綺麗なだけではない、内容と調和した美しさだ。

 音を立てると反射しながら走る白い線、水に入った時の青い線、ゴールに触れた時の通路に広がる音の波……本ゲームはそういった視覚的な美しさも兼ね備えていた。

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 反射する足音。白と黒のコントラストが見ていて楽しい

 最近SNSや動画投稿サイトなどで、肉が焼ける音や木々が風に揺れる音といった人間にとって心地よい音を録音した動画が流行している。このゲームはその先駆けのようなものかもしれない。

プレイヤーの要求とゲーム性の剥離

 では、何故本ゲームは佳作の域を出ないのか。それはこのゲームが非常に難しいからだ。

 難しいという表現には様々なニュアンスがある。この場合、面白い難しさかつまらない難しさかで言うと、本ゲームの「難しい」は後者となってしまっている。理由としては本ゲームのゲームデザインにあると筆者は考える。

 本ゲームは音の一要素に特化させて作られている。主人公の挙動やパズルのギミック、敵などあらゆる要素が音を意識されていた。上述したようにコンセプトや芸術性は素晴らしいものだ。

 だが、それらがパズルの面白さに繋がっているかと聞かれれば、残念ながら素直に首を振ることは出来ない。最初こそ音を立てるべきかどうか、この道を進むべきかどうかをプレイヤーが確信を持って判断し、実際にその通りに解法が示されていた。

 しかし、中盤以降からはパズル要素が薄くなってくる。例えば、怪物の動きをコントロールするためにひたすら石を投げ続ける羽目に陥ったり、コンセプトだったはずの歩いて周囲を探るという事が怪物の多さゆえにひたすら忍び足を強いられたりだ。

 明らかにプレイヤーがやりたい事とステージ構造の不一致が強くなってきたと確信したのはこの辺りからだ。筆者としてはアクション要素のあるパズルをプレイしたいのであって、ステルスアクションがやりたいわけではなかった

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特に不満を感じたステージ。2体の怪物を誘導して2箇所の鍵を取るのだが、パズル要素よりもアクション要素の方が強く、水により難易度も非常に高い

 初見殺しの多さも難点だ。初見殺し自体はある種のサプライズとしてこの手のゲームには付き物だと筆者は受け入れている。しかしリトライ性があまり良くないこのゲームで一つのステージに3、4つと重ねられるとストレスの方が強く感じてくる。

 また、後半になるにつれてステージのバリエーションの乏しさが浮き彫りになってしまうのも残念に思えた。特に酷いと感じたステージ構成は、終盤のひたすら障害物も敵もいない空間をほんの僅かなヒントだけで歩かされるという物だ。

 終盤ではイライラ棒のように即死エリアを忍び足で歩き続けるようなステージを3つほど出されたのもよろしくなかった。本ゲームはお世辞にも操作性が良いとは言えず、触れると即死のエリアすれすれを長距離歩かされるのは率直に言って面白くない。


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後半のとあるステージ。青と赤の組み合わせのビジュアル面では評価したいが、ゲーム面ではただのイライラ棒でパズルゲームとしては逸脱している

 また、これまで評価点だったビジュアル面に関してもクリア後にプレイできる裏ステージに入るとやや評価を落とさざるを得なくなる。白い背景に黒い線というのが非常に目に悪い。プレイヤーへの配慮が足りていない印象を受けてしまう。

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黒と白が逆転した裏ステージ。敵の配置などが変わっているが一番の敵は画面の見辛さ

 個人的には白の表現をもう少し和られば……と思わざるを得なかった。

 

総評

 

 筆者は本ゲームがコンセプトありきで始まったプロジェクトなのではないかと感じる。本ゲームは明らかに芸術面で秀でているにも関わらず、パズルとしては良く言えば成長が期待できる、悪く言えば未成熟な代物であった。

 このゲームは音を活用するパズルでありながら、中盤以降怪物からひたすら逃げ回るステージや、音も使う必要がないような場所で繊細な動きを要求するようなステージなどコンセプトをゲームが妨害している節すら感じられる場面もあった。

芸術としては良、ゲームとしては及第点といった印象だった。

最後に

 さて、本レビューでは辛口となってしまったが、本ゲームの値段はどのプラットフォームも200~300円と手頃であり、出来自体も値段相応ではあると感じる。

 光る場所があるゆえに厳しい評価となってしまった事をこの場を借りてお詫び申し上げたい。







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