見出し画像

Kindle本「カフカの『ある犬の探究』を読み解く」を出版しました

Kindle本を出版しました。「カフカの『ある犬の探究』を読み解く」です。『ある犬の探究』の抄訳と作品全体の解釈を1冊にまとめています。

『ある犬の探究』は、一人称の語り手の犬(以下、探究犬)がこれまでの人生を振り返る話で、人間はまったく登場しません。

主人公の犬は犬族の中で異和感を感じながら育ちます。若い頃に七匹の音楽犬と出会い、大きな衝撃を受けます。それをきっかけに、犬族が何を食べて生きているのかについての探究を始めます。探究犬は、食物は大地からだけでなく、空からもやってくるのではないかと思います。それを証明するために断食を始めた探求犬の前に狩人犬が現れ……。空中犬という奇妙な犬も登場する未完の短編です。

カフカはこの作品で、自身のこれまでの人生を寓話的に語っています。カフカが何を考え、どのように生きてきたのかを知るうえできわめて重要な作品です。

短編としてはかなり長い作品なので、全体を訳すことはできず、音楽犬が登場する部分、空中犬について語られている部分、狩人犬と主人公の犬との出会いが描かれた部分だけの抄訳となっています。既訳との大きな違いは、物語末尾に登場する狩人犬を女性と見立てて訳しているところです。これは、第二部の「解釈」篇で詳しく述べていますが、狩人犬をカフカの恋人ミレナと捉えたためです。

「解釈」篇では、カフカの伝記的事実を参考にして、作品全体の解釈を行っています。音楽犬、空中犬、狩人犬とは誰のことか、探究犬が行う食物探究や断食実験は何を意味しているのか、狩人犬が歌う歌とはいったい何なのかなどを、相互に関連づけながら明らかにしています。

補足が二つあります。「補足1」では、狩人犬と、狩人犬が歌う歌についてのこれまでの主な研究を紹介しています。解釈が入り乱れていることがわかります。「補足2」では、探究犬と狩人犬の謎のような対話をカフカとミレナの関係を参考にして、細かく分析しています。

本書を読むことによって、『ある犬の探究』が愛を描いた作品であることがわかります。カフカが描いた唯一のロマンチックな恋愛シーンに出会うことにもなります。

目次は以下のとおりです。全体は二部に分かれ、第一部は筆者による『ある犬の探究』の部分訳です。第二部の「解釈」および「補足1」と「補足2」は、別に出版した『カフカ―世界への異和感』に書いたものが元になっています。一部手を入れたところはありますが、内容はほとんど変更していません。

カフカの『ある犬の探究』を読みはしたが、何が書かれているのかよくわからなかった人、カフカがどのような生き方をしてきたのか知りたい人、後期のカフカがどのような境地に達しつつあるのか知りたい人、カフカが描いたロマンチックな恋愛場面がどんなものかに興味がある人――そのような方に本書は向けられています。

【目次】
第一部 『ある犬の探究』(抄訳)
・音楽犬
・空中犬
・狩人犬

第二部 解釈
はじめに
一 共同体への異和感
二 音楽犬たちとの出会い
三 食物の探究とは何か
四 空中からの食物とさまざまな実験
五 空中犬とは何か
六 断食実験
七 狩人犬との出会い
八 音楽学の研究へ
むすび

補足1 狩人犬と歌――これまでの研究――

補足2 歌う犬とミレナ

あとがき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?