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「追憶のレイニー・ジャズ」について

Liryc

Sunsets,rainy,gramophone,
and then time to talk you.
(暮れ方、雨、蓄音機、そして君と話す時間)
It was a peaceful time indeed,but you are gone.
(実に穏やかな時間だったけれど、もう君はいない)
〜Bass solo.〜
I still think about you,but you only looked forward.
(僕はまだ君を忘れられないのに、君は前だけ向いていた)
Even without you,I still listen to jazz on a rainy day.
(君がいなくても僕はまだ、雨の日にジャズを聞いているよ)
Oh,I can't even remember your voice anymore.I wish I had at least kept the memories with me……at least……at least……at least………
(あぁ、もう君の声も思い出せないのに、せめて思い出だけでも手元に残しておきたくて……せめて……それだけでも………)
〜P.f.solo〜
Ah,it's time to go, I have to look forward. But I can't help but want to see you again. Laugh at me.Like that time again.
(あぁ、もう時間だ、前を向かなくちゃ。でも、また逢いたいと思ってしまう。こんな僕を嗤っておくれ。あの時みたいにさ。)

Story

 暮れ方、雨の音、蓄音機。この時間は、かつては君のための物だった。
 雨が降る日は決まって夕方ごろに君がドアベルを鳴らす。雨の日は、ただ外を歩くだけで気晴らしになるのよ、なんて言いながら蓄音機の方に歩いて行って、いつものジャズをかける。君とのその時間は穏やかで、外の雨の音と蓄音機から流れる音に耳を傾けながら、君と話してうとうとと微睡んだものだ。
 今この場には君はいないけれども、この曲を聴くたびに、雨が降るたびに、果ては蓄音機を見たときでさえも、君の面影がよぎる。たった少し話すだけの関係だったのに、君は僕の中に、たいそう大きな影を落としていった。
 君がいなくなってしばらくたつけれど、今でも雨の日は決まって、暮れ方にあのジャズを流す。思い出の中の君を忘れたくなくてかもしれないし、単純にまだ君の面影に縋っていたいだけなのかもしれない。
 あぁ、こんな哀れな僕を笑ってお呉れ。君はいつでも、前だけを見る女(ひと)だった。後ろを振り返らない女(ひと)だった。君からしたら、君の面影に縋っている今の僕はさぞ滑稽だろう。あぁ、でも、僕は悲しいほどに君の事を想ってしまうんだ。もう声も思い出せない君の事を、せめて声以外は忘れたくないんだ。ほんの少しの思い出だって、僕の中に置いておきたいんだ。………君の面影を、まだ追いかけていたいんだ。
 安楽椅子を揺らして、あの時の思い出を振り返る。思い出に縋りついて、もう戻ってこない君を、僕の中から逃がすまいとしがみつく。あぁ、なんて愚かなことだろう!
 いい加減、前に進まなくっちゃいけない。頭ではわかっているんだ。ただ、心がまだそれを許しちゃくれない。あぁ、もう一度だけでも、君に会えたらいいのに。
 もう長いこと、この習慣を続けている。雨が降って陽が落ちてくると、またあの時みたいに君がひょっこり顔を出す気がして。また軽い足取りでレコード台に行って、あの時みたくジャズをかけてくれないか。そう思って。
からんころん、と、玄関で音が聞こえた。ちらとそちらを振り返っても、もちろん誰もいない。
しばらくして、あの時みたいに、思い出のジャズが流れてくる。
「あぁ、僕を嗤いに来たのかい?またあの時みたいにサ、ゆっくりしていきなよ。」
 そう口の中で呟いて、僕は微睡に落ちた。

Talk

 さてこのお話、すでにいなくなった「君」に対する「僕」のお話ですが、思ったより感情が重たくなってしまったなァ……という気持ちでいます。
 文章がだいぶん古い感じになっているのもなんだか……私の好き全開ですね。曲名の「追憶」から何故か「雨の音、蓄音機から流れるジャズ、安楽椅子の揺れる音。そこに君はいない。」という情景を思い起こし、上の文章を作成しました。
 今回マジで自分の「好き」を詰め込んだ作品になったので、ぜひ聞いていただければな、と思います。
 ……この文章を読んだ後、もう一度曲を聞いて聞こえ方の違いを楽しむ、というのも私の曲の楽しみ方の一つだと思いますので、それもぜひ楽しんでいただければな、と思います。では。
曲はこちらからも聞けますので、どうぞ。


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