一八三五

一八三五
作 鍬次郎
 
 永倉新八
 斎藤一
 
 土方歳三
 
 近藤勇
 井上源三郎
 原田左之助
 藤堂平助
 沖田総司
 
 山南敬助
 伊東甲子太郎
 
 芹沢鴨
 新見錦
 平山五郎
 服部武雄
 篠原泰之進
 島田魁
 大石鍬次郎
 
 杉村義衛
 藤田五郎

 
  一場 一八九七 (明治三○年) 春 京都・光縁寺
舞台下手奥に墓石が一つ。
上手から外套に身を包んだ藤田五郎が現れる。
岩の前に花を手向け、手を合わせる。
 
藤田 「──ご無沙汰しておりました」
 
下手から汚らしい格好をした老人が歩いてくる。
 
老人 「誰の墓なんだい」
藤田 「…昔の知人です。」
老人 「へぇ、家族でもないのに。殊勝な心がけだねぇ」
藤田 「……そうですね、家族、兄の様な人だったと思います」
老人 「兄、か」
藤田 「はい。しばらく来れなかったのですが、丁度三十三回忌だったので」
老人 「そうか。そんなに経つんだな、あの逆賊どもがおっ死んでから」
 
藤田、ゆっくりと立ち上がる。
 
藤田 「…爺さん。今なら酔っ払いの戯言として流してやるが」
老人 「事実だろうが。ここに眠ってる奴らは皆、時代遅れの侍なんて幻想に取り憑かれた、どうしようもない愚か者たちだ」
 
藤田、外套を脱ぎ、右手に杖を持ち直す。
 
藤田 「たとえ事実だろうと、私にとっては大事な人達だ。愚弄するのは許さん」
 
老人、羽織と傘を脱ぎ、刀を構える。
 
老人 「やってみろよ、小便ガキが」
 
奥で若き日の斎藤と永倉、向かい合う。
 
前面
老人の刀が藤田を襲う。
藤田、仕込み杖で応戦するも防戦一方で、とうとう杖を落とされ、尻餅をつく。
 
奥面(過去)
斎藤が右手に木剣を持ったまま左手で抜き打ち。
永倉、咄嗟に応戦するも、斎藤に押され、一本取られる。
 
永倉 「逆手たァ卑怯な奴め」
斎藤 「勝ちは勝ちだ」
 
藤田 「卑怯だな、二刀なんて」
杉村 「勝ちは勝ちだ」
藤田 「──相変わらずの負けず嫌いだ。まだ根に持ってたんですか」
杉村 「負けたまんまじゃ、あの世であいつらに笑われるだろうが。執念だよ」
藤田 「それにしたって、いくらなんでも意地が悪すぎる。私を焚き付けるためだけに、故人ををああも悪く言うなんて」
杉村 「半分は本音だ。まぁ、この人には世話になったがな」
 
奥面(過去)
山南・土方が現れ、二人が喧嘩する様子を遠くからいじわるそうな笑みで眺めている。
 
藤田 「本当に久しぶりですね、永──」
杉村 「──今は、杉村と名乗っている。お前は?」
藤田 「あゝ、成る程。私は藤田です。藤田五郎」
杉村 「儂は杉村義衛だ」
藤田 「積もる話もありますし、何処かへ移動しますか」
杉村 「──あぁ。それもそうだな。だが、まずはこいつを供えてからだ」
 
前面(現在)
風呂敷を開き、饅頭を供える。
 
藤田 「甘いものが好きでしたね、山南さんは」
杉村 「うん。酒はあまり呑まなかったから、こっちの方が良いかと」
藤田 「喜びますよ、きっと」
杉村 「……実はな、今儂は書き物をしておるのよ」
藤田 「書き物、永──、杉村さんが?」
杉村 「似合わねぇだろう。でもな、こいつは儂やお前にしか書けねぇと思っとる」
藤田 「…と言いますと?」
 
前面
杉村、遠くを見つめがらポツポツと語り出す。
 
杉村 「儂らは、明治政府の足を引っ張った大逆人で、時代遅れの侍崩れ、寄せ集めの人斬り集団なんて呼ばれてよ。もうほとんど死んじまってるってのに、日の本中でひでぇ嫌われようさ。儂らがやってきたことは、間違いだったのかも知れねぇと、そんなことを毎晩の様に考えてた」
藤田 「……」
 
奥面
永倉・斎藤・土方・近藤・山南・沖田・原田の元に、羽織を持った井上・藤堂が走ってくる。
 
杉村 「儂らがしてきたことは、結局何だったのか。あまりにも多くの血が流れた。仲間の骸を踏み締め、ただ我武者羅に突き進んでいった。だが思うんだ。本当に意味はあったのかって」
藤田 「意味、ですか」
杉村 「死んでいった仲間の…いや、儂らが殺してきた者たちの命に」
藤田 「……それで、書き残そうと?」
杉村 「おう、ペンは剣よりも強し、だそうだ」
藤田 「ふっ、何ですか、それ」
杉村 「最近知り合った新聞社の小僧がしきりに言うのさ。これからはこんなもんじゃなく、これが力を持つのだと」
藤田 「成る程」
杉村 「だからお前も、包み隠さず話してくれよ」
藤田 「怖いな、私に隠し事なんてありませんよ」
杉村 「芹沢鴨暗殺、山南さんの斬首、武田観柳斎粛清、油小路の戦い、そして──、一八三五という符号」
藤田 「────何故、あなたがそれを」
杉村 「気付いたのは全部終わってからだがな。ただ何十年と思い出すだけの日々だったわけじゃあねぇ。儂なりに色々探ってたのさ」
藤田 「そう、ですか……」
 
 
前面
藤田、ふと奥面に目をやる。
 
奥面(過去)
過去の自分と目が合う。
 
藤田 「…そうですね、その時が来たのかも知れません」
 
奥面(過去)
斎藤・沖田・藤堂・武田に光が当たる
 
藤田 「話しましょう、私が知っている全てを。一八三五と呼ばれた私達の仕事を」
 
暗転
藤田・杉村以外 OUT

 
二場 一八六三(文久三年)五月  京都 八木邸 
 
照明→ センタースポット
舞台中央に杉村・藤田板付き
 
四方から隊士たち IN
 
杉村 「まずは芹沢局長たちの話──なんだが、お前が知らない話もある。まずは儂が語ろう。儂らが新撰組になる少し前の話。試衛館を出て、京で浪士組を結成した時の話をな」
 
下手 杉村・藤田 OUT
 
平山 羽織の入った箱を持って下手側に待機。
新見 帳面を開いて上手側に待機。
 
新見 「順番に並べ。一人一着受け取ったら名前と所属を」
平山  「おう、汚すんじゃねぇぞ」
 
隊士たち(近藤・藤堂・井上・原田も居る)、隊服に袖を通したり、隊旗を手に取りはしゃいでいる様子
 
下手 土方・永倉・山南 IN
 
山南  「新見さん、これは一体何事です?」
新見  「これはこれは山南副長、おはようございます。何事と申しますれば、隊服を隊士に配っているだけですが、それが何か?」
山南  「隊服などと、そんな金子の余裕がどこに──」
新見  「──無論、先日大阪で用立てた二百両から」
永倉  「嗚呼、あの両替商の──、確か、鴻池」
山南  「馬鹿な。あれは隊士たちの衣替えと紋付袴を揃えるのに使うと、あの場で決めたではありませんか」
土方  「おいガムシン、俺ぁそんな話聞いていないが」
永倉  「あんたと近藤さんは行かなかったものな。ひと月くらい前に、幹部だけで大阪に金子を調達しに行ったのさ」
土方  「その幹部だけってのは誰の事だ」
永倉  「ちょっと待てよ、確か──、サンナンさん、俺に原田に源さんも居たな。あとは平山、平間に──」
土方  「だから、その中に俺と近藤さんが含まれてねぇってのはどういう事だって聞いてんだよ」
 
土方 永倉に掴みかかる。
 
芹沢 IN
BG→ M3「天狗党」
 
芹沢  「乱暴は良くないな、土方くん」
平山 「おぉ、これは、芹沢局長」
芹沢 「新見さん、平山くん、ご苦労様です。みな(隊士たちへ)、我ら浪士組の隊服は気に入っていただけたかな」
 
隊士たち、はしゃぎながら芹沢たちに礼を言う。
 
芹沢 「と言うわけだ。何か文句がおありならば、局長である私か、ここにいる新見さんに直接言いたまえ。土方・山南、両副長殿」
 
山南 押し黙る。
 
土方 「それじゃあ言わせてもらうがよ、局長殿」
芹沢 「うん。何かな、土方くん」
土方 「確かに、俺たち浪士組には先立つもんがねぇ。それを用立てる必要があったのも、あんたと新見さんの二人で使い道を決めるのも文句はねぇよ。その金子の用立てだって、山南さんが付いて行ったんだ、同じ副長の俺が行かなくったって問題はねぇ」
平山 「…何が言いてぇんだよ、副長殿」
土方 「ヒラは黙ってろ、これは上の問題だ」
芹沢 「平山くん。…では土方くん、何が問題なんだい?」
土方 「この浪士組にはもう一人、局長がいるじゃねぇか、そいつにはきっちり話を通してなきゃあ筋が違う。そうだろう?」
芹沢 「──成る程、確かに道理だ。だがそう言う意味では問題はあるまいて」
土方 「あ──?」
芹沢 「いや何、彼ならば、ほら──」
 
近藤 土方に走り寄る。
BG→ M4「天然理心流!」
 
近藤 「トシ!見ろほれ!隊服だ!似合ってるか?」
土方 「かっちゃん!」
山南 「近藤さん……」
永倉 「おぉ、良いなぁそれ。似合ってるぜ、近藤さん。局長は特別ってか」
近藤 「おぉ新八!お前にもわかるか!いや流石は芹沢局長、これで隊士たちもより一層気が引き締まると言うものです」
芹沢 「いや、私は金子を用意し指示を出したまでのこと。意匠や数を揃えたりと、細かいことは新見さんと平山くん達が」
近藤 「ほほぅ、新見局長達がこれを!いや、だんだら染めとは粋な意匠ですなぁ」
新見 「…これは山形模様ですよ、近藤くん。だんだら、と言うのは横縞のことです。段々になっているものをだんだらと呼ぶのは誤用であり──」
近藤 「なんと、これは失敬!トシ、聞いたか!山形模様と言うそうだ!いや全く、芹沢さんや新見さんと話していると、己の無知を恥じるばかりですな」
土方 「良い加減にしねぇか、かっちゃん!あんたがそんなんだから、俺たちは多摩の田舎者だって舐められるんだ」
井上 「良いじゃろうトシ、田舎もんってのは間違ってないんじゃから。のぅ左之」
原田 「源さんの言うとおりだ。意地張ってねぇでお前も着てみろよ、副長のも特別仕様なんだから文句言うなって」
藤堂 「そうですよ、ほら。山南さんと新八の分も」
永倉 「ありがとよ平助。どれ、儂も袖を通してみるか」
土方 「お前らまで…!」
芹沢 「ははは。みんな気に入っていただけたようで何より。それでは我らは、早速市中の見回りにでも繰り出しますか」
近藤 「芹沢局長、お待ちを」
芹沢 「…まだ何か?」
近藤 「まぁ何です、ここらできっちり決めておきたいと思いましてね」
芹沢 「ほう、何を」
近藤 「残りの金子の使い道を」
新見 「──は?」
近藤 「なぁサンナンさん。鴻池氏からお借りしたのは二百両だったかい?」
山南 「え、えぇ。会津家を通してすでに鴻池氏には返してありますが」
近藤 「うん、じゃあ、その前に借りた平野屋さんとこの百両は?」
山南 「──! 確か、芹沢さんが一度預かると」
近藤 「嗚呼、そうだったそうだった。忘れておりました。今は芹沢局長がお持ちでしたな」
新見 「何が言いたいのですか」
近藤 「いや何、今回鴻池氏から用立てた二百両、これは隊服と隊旗に充てられたとのこと。それは結構。しかも返済も済んでいると。この金子の用立てには芹沢・新見両局長と、うちの山南副長が付いて行っている。その金子の使い道をお二人が決めることには、全く文句はございません。何しろ私は何の役にも立っておりませんからな。で、あるならば──」
芹沢 「成る程、道理だ。新見局長、あの百両は近藤局長に渡してやりなさい」
新見 「良いのですか」
芹沢 「えぇ、何しろ平野屋さんから金子を借りた時には、近藤局長も居ましたからね。我らだけで使うのは道理に合わない。そうでしょう、近藤局長」
近藤 「あぁいや!百両丸ごとなどは使いきれませぬからな、あの時は局長三人で行ったので、ここは公平に三十両ほどで如何でしょうか」
芹沢 「それで構いませんよ、では新見局長、そのように」
新見 「承知、平山」
平山 「はっ」
 
平山 袋に入れた金子を山南に渡す。
山南 中身を確認し、近藤に目配せする。
 
芹沢 「もう良いかな、近藤局長」
近藤 「いや引き留めてしまって申し訳ありませんでした。今後とも、幕府のためにともに働きましょうぞ」
 
芹沢 近藤・土方を一瞥し、上手に去る
新見・平山 続いて上手に去る
 
近藤 「はぁ、おっかねぇたりゃありゃしねぇ」
山南 「いやお見事でしたよ、感服いたしました」
井上 「全くじゃ勇、いつからあんな腹芸できるようになったんじゃ」
原田 「なんかよくわかんなかったけどよくわかんなかったな!」
藤堂 「左之はもう少し、勉強した方がいいみたいだな」
原田 「うへぇ、それだけは勘弁してくれ」
 
一同、笑う
 
土方 「ちっ、気に入らねぇ」
近藤 「なんだトシ、まだ不満か?」
土方 「なんで三十両なんだ、あっちが二百両丸々抱え込んでんだから、こっちが百両使うのが筋ってもんだろ」
近藤 「まぁ良いじゃねぇか。三十両だって大金だ。俺には使い道もわからん」
山南 「それはおいおい決めて行きましょう。皆で相談しながら、ね」
藤堂 「それなら刀を新調したいな、なんて言ったって、刀は武士の魂ですから」
原田 「またそれかよ平助、じゃあ槍振るってる俺は武士じゃねぇってか」
藤堂 「武士には教養も必要だぞ、左之」
原田 「じゃあ俺武士じゃなくていいですー」
 
近藤・井上・原田・藤堂 談笑しながら下手 OUT
 
永倉 「そういえばよ、土方」
土方 「なんだ」
永倉 「試衛館に来てたやつの中によ、一って細っこいのがいたろ」
土方 「……居たが、どうした」
永倉 「いや何。あいつ、いつの間にか居なくなってただろう。最後に会った時には京に行くとか言ってたからな。浪士組の噂を聞けばきっと──」
土方 「奴は死んだ」
永倉 「……何?」
土方 「山口一、だったか。少し前に近藤さん宛に手紙が届いてな。経緯は書いていなかったが、旗本を殺めてしまった罪で腹を切る、とだけ」
永倉 「──そう、か。一、死んだのか」
山南 「……」
土方 「…もういいか」
永倉 「──あぁ、引き留めて悪かった」
 
土方・山南  OUT
山口 奥面に出てくる
 
山口 「だから、あんたは甘いんだよ。永倉さん」
永倉 「…」
山口 「言っとくぞ、その甘さはいつかきっと、あんたと、あんたの仲間をも殺すことになる」
永倉 「…」
山口 「俺は御免だからな。死ぬ時くらいは自分で決める。誰かの言いなりで死ぬのなんて真っ平御免だ」
 
山口 OUT
 
永倉 「……うるせぇや」
 

 
二場 夜 市中 九月 雨
照明→ 月明かり
BG→ M3「篠つく雨」
 
芹沢・平山・沖田 IN
傘をさす芹沢、平山
 
平山 「いやぁ良き夜ですなぁ!飯も酒も女も極上、これでこの雨さえなければ…!」
芹沢 「はしゃぎすぎだよ、平山くん。それよりも、新見局長の件だが…」
平山 「嗚呼、新見局長。そういえば最近見かけませんな。先月の御所の警備の際にも見かけなかった」
芹沢 「やはりそうか。私が褒賞を受け取りに行った時も、名簿に名前がなかった…。近藤局長達から何か聞いているかい」
沖田 「さぁ?私は何も」
平山 「そうですよ、坊ちゃんがそんなこと知っているわけないでしょう」
芹沢 「…実のところ私は、君たちを疑っている」
平山 「芹沢さん…!それは」
芹沢 「君たち試衛館組が家族の様に仲が良いのも知っているし、そんな君たちにとって我々が邪魔な存在なこともね」
沖田 「そうなんですか?土方さんや近藤さんはどうか知らないですけど、僕は思ったことありませんけどね」
芹沢 「ほう、君は我々が目障りではないのかね」
沖田 「えぇ、別に。芹沢さんはいつも私によくしてくれますし、今日も美味しいご飯をご馳走になった。私は好きですよ、芹沢さんのこと」
芹沢 「ははは。そうか、確かに嫌っているのならこんなところまで付いてこないか」
 
沖田 黙って芹沢を見つめる
 
芹沢 「いやすまない、ここ最近疑り深くなっていてね。さて、今日はこの辺でお開きにしようか。おやすみ、沖田くん」
 
芹沢 沖田に傘を渡し、平山の傘に入る
 
沖田 「えぇ、おやすみなさい。芹沢さん、平山さん」
平山 「風邪ひくなよ、坊っちゃん」
 
芹沢・平山 下手 OUT
 
沖田 「(くしゃみ)ああ寒い。本当に風邪引いたかな」
 
笠の男 IN
 
沖田 「嗚呼、お久しぶりです。確か貴方は──、御蔵くん」
 
暗転
 
御蔵・沖田 OUT

 
三場 昼 島原・角屋 九月 雨
 
永倉・原田・藤堂 板付き
並んで朝食を摂っている。
 
永倉 「芹沢が殺されたァ?」
藤堂 「声がでかいよ」
原田 「おう、昨日ここで飲んだ後、あいつら屯所で飲み直すって早々に帰って行ったの覚えてるか」
永倉 「あぁ、芹沢に付いて、平山に平間に総司。その後も何人か……、あれは楠木達だったか、ぞろぞろ出て行ったっけな。」
原田 「その後、芹沢さん達はここで呑んでたらしくてな。寝てるところにずぶり、だそうだ」
永倉 「馬鹿言え。いくら酔ってたからって、芹沢がそんじょそこらの賊に殺されるようなタマか。下手人はどこのどいつだ」
原田 「まぁ詳しい事ぁ俺もよく知らんが、芹沢さんもこの頃、悩みが尽きないとかで寝不足だったとか。それで久々に気持ちよく酔ってるところを、それも寝込みを襲われたとあっちゃあ、存外無理もねぇんじゃねぇかと俺ぁ思うがね」
永倉 「だからってあの人が…、いや待て。あの時抜け出したのは誰だった」
原田 「ん?だから芹沢と平山に平間、あとは…」
永倉 「…総司は!?」
 
沖田 IN
 
沖田 「お呼びですか?」
永倉 「(驚き大声を上げる)総司!化けて出やがったか!」
原田 「落ち着け新八!足だ、足を確認しろ!」
沖田 「何の話です…?」
藤堂 「さぁね。馬鹿はほっといて早く飯食いな」
沖田 「(あくび)そうですね、そうします」
 
井上 IN
 
井上 「おいお前ら!呑気に飯食っとる場合か!」
永倉 「源さん!丁度良かった、朝飯が化けて総司が出た!」
井上 「まだ寝てんのか?起きろ!」
 
井上 永倉・原田を引っ叩く
永倉 「いてぇ!」
原田 「何で俺も!」
井上 「目ぇ覚めたか、ガキども」
藤堂 「馬鹿 と くそ が抜けてるよ、源さん」
井上 「そうか、目ぇ覚めたか、クソ馬鹿ども」
原田 「誰がクソ馬鹿だ」
永倉 「お前だお前」
原田 「あぁん!?」
沖田 「それで、朝から何の騒ぎなんです、源さん」
井上 「あぁそうじゃった、全くこのクソ馬鹿どものせいで…」
永倉 「おぉん!?」
藤堂 「源さん、これ以上餌やらないで!収拾つかないから!」
井上 「うむ、実は昨晩の芹沢局長らの暗殺の件、下手人が見つかったらしくてな」
沖田 「おぉ、それは良い事ですね」
原田 「それでなんで源さんが慌てるんだ?」
井上 「…今日の正午、屯所でそ奴らの処刑が行なわれるそうじゃ」
永倉 「あ?処刑?」
 
転換 八木亭・庭
BG→ M6「粛清」
 
中央 隊士達(間者) IN 右から越後・御蔵・楠木
隊士達(間者)を連れながら土方・笠の男 IN
沖田・藤堂 間者の後ろに立ち、刀を差す。
 
下手 近藤 IN
 
原田 「あ、近藤さん!」
永倉 「近藤さん、これは一体どういう訳なんだ」
近藤 「いや、俺もさっきトシから聞いたばかりだ」
永倉 「土方が…?」
土方 「よく聞けお前達。ここにいる隊士三名、
右から、越後三郎・御蔵伊勢武・楠木小十郎
この三名は浪士組の法度を犯した。依ってこれより切腹を申し付ける。従わぬ場合は斬首だ、いいな」
御蔵 「ま、待ってほしい、副長!」
土方 「何だ、御蔵」
御蔵 「先日取り決めになった法度なら、我らとて重々承知しております。しかし、我らには身に覚えがありませぬ!」
原田 「はっと、って何だ」
永倉 「馬鹿、あれだ。異人が被ってる笠のことだろ」
井上 「違うわ馬鹿ども」
永倉・原田「えぇ!?」
近藤 「…浪士組の中での刑罰の取り決めのことだ。局中法度って言ってな、芹沢局長と俺で決めた──」
「一つ、士道に背き間敷事」
「一つ、局を脱するを許さず」
「一つ、勝手に金策致すべからず」
「一つ、勝手に訴訟取り扱うべからず」
御蔵 「一つ、私の闘争を許さず。…右条条、相背き候者──」
土方 「──切腹申し付くべく候也。よく覚えてるじゃねぇか」
御蔵 「繰り返すようですが、我らには身に覚えが──」
土方 「昨晩、芹沢鴨・平山五郎・平間重助の三人が殺された」
御蔵 「な──、芹沢局長達が!?」
土方 「白々しい芝居はやめろよ。潔く腹切った方が賢いと思うがな」
御蔵 「まさか、我らが殺したと?ご冗談を──」
土方 「──俺が冗談でこんな事をするような愉快な人間に見えてたか?だとしたら愉快なのはお前の頭のほうだったな、御蔵伊勢武」
御蔵 「馬鹿な、こんな、馬鹿げてる…!証拠は!我らがやったという証拠はあるのですか!」
土方 「証拠ならある」
御蔵 「何──?」
土方 「俺たち浪士組は昨晩、島原の角屋で朝まで飲んでいた。まず亥の刻、芹沢局長が、平山・平間・沖田を連れ立って、屯所で飲み直すと言って出ていったのを、複数の隊士が見ている。次いで、皆が寝静まった辺りで、お前たち五人がそろりと抜け出していくのもな。そして明け方、お前たちが連れ立って帰ってくるのを、角屋の人間が見たと言っている」
御蔵 「それは──、確かに、我らは昨晩出て行った。朝方帰ってきたのも事実だ。だがそれは──」
土方 「それは──?」
御蔵 「────ぁあ、いや、違う。違うんだ」
土方 「何が違う?抜け出して、何処へ行ってたんだ?」
 
土方 御蔵に近づき、耳打ちする
 
土方 「俺はそっちでもかまわねぇが、どうするね、御蔵」
御蔵 「──」
 
土方 小刀を御蔵に渡す。
御蔵 着物を脱ぎ、腹を切る。
笠の男 刀を構える。
 
土方 「まだだ────、良し」
 
笠の男 介錯をする。
 
永倉 「…? おい源さん、あれは誰だ(笠の男を見やり)」
井上 「うん…? ふむ…いや、わからんな、何処かで見た気もするが…」
原田 「そうかぁ?最近入った新入りとかじゃねぇの」
 
土方 小刀を拾い、血を拭って鞘に収める。
笠の男 土方の持つ小刀と自分のものを交換し、また奥に控える。
 
土方 「さて、お前らはどうする」
越後 「くそぉっ」
 
越後 藤堂から刀を奪い、真っ向に振り下ろす。
 
越後 「ぬぇぇぇぇい」
 
土方 刀を上に弾く。
沖田 その間をついて腕と足の腱を切る。
越後 刀を落とす。
 
越後 「ぐっ」
沖田 「駄目だよ平助。刀は武士の魂なんでしょ。簡単に取られちゃあ駄目だ」
藤堂 「悪い──、総司」
土方 「平助、お前がやれ」
藤堂 「え──?」
土方 「どうもこいつらは潔く腹を切るつもりがないらしい。武士の風上にも置けん奴らだ。そうだろう? だから──お前が首を刎ねろ」
越後 「ひ、ぃぃ、い、嫌だ、平助──!」
土方 「どうした平助、お前は武士なんだろう?」
越後 「やめてくれ、平助、やめてくれよぉ」
土方 「ほら、平助。」
楠木 「藤堂さん!本気ですか!?」
越後 「平助!」
土方 「やれよ」
沖田 「平助」
越後 「いやだ、死にたくな──」
 
藤堂 刀を突き刺す
 
藤堂 「──っふ、ふぅ、はぁ──っ」
土方 「良くやった。あとは……」
永倉 「待て!」
土方 「…ガムシン、そいつらは局長殺しだ。庇い立てするなら──」
永倉 「まだ十七じゃ」
土方 「──は?」
楠木 「永倉、さん」
永倉 「楠木はまだ、ただのガキじゃろう」
土方 「だからなんだ。法度破りは切腹。この掟は変えるわけにはいかねぇ」
永倉 「たとえ罪があろうと、ガキが腹切るなんておかしいじゃろう。なぁ山南さん、儂が間違ってるのか?儂らは仲間にこんなことさせるためにわざわざ京へ来たのか?なぁ教えてくれよ、サンナンさん、なぁ土方!」
山南 「それ、は──」
楠木 「…すみません、永倉さん」
 
楠木、落ちている刀を拾い、永倉に斬りかかろうとする。
その後ろから笠の男が楠木を刺す。
刀は振り下ろされることなくそのまま地面に落ち、楠木は永倉に倒れ込む。
 
永倉 「おい、楠木。おい──、何でだ、何でだ!」
原田 「新八…、もう死んでる」
 
原田 楠木を永倉から剥がし、目を閉じさせ、地面に寝させてやる
 
笠の男 「油断しすぎだ。その甘さは、いつか仲間をも殺すことになるぞ」
 
永倉 笠の男に掴み掛かる。
 
井上 「新八!」
 
笠の男 ゆっくりと笠を取る。
 
永倉 「──お前、なん、で」
 
後退り、尻餅をつく永倉
 
永倉 「はじめ」

 
現代 京 座敷
飲みながら語り合う二人の老人
 
杉村 「というのが、儂の知ってる話だ」
藤田 「……えぇ、途中からですが、私の記憶と相違ありません」
杉村 「そうか、じゃあ早速聞かせてもらうが…、御蔵・越後・楠木、本当にこの三人が芹沢局長たちを殺したのか?」
藤田 「…いいえ」
杉村 「──じゃあ、奴らが長州の間者だったから。芹沢達を始末するのに都合が良かったから、下手人の罪を被せてまとめて処理したって話かい」
藤田 「そこまで、ご存知だったんですね」
杉村 「だから調べたのよ。ここ数十年、いろんな所に話を聞きに回ってな」
藤田 「えぇ、仰るとおりです。その分では、本当の下手人にも見当はついているんじゃないですか」
杉村 「あぁ、まず土方が計画をたて、芹沢達を八木邸に誘導。御蔵たちが外に出る時間を見計らって、顔を隠した総司、藤堂、そしてお前の三人が寝所に押し入り惨殺、ってところか」
藤田 「ご明察です」
杉村 「儂はこの話を人から聞いただけだ。自分が考えたように語っちゃあいるがな」
藤田 「──誰です。当時、そこまで気づいていた人がいたんですか」
杉村 「……その話は後だ。そんなことよりも、お前には聞いておかなきゃならねぇ事がもう一つあるんでな」
藤田 「……今、お話ししますよ。何故山口一が死んだことになっていたのか、でしょう?」
杉村 「そうだ。儂は確かに土方から、お前は死んだと聞かされた。そしてその理由も。『経緯はわからないが旗本を殺してしまった、故に腹を切った』、とな」
藤田 「その説明で大体合っていますが、問題は腹を切ったはずの私が生きていた事、ですね。それも含めてお話しますよ。山口一が何故旗本を斬ったのか、という話、そして、私が生涯でたった一人、嫉妬した男の話を」
 
四場 一八六二(文久二年) 江戸 店
飲みながら語り合う二人の若者
 
山口・門弟  IN
 
藤田 「私の父が御家人株を買い、直参として勤めていた事は知っていますよね。しかし当時、直参と言っても、その暮らしはとても質素なものでした。ましてや私は上に兄と姉がおりましたから、何処かへ奉公に出すか、養子に出すかと、そんな話すら持ち上がっていました。家に居場所のなかった私は、手当たり次第に江戸の道場を回っていました。試衛館もそのうちの一つで、そこで同じ時期に通っていた門弟と意気投合しましてね。……今でも悔やんでいるんです。何故あの時の私には、覚悟が無かったのか、と」
 
藤田・杉村  OUT
 
山口 「ほれ、受け取れ」
 
山口  門弟に刀を渡す
 
門弟 「これは──、良い物、なのではないですか」
山口 「お前は商家の出だろう。いずれは家を継ぐと言っていたが、ただの酒売りにしておくには勿体無いと思ってな」
門弟 「はぁ…、ですが──」
山口 「──まぁ聞け。この度、将軍様が上洛する運びとなった。その警護役として、浪士を募るという」
門弟 「…浪士、というと」
山口 「出自を問わない、腕に覚えのある浪人たちを募る、ということだ」
門弟 「はぁ」
山口 「あの試衛館の、近藤先生をはじめ、土方さんや沖田。他にも永倉やら山南さんなどといった食客たちまでもが、その浪士募集にかこつけて京へ上るという」
門弟 「そうですか」
山口 「まだるっこしいやつだなお前は。俺が言いたいのは、そこに我らも加わって、ともに京へ行こうと言う事だ。それには百姓といえど刀の一本も差しておかねば格好がつかんだろう」
門弟 「わしも行くのですか」
山口 「そうだ。お前の腕を燻らせておくのは勿体無い。だから来い」
門弟 「そう申しましても…、私は長男ですから。刀は私が持っていても意味はないのでお返しいたします」
山口 「阿呆。男が一度出したものをおいそれと引っ込められるか。それに、どうせお前の性格では商人(あきうど)など向いておらぬではないか。悪い事は言わぬから俺と共に来い」
門弟 「うちは造り酒屋ですから、根っから商人(あきうど)と言うわけでは」
山口 「御託はいい。お前は刀を振るうべきなのだ。お前の様な才あるものを眠らせておくほど、今の日の本は暇ではない」
門弟 「わしら庶民が暮らしていられるのは、山口さんらお侍さんのおかげでしょう」
山口 「何を、この間抜け。あんな肩書きだけで、肩で風切る低俗な連中と、この俺を一緒くたにするな。──黒船来航から、幕府が開国を余儀なくされて以来、各地で尊王攘夷運動が起こっているのは知っているだろう」
門弟 「尊王攘夷、ですか。言葉だけは」
山口 「帝を尊び、異人を打ち払うという意味だ。二年前にも、この思想を弾圧した大老、井伊直弼が暗殺されただろう」
門弟 「あぁ、桜田門の。あれは大老が、烈公に牛肉(ししにく)を献上しなかった恨みから、と聞いておりますが」
山口 「そのような馬鹿な話があってたまるか。いくら武士が馬鹿者の集まりだとしても、食い物の恨みで大老が殺されるようではいよいよもって救いようがない」
門弟 「食い物の恨みは恐ろしいですよ」
山口 「そういう話をしているのではない。問題はその大老が暗殺された時の話だ。登城途中の武士が何人もその場を目撃しているものの、誰も止めなかったというではないか。大老が殺されようとしているのに、誰一人刀を抜かず、立ち見の棒立ち稼業ときた」
門弟 「…山口さん、悪酔いがすぎますよ」
山口 「これでは武士など存在する意味がない。であれば、志のあるもの、力あるものが直接、将軍様や藩主様をお守りしなくてはなるまい。そうだ。これからは家柄ではなく、腕前の時代だ。だから俺はお前を連れて行くのだ。直参、旗本、何するものぞ!あのような腰抜けどもに、日の本が守れるか!」
旗本子弟「良い加減にせぬか!」
山口 「は」
旗本子弟「先ほどから宵の戯言と、黙って聞いていれば。なんだ、なんなのだ貴様は」
山口 「おい、誰だこいつは」
門弟 「さる旗本さまの子弟の方かと」
山口 「詳しいな」
門弟 「昼間、大声で叫んでいらっしゃったもので」
山口 「それは真の話か?よもや気狂(きちがい)の類ではあるまいな。まさか、近頃流行っている阿片とかいうやつか?」
門弟 「なんですそれは。大方、気狂といえば茸です。拾い食いでもしたのかも」
旗本子弟「良い加減にしろ‼︎貴様ら、揃いも揃って私を愚弄するか!」
山口 「ふん、だったらどうする。腰にぶら下げた大小は飾りか。差し詰、鈍ら刀か。いやさ竹光ということもあるか?それでは、人前では到底抜けまいな」
旗本子弟「貴様ぁ!」
 
子弟、刀を抜き、山口に切り掛かる。
山口、座っていたため応戦できない。
門弟、抜きざまに子弟の刀を防ぐ。
 
旗本子弟「ぐっ」
山口 「お前──」
 
子弟、切り返そうとするも、門弟の刀が先に喉元をとらえた。
そのまま倒れ、絶命。
 
山口 「やった、のか」
門弟 「どうやら、そのようで」
山口 「そう、か…」
 
門弟、血を拭って刀を鞘に収める
 
門弟 「山口さん、申し訳ありません」
山口 「…何を謝る。お主がいなければそこに転がっていたのは俺の方だ。むしろ…」
門弟 「この刀、返すわけにはいかなくなりました」
山口 「は?」
門弟 「人を殺めてしまいました。刀は奉行所に渡さねばなりません。自首すれば、この首一つで収まるでしょうか」
山口 「いや、待て。お前何を言っている」
門弟 「武士同士の喧嘩が発展しただけなら謹慎や放逐で済むでしょう。しかし、庶民がお武家様を手にかけたとあっては、どう温情をかけても死罪は免れ得ません」
山口 「馬鹿な」
門弟 「山口さん、短い間でしたがお世話になりました。御恩は地獄でも忘れません」
山口 「……待て。その、刀は──」
 
土方 上手 IN
手紙を読んでいる。
(照明で別空間に)
門弟、山口に刀を渡し、上手 土方側に寄る。
山口 門弟が行ったのを確認し、刀を抜き、子弟をもう一度刺す。
同心、騒ぎを聞きつけ入ってくる。
 
同心 「これは──、お前がやったのか」
山口 「……あぁ。この山口一が斬った」
 
同心、子弟の死体をはけさせる。
山口 その場に立ち尽くす。
土方 手紙を読み終え、懐に入れる
 
土方 「…そうか、山口のやつが。──それで、お前はどうする。行く宛はあるか」
門弟 「はぁ、特には」
土方 「なら俺の元で働け。文句はないな、鍬」
大石 「は、ではそのように」
 
大石  上手 OUT
土方  山口に寄る
 
土方 「よぉ。話は聞いたぜ」
山口 「鍬次郎は無事、手紙を届けてくれた様ですね」
土方 「あぁ。もし誰かに聞かれる事があれば、『山口一は旗本殺しの罪で腹を切った』と、そう答える」
山口 「ありがとうございます」
土方 「ひとつ聞きたい。……なぜ、奴に情けをかけた」
山口 「……嫉妬、でしょうか」
土方 「──嫉妬?」
山口 「えぇ、俺は今まで、自分が強いと思っていました。武士が何するものぞ、この腕一本で俺はのし上がっていってやるのだと。必要があれば誰だって、何人だって、この一刀の元に切り伏せてやろう──、などと。でもそれは思い上がりだった。あの時、男が向けてきた殺気に、俺は身が竦んでしまった。その一瞬さえあれば、俺の首と胴が離れるには十分すぎた時間があった事でしょう」
土方 「だがお前は未だ生きている。その男には運がなく、お前にはあった。それだけのことじゃないのか」
山口 「違う。きっと俺には、覚悟がなくて、奴には、それがあった」
土方 「…生まれながらの武士とは心構えが違ったってことか」
山口 「そうじゃあないんです。覚悟が無かったのは俺だけ、でも、鍬次郎にはあった。あいつは自分が武家の人間を手にかければ死罪だとわかっていて、その上で刀を抜いた。そして殺した。……俺を助けるために」
土方 「……それが、嫉妬か」
山口 「一丁前に兄貴面して、共に来いなどと誘っておきながら、俺は何もできなかった。悔しさでどうにかなりそうだった。だから、これは情けじゃないんです」
土方 「……」
山口 「これは、覚悟だ。俺に足りなかったもの、人の命を背負う覚悟を。あいつに背負わせてしまった命を、俺も共に背負うと、そう決めたんです。……だから俺はもう二度と迷わない。俺と、俺の大事な人たちを守る為なら、何十だって何百だって、背負いますよ。俺は」
土方 「…なら俺と共に来い。山口、お前の力が必要だ」
山口 「──強引ですね」
土方 「嫌なら断れ」
山口 「…嫌とは言ってませんよ。でも、名前は変えなきゃあいけませんね。何しろ、山口一などという腰抜けはもう、腹を切って死んでいますから」
土方 「そうか。ならば何と呼べばいい」
斎藤 「……斎藤──、斎藤一、と」

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