夫との死別+渡米
スイスの話から離れ、1年前に書いたアメリカ編を数編紹介します。
夫が死んだ。
30年間連れ添った夫が死んだ。
夫57歳の秋、検査で肝臓がんが見つかり、余命1年~1年半と宣告された。しかし、がんは想定外の速さで進行し、その4か月後、あっという間に逝ってしまった。それも私が仕事で香港に行った次の日に・・・
香港に連絡が来て急いで家に戻ると、我が家の小さな居間は人が溢れていて、夫は既にお棺の中でドライアイスに囲まれていた。白装束をまとい横たわっている夫は、顔は青白く引き締まっていてとても気高く見えた。人々の視線が私に集中している。頭が混乱して何をどうして良いか分からず、思わずお棺の中の夫の唇にキスをした。ドキッとした。夫は氷になっていた!
別れだと思った。
アメリカへ留学中の息子2人も急遽、帰国していた。手続きや葬式は息子2人と夫の以前の職場だったフジテレビの方々が、ボーっとして何も出来ない私に代わってすべて取り仕切ってくれ、夫は無事にあの世に旅立った。
その後、一時帰国の息子達もアメリカに戻り、賑やかだった家は、会話もない、動くものもない、静かな想像だにしなかった味気のない家に変わってしまっていた。その事実はひとり住まいの経験がない私には表面では普通見えても、心の奥では説明しがたい不安感に苛まれ始めていた。
浅い眠りの日々が続いた。
その別れから8か月後、アメリカのロサンジェルスの郊外に住んでいた長男の、
「一人は心配だし、こっちに来れば・・・」
の言葉に
「そうだ。行こう!」
と突然、大決心!
世田谷区の小さな一軒家を処分しまとまった資金を手に、息子2人が住むアメリカに移住するために旅立った。
アメリカのロサンジェルスの空港に降り立ったその日は、1995年のクリスマスイブの日の夜。迎えに来てくれた長男の車でパサデナ市の街中を走る。
家々を囲む木々や綺麗に手入れをされた花壇に飾られた彩豊かなイルミネーション。チカチカと瞬く夜空一杯の美しい輝きに驚き、目を奪われ、幻想的な景色に息をのみ、圧倒され、声もなく夢心地。
街全体でクリスマスを祝っていた。
アメリカに来た!と感じた瞬間だった。
この状況はわずか20歳で婚約、22歳で結婚した私への夫がくれた”自由”の気がした。
続く
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