IRIS MONDO 『Day.1』 ファーストインプレッション

●IRIS MONDOが届けてくれた、”とてもやさしくて、最低な歌“

 秋へと季節が移ろい、時折感じる肌寒さに心をくすぐられる9月末。Kurumi Skywalker氏とスーパーさったん氏によるIRIS MONDOが、新曲『Day.1』を届けてくれました。

 筆者が『Day.1』に対して感じたファーストインプレッションは、”とてもやさしくて、最低な歌”。
 その意味とこの曲の魅力について、語っていきます。

●トータルアートとしての『Day.1』
 
 この曲のリリース数日前に、KSW氏のTwitterアカウントではこの曲の歌詞が、スーパーさったん氏のアカウントではジャケットが、それぞれ投稿されました。
 デジタル配信が主流となりつつある今、歌詞も様々なプラットフォーム上で表示されることが多くなっていますが、『Day.1』は歌詞カードの画像を眺めながら、その世界観をより一層楽しむことが出来ます。

 初めてその歌詞を目にした時、まず言葉の数の多さに目を惹かれました。歌詞は一つの文学だと思っているので、この曲のように読み応えがある歌詞だと、それだけでとてもワクワクしました。そして同時に、「この言葉の多さを曲にするとなると、一体どんな楽曲になるのだろう...」と想像しながら歌詞を読めたことも、とても楽しかったです。

 そして、スーパーさったん氏が“Day.1”という文字を何度も書き直したという、こだわりの詰まったジャケット写真。こちらは夕暮れ時と思われる街並みが描かれています。このジャケット、余白と“Day.1”の文字が相まって、まるで日記やアルバムの1ページ目であったり、ジグソーパズルのパッケージのように見えるのも良いですね。

 ジャケット写真が夕暮れ時の空で、歌詞カードの背景が夜明け前の光が洩れる空。これは一日の始まりから終わりまでを対で表現していて、歌詞の内容とリンクしているところが素敵です。
 そして、その”一日の始まりから終わりまで“という部分が、『Day.1』の魅力を語る上での核心となっていきます。

●余白を残した空間的なループサウンド

 優しいピアノのメロディから『Day.1』は始まります。それは“僕”の心にとっては少し痛みを感じるくらい、あまりも優しくて素敵な音色。
 KSW氏曰く、このピアノのメロディから楽曲制作が始まったとのことです。浮遊感の漂うそのイントロは、まるで綺麗すぎる思い出の夢を、未だ見ているよう。曲をリピートすることで、ピアノのイントロが曲の締め括りのようにも聞こえて、不思議な感覚になります。
 KSW氏の息遣いと共に目が覚め、現実に戻される。それは吸気の音のはずなのに、どこか溜息のようにも聞こえる。
 これから、君がいない最低な一日が始まる。「おはよう」。

 楽曲の中で何度もループするギターの音色も、この瞬間から始まっています。アコースティックギターによるメロウなサウンドは、歌詞から読み取れる悲しみを含んだ感情を、一層浮き彫りにさせています。
 KSW氏の声とスーパーさったん氏のギターサウンドの対比はまるで、孤独感や喪失感の波にゆらゆらと漂う自己と、それでも何一つ変わりなく進む”他者にとっての穏やかな日常“の対比のようで、この楽曲の持つ繊細さを際立たせています。
 KSW氏いわく、「歌詞がバチッと入ってくるように、Aメロのリズムは少しズラしている」とのこと。道理でとてもしっくりきて耳心地の良いポエトリー・リーディングになっているのだと、腑に落ちました。

 そして、『Day.1』を聴く時はぜひ一度、この楽曲のリズムと自身の歩調を合わせてみてください。そうすると、人が何か考え事をしながら歩く時の速度と楽曲のリズムが似ていることが分かります。
ベース音はまるで、どこか後ろ髪を引かれる思いをしながらも歩いていく音のようで、自身と楽曲の親和性が更に高まっていきます。

 シンプルな構成のループサウンドとポエトリー・リーディングによって溢れる言葉の対比は、日常の中の余白とそれを埋めようと思考する自己の対比を、見事に表現しています。
 ループサウンドだからこそ聴きやすい上に、聴くたびに新しい発見があるところも、『Day.1』の大きな魅力だと感じます。

●Kurumi Skywalker氏という卓越した表現者

 初めて歌詞を読んだ時、まさかポエトリー・リーディングで表現されるとは全く思っていませんでした。そのため、楽曲を初めて聴いた時は良い意味で裏切られました。
 歌詞だけをじっくりと眺めていた時は、「だから、簡単に終われるわけがないんだ、わかるかな?」の部分の「わかるかな?」について、“もう目の前にはいない人に対しての幾分か投げやりな気持ちと、内省的な気持ちが混ざり合った言葉”だと考えていました。でも実際の楽曲でのKSW氏の声は、“込み上げてくる感情を抑え切れずに溢れてしまった、思い出の中の人に縋るような言葉”を表現しているように感じて、心が震えました。

 一つ一つの言葉のアクセントが心に突き刺さる形で表現されていて、楽曲の世界に深く惹き込まれる声を持っているのが、Kurumi Skywalker氏という卓越した表現者だと思いました。
 そしてサビのコーラスが本当に綺麗で、天使の歌声のよう。楽曲の最後がこのコーラスで締め括られていることで、喪失感から心が救われていきます。

●とてもやさしくて、最低な歌。

 楽曲の詞世界は「おはよう」から始まり、「おやすみ」で終わっています。この言葉によって、聴き手の日常に楽曲が静かに染み込んでいきます。
 また、「おはよう」も「おやすみ」も、本来はそこに居ない人に対しては使われない言葉です。そうにも関わらずそれらの言葉を使う“僕”からは、特別な関係だった“君”へ残り続ける想い、或いは”君“との特別な思い出を抱えて人生を生きていく気持ちが読み取れます。

 そして表題は『Day.1』。“ある一日”ではなく、“一日目”と付けられたタイトルからは、色々なことが想像できます。

 “これから何が始まっていくのか”という不安、もしくは“今日から少しずつでも前に進んでいこう”という決意。
 自分にとっては特別な“一日目”、だけど君にとっては過ぎ行く日常の中の“ある一日”かもしれない。
 そんなことを考えるけれど、結局は君がいないという事実とこの空虚感は変えようがない。こんな最低な歌は歌いたくなかったのにーーー。

 メロウなサウンドに包まれた歌が、聴き手にとってはとてもやさしく響く。
 だけど“僕”にとっては、最低な歌だ。

 “僕”にとっての救いはないのだろうか、と曲を聴き終えた私は思考を巡らせました。そして何度も何度も曲をループして気付いたのは、トータルアートとしての『Day.1』でした。

 前述したように、この曲のジャケットはまるでジグソーパズルのパッケージのようにも見えます。歌詞中にも「生活はlike a ジグソーパズル」という言葉が出てくるように、人は誰もが日々を切り取りながら、自分の人生に一つずつ嵌め込んでいきます。
 そうであるなら、“僕” にとってもいつかこの感傷や空虚感さえも、パズルのピースの一つに出来るのではないでしょうか。もしその先に完成するパズルが絵画となり、この一日が意味を持つとしたら、“僕”にとっての“Day.1”は、やはり特別な始まりの日であると思います。
 それと同時に、聴き手にとっても、今IRIS MONDOの音楽に触れているこの瞬間が特別な“一日目”であると気付かされました。

 ファーストインプレッションとしては長文になってしまいましたが、Kurumi Skywalker氏とスーパーさったん氏の織りなす『Day.1』という素晴らしい楽曲に触れることが出来て、とても幸せな気分です。

 多くの人にIRIS MONDOの素敵な音楽に触れる”Day.1“が訪れますように。

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