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絵画論3冊

この秋に読んだ絵画を語る3冊がおもしろかったのでまとめ

『いい絵だな』、『秘密の知識』、『絵画は眼でなく脳で見る』

『いい絵だな』伊野孝行、南伸坊 集英社インターナショナル

『いい絵だな』

 描き手の視点から観た絵画論である。基本好き嫌いで語っていいとはいいながら、いろいろ画家の見方が変わる本であった。
 例えば、初期のセザンヌの絵画があまりにもヘタななところから話が展開し、果物がカゴにちゃんと入るように描けなかったことから、開き直って持論をぶちあげたところ、うまい絵しか描けなかったピカソなどが食いついてきて、キュビズムに発展していったなど、いろいろおもしろい話がでてくる。
 また、今後も実際に観たい画家がでてきた。ことに本書の表紙になっているアルベール・マルケ。光の具合と、ここで描写をやめて完成になっちゃう加減がとても気になったのでした。


『秘密の知識』絶版!再販希望

『秘密の知識―巨匠も用いた知られざる技術の解明―』 ディヴィッド・ホックニー 青幻舎

 『いい絵だな』で紹介されていて、あまりにも衝撃的だったので、いったん、読むのをやめて本書を借りて読んだ。
 ルネサンス以降の絵画が光学機器を使ってトレースしていたという説をあらゆる角度から論証していった本である。

 表情や布のディテールの描写などあまりにも高度な技巧なのに、ヘンなパース、デッサン狂いなどが発生していたのは、なぜかと思っていたのだが、本書を読んでいろいろ納得がいった。
 とくにカラヴァッジョの絵画の指摘にはおお~と何度も声があがったのであった。
 これまで観てきた絵画視点が大幅に変わり、以前とは二度と戻れない感想がわきでてくるのでありました。ああ、驚いた。
 その後、『いい絵だな』を再開して、さらに納得がいったのでした。デレク・ジャーマンの『カラヴァッジョ』観たけど、たしかに機械は使ってなかったです。

 しかし現在は絶版。ただでさえ高価な本なのに中古はさらに高い。なんとか、再販してください、お願いします。


『絵画は眼でなく脳で見る 神経科学による実験美術史』小佐野重利 みすず書房


『絵画は眼でなく脳で見る 神経科学による実験美術史』

 サブタイトルのとおり、神経科学の視点から絵画を批評してみようという主旨で書かれている。

美術史が次第に人類学や歴史学、社会学などに取り込まれつつある現状。
危機感をもった著者は美術史の独立性のためにも、科学との協働による「実験美術史」へと向かった。<略>本書では、ミラーニューロンや体現的シミュレーションの発見から、造形美術のなかの登場人物の動き、ポーズ、顔に表現された情動を被験者に見せ、その反応を計測する試みを思い立ったとデイヴィッド・フリードバーグ(前ロンドン大学ウォーバーグ研究所長)らの研究を紹介している。

美術史はニューロサイエンスと協働できるか?

 本書では絵画の構図、人物のポーズなどを、神経科学の観点で観る側にどのような効果を与えるかを検証してみようと試みている。
 モンドリアンやポロックなど近代絵画などには必要な視点ではないかと、雑に考えたのでありました。
 とはいえ、NHKが尾形光琳でやらかした例もあるように、先端科学に頼りすぎても見誤ることもあることもわかった。