点数がつきやすい答案の書き方

 こんにちは。R5予備試験に合格したおぐんすです。
 今回は、特に質問が多かった「点数がつきやすい答案の書き方」について持論を語っていきたいと思います。

前提

 法律試験の答案は法的三段論法に乗せて書くのが原則です。具体的には、規範を定立し、当てはめをし、結論を導くという一連の流れを指します。予備試験では、この中の規範と当てはめに配点が振られています。
 このうち規範定立は論証パターンによって受験生がある程度用意してくるため、ここで差がつくことはほとんどありません。したがって、合否を分けるのは当てはめによる部分が大きく、これが「当てはめが大事」と言われる理由です。
 当てはめは事実引用と評価からなります。例えば、「刃渡り15センチメートルのナイフを首元に突きつける」という事実に対し、「殺傷能力がある」や「人体の枢要部である」といった評価を加えることができます。これらを組み合わせると、「刃渡り15センチメートルという殺傷能力のあるナイフを人体の枢要部である首元に突きつける」となります。これが当てはめの基本型であることを理解してください。

四つのポイント

では、以上を前提に、これから僕が意識していた四つのポイントを紹介していきます。

①問題提起で事実引用をしない。
 問題提起とは、『Aは「第三者」(177条)に当たるか。』のような、今からこの要件について解釈、当てはめをしていきますよという意思表示のことを指します。そして、問題提起で事実引用とは、『AはBC間の売買を知っているところ、「第三者」に当たるか。』というような書き方です。
 では、なぜこのような書き方がダメなのか。それは、ここで事実引用したことに満足して当てはめで事実引用を怠ってしまうからです。前述の通り、法律試験の答案は法的三段論法に乗せて書くことが原則です。すなわち、問題文中の事実は当てはめの中で適切に引用することで点数が入る仕組みとなっているのです。そうだとすれば、問題提起中の事実引用は当てはめとしての点数にはならず、結果として同じ事実引用の量でも当てはめで引用した人の方が上位となるでしょう。
 このような答案が量産される背景には、「問題の所在を示せ」という予備校の教育があると考えています。しかし、論証と当てはめを見ればなぜその論点を展開しているのかは分かりますし、問題提起に振られた配点は僅かないしゼロであると考えられるため、無理して紙面と時間を消費してまで問題の所在を示そうとしなくても良いでしょう。
 たしかに、理想中の理想は、問題提起で事実引用をしつつ問題の所在を示し、当てはめでも同様の事実引用を繰り返すことです。しかし、本番の極限状態の中でそれができるような人は稀なので、予め問題提起には拘らない姿勢で臨んだ方がいい結果が得られるはずです。

②一文を短くする。
 個人的に最も大事だと考えているのが一文を短くすることです。僕は予備受験生の答案を何人か添削してきましたが、その中で圧倒的に感じるのが文章の読みにくさです。具体的には「甲は(事実引用)であるところ、(事実引用)であり、(事実引用)であり、(評価)である。」のような書き方です。このような書き方では、どの部分が問題文中のどの事実に対応していて、評価がどの事実に対するものなのかを判別できません。また、このような答案は往々にして主語と述語がグチャグチャになっており、「結局何が言いたいの?」という印象を受けます。
 これを防ぐためには、一文を短くし、一つの事実に対して一つの文章にとどめることが効果的です。以下に、僕のR5予備憲法再現答案(A評価)の抜粋を題材に具体例を示します(参考:https://note.com/yobishi78/n/na86a0c131f76)。カッコ内は説明のために便宜上加えたものです。

第3 私見
1 まず、「職業の秘密」に当たるか(問題提起はあっさりと)。
X主張の通り、インタビューに応じた者の名前を証言すると、これを見た者が自身の名前が公表されるのをおそれ、以後Xの取材に応じなくなる可能性がある。そして、XはB県を拠点にしているが、B県政記者クラブへの入会を認められていないフリージャーナリストである(事実引用①)。そのため、B県庁やB県警の記者発表に出席することができない(事実引用②)。そうだとすれば、Xの記事や著作の元となるのは市井の取材であることがわかる(①と②に対する評価)。また、Xの発表の場は主にインターネットとなり、広告料によって収入を得ている(事実引用③)。そしてXの動画は若い世代を中心に関心を集め、インフルエンサーとして認識されつつある(事実引用④)。このことから、Xの職業の遂行は、一般人の評価が基礎になっているといえる(③と④に対する評価)。そうだとすれば、少しでもインタビューを拒否する者が現れれば、Xの職業は立ち行かなくなる(全体としての評価)から、インタビューに応じた者の名前は、職務上重要な秘密で、それが知られると以後職業の遂行が著しく困難になるものといえ(規範文言の繰り返し)、「職業の秘密」に当たる(結論)。

 このように事実引用と評価を一文ずつ纏めていくことで、事実引用点と評価点を稼げる答案を書くことができるのです。なお、本来は一事実一評価が理想ですが、現実には上記のように複数の事実に対して纏めて一つの評価を加えることになるかと思います。

③当てはめを無駄に長く書きすぎない。
 ここまで当てはめの重要性を語ってきて恐縮ですが、当てはめが冗長になってしまっている答案も評価が伸び悩む印象です。R4の時の自分がそうでしたが、「当てはめが重要」という言葉を盲信して、とにかく長く書けばいいと思っていた時期がありました。
 しかし、前述の通り当てはめとは事実引用と評価からなるところ、問題文中の事実は各論点に過不足なく嵌め込めるように散らばっています。つまり、問題文中にa~fまでの事実が転がっている場合、論点が三つであれば、論点1にdf、論点2にac、論点3にbeといった具合に振り分けることができるということです。冗長な答案とは、論点1でabdf、論点2でacf、論点3でbcdeを書くというような無駄な重複を含む答案を指します。これでは紙面と時間がもったいないですし、論点の理解度を疑われてしまいます。
 したがって、受験生は問題文中の事実を適切に振り分ける能力を養う必要があると考えます。とはいえ、長く書くことのみで減点されることは考えにくいので、冗長な当てはめを書くことで時間が圧迫されて全体としてのバランスが取れなくなることが一番の問題だと捉えると良いと思います。

④条文引用を多めにする。
 意外と忘れがちなのが条文引用。予備試験が実務家登用試験である以上、条文操作ができることは当然採点において重視されるでしょう。以下は、条文引用を頑張ったR5予備商法再現答案(A評価)の抜粋です。

1 乙社は、本件総会の招集通知(299条1項)に議案の要領を記載しなかったことが「決議の方法が法令......に違反」(831条1項1号)していると主張することが考えられる。
(1)まず、乙社の議案要領通知請求権(305条1項)が適法か。
「株主」たる乙社は、「取締役」Aに対し、「株主総会の日の八週間前まで」である令和5年4月10日に「株主総会の目的である事項」である取締役選任の件につき「議案の要領を株主に通知すること......を請求」している。また、甲社は「公開会社」(2条5号)であるから「取締役会設置会社」(305条1項ただし書)であるところ、乙社は令和4年6月頃から引き続き甲社の株式1000株を有しているから、「三百個......以上の議決権を六箇月......前から引き続き有する株主」に当たる。
 したがって、同請求は適法である。

 このような条文操作は慣れによるところも大きく、特に条文数が多い会社法では予め条文配置を把握しておく方が良いような気がします。他にも、刑事訴訟法で事案の重大性を指摘するために「懲役○年にもなる(刑法○条)重大犯罪」といった条文引用をするなど、隙あらば条文引用の姿勢を持っておくと良いでしょう。


まとめ

 以上が、僕がR4での不合格を経て意識を変えたポイントになります。これを踏まえて。一度自分が書いた答案を読み直してみてください。一文一文の意味が通っているか、冗長になっていないか、過不足ない当てはめができているか等がチェック項目です。予備試験は「何を書いたか」と同じくらい「どう書いたか」が物を言う世界です。これを読んでいる人が書き方で損をしないことを願っています。
 なお、以上は全て私見ですので、読者様の方で情報の取捨選択をしていただければと思います。

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