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9.11 横浜 BAYSIS 高木フトシ 911 ワンマン- 沈黙の様相 -

act:髙木フトシ

 9.11に横浜BAYSISにて髙木フトシの911ワンマンライブが行われた。この日のライブが彼の創り出す一つの芸術作品とするならば、感動を呼ぶ最高傑作であったと私は思う。彼のステージを引き立たせる照明・音響は素晴らしく、この日の彼の歌世界を具現化していた。照明に関しては完璧なまでに彼の歌のイメージに沿って表現し、世界観を作り出していた。闇と光、シンプルであるがこの両極にある2つの要素、髙木フトシの楽曲が持つ重いヘビーな世界観を見事に表現尽くし、その場にいた者の五感を刺激した。想像力を極限までに駆り立て、彼の歌世界へと誘うのであった。
 そして今現在、911ワンマンから数日経っている。最高な作品を再び体感したいという思いに駆られ、リアルの余韻を持って911ワンマンライブの配信アーカイブを観て振り返っている。

 毎年9月11日、髙木フトシはこの日に歌を歌っている。その思いは、2001.9.11に起きたアメリカ同時多発テロ事件を忘れず、犠牲になった人々がいる、その出来事、人々を忘れず寄り添うと言うことだ。
 この日のMC(注1)でそう語り、過去のインタビューでも同じように語っている。
 高木フトシの思いはブレず一貫してあの日、犠牲になった人々に寄り添い歌い続けているのだ。

 灯りが消えた会場にSEが流れ始め、ステージは暗闇に。最小限のライトが高木フトシだけを照らし彼を浮かび上がらせる。ギターとエフェクターの音が鳴り響き、彼は静かにUndergroundを歌い出した。
 こうして髙木フトシが魂で歌い上げる911ワンマンストーリーが幕を開けた。

 911ワンマンの1曲目はUnderground。2009年にリリースされたシングル三部作(注2)の歌である。次にPerfect lifeと続き、約2時間のステージの本編最後の曲はcore、三部作からである。911ワンマンのセット、言わずもがなである。(セットリスト参照。最後に転載)
 この日のセットリストはシングル三部作、OUTSIDEシングル、髙木フトシの最新楽曲から構成されていた。彼の数ある楽曲の中から911ワンマンストーリーを表現するために選りすぐられた楽曲たちだ。セットリスト後半で歌われたhallelujah。これは髙木フトシが犠牲になった人に寄り添い、彼らの代わりに神に祈りを捧げる歌のように思えた。

 毎年、9.11をテーマに彼はライブで歌い続けているが、予定調和のストーリーではない。最新の楽曲も含めた構成が彼の描いた2024年911ワンマンライブのストーリーとなっていた。この日のMCにて彼自身、楽曲が増えた分、説得力のあるセットリストが作れるようになったと語っている。(注1) 
 
 1曲目で歌われたUndergroundの歌詞中に「溶けない氷のような距離を」というフレーズが象徴的に出てくる。短いフレーズであるがインパクトがある。この短いフレーズに多くの思いが凝縮されているように思える。そして「溶けない氷のような距離」、911に起きた事件の全ての始まりがここにあるのだと感じる。
 そしてストーリーの結び、本編最後の曲は三部作からのcore。この曲は「宇宙や地球、彼自身の核(core)」を表現したかったと過去のインタビューで語っている。そして、この曲にも「溶けない距離」と言うワードが出てくるところが面白く、三部作は作品として繋がっているのだと感じる。
 
 私はこのcoreに宇宙を感じ、そしてOnenessを感じるのだ。高木フトシが歌いながら「カモン」と客席にcoreの一節を歌うように投げかける。客席もそれに答え彼と一緒にcoreを歌い出す。
 “ゆーこー ゆーこー あの空へ”
 この曲を合唱することで会場が一つになっていた。人と人の間にある見えない「溶けない距離」が一緒にcoreを歌うことによって溶け合う瞬間を見たような気がした。
 こうして911ワンマンライブは大団円を迎え、髙木フトシは自身が描いた9.11のストーリーを歌い切った。

 シングル三部作とは2009年にリリースされたシングル『dancer』『Bite』『Core』のことである。このシングルはLOFT/PLUSONEで行われた9.11イベント参加がきっかけとなり製作されたものであると認識している。このシングルを作るに至った経緯は過去にインタビューなどで彼が語っている。(注2)
 インタビューではこのワンマンで歌われた曲について語られているので興味深い。インタビューを読むと三部作を作った時の彼の思いがわかる。シングルが作られた背景を知ることでこの日歌われた曲がより深く感じられる。そして、このワンマンのために彼が描いたストーリーもより深く見えてくる。 
 初期の911ライブから数年経過している。歌われた曲は2009年に書かれた歌詞と15年が経過した2024年に書かれた歌詞とが交わってより現在はより厚く深みあるストーリーになっているのではないだろうか。彼が言う説得力が増していると言うことだ。しかし同時に世界の社会状況に変化することがなく、社会状況はより複雑な世界に移行していることもわかる。
 髙木フトシはまた来年も911に犠牲になった人たちに寄り添い歌を歌い続けることだろう。

 最後に、この日のアンコールはkeep it carefully。この曲は難しいことは何一つ言っていない。この曲を聴くと優しい気持ちになり単純に口角が上がるのだ。
 彼はこの歌を歌う前に次のように話している。とても印象的な内容で私は彼が言うことに同感であり、この日の911ワンマンストーリーの最後に歌う曲として相応しいものであると思った。
 
「最後にもう1曲だけ、なんか、今日のテーマって。。今日のテーマじゃない、911テーマって言うか。あのー俺なりの。この曲、曲でほんとは十分だなって。。あのー。思って。。思ったりしたけど。。最後に歌って、えーみんなとそれを共有して、帰ろうと思います。。。keep it carefullyって言う曲を。どうもありがと」    (2024.911ワンマンライブMCより)

 “ かけがえのない君の声も
  その笑顔も そう笑ってよ
  悲しみをしまって 全部
  keep  it careflly ” 
         lyrics by 髙木フトシ




 “keep it carefully”

 これは母親が子供に優しく「大切にしまっておきなさい」と伝えるニュアンスだと以前、外国の友人から教えてもらったことがある。
 人々が笑顔でいられる優しい世界。その笑顔を大切に出来る世界は争いで人が犠牲になることはなく、そこにはきっと愛があり幸せがあるのだと思う。
 私は「溶けない距離」を溶かすのは笑顔であると信じる。1人ひとりが笑顔を大切に、相手に笑顔を向けられる世界がくることを願う。


注1:以下、2024/9/11 911ワンマンMC。
「あのーこの9.11と911ワンマンっていうか。一体。何回目なんだろうと。今日朝起きた時に。。何年やり続けていたんだろうと思って。何回目かなと思って調べようと思ったんだけど。めんどくさくてやめました笑。。。(省略)
なんかこう。。。やるべく曲と言うか。なんかその。。自分なりのストーリーに沿った曲をこう20曲。20。。何曲かな30曲くらいから最初こう書き出して。それ一つひとつここ1週間ずっと組み合わせて色々やりつつも。。あの。。なんか。。その。昔やってた時よりは、だいぶ、なんかそのなんだろ。。説得力があるセットリストが作れるようになったなぁ。。と思って。まぁそれだけ曲が増えたってことだけなんだけど。なんか。うん。なかなか。こう。。重い。ヘビーな。。曲ばっかりなんだなぁーと。あの。。軽く反省したりもしつつ。。あの。。何を反省してるかわかんないんだけど笑
 でも。。やっぱ。。その。。この911のその。。3部作を作った時、と。気持ちは今も全く同じで、あの。。自分が出来ること。あの。。思うこと。は、ただただ。その。寄り添って。えーこの事を忘れないっていうことと。あの。。あの時。犠牲になった沢山の命が。あったっていう。その事に対して。なんか。。自分の中の。。なんだろうな。。。すごくこークリアな。優しさって言うか。。それはやっぱ常に、えぇ。。思っていたいなぁ。。と。思って。だから別に、あの時の事を忘れてもいいし、忘れなくてもいいし、それはどっちでも良くて。。それよりも何よりも。やっぱり。あの時の。犠牲になった人達のことを。思ったりすることと。これか先も。。そう言う犠牲になる人が。いない。いなくなるみたいな。それもまた。でも。何か。戦争のね。ガザとかの映像とか見ちゃうと。はぁーって思うけど。。。まぁ別に。自分の近くに起きてることじゃないので。アレだけど。でも。確実に繋がってはいるので。。自分が生きてる限り。。その事は忘れずに。いたいなぁーと思います。」

注2:2009年リリース、シングル三部作『dancer』『Bite』『Core』
三部作について語っているインタビューは以下。
http://akuh.seesaa.net/article/158240801.html 
髙木フトシ公式HP2010/08/02収録されているインタビュー(インタビューは2010/06/23に行われたもの)

過去のインタビュー
三部作coreについて語っている
http://www.beeast69.com/feature/2522


2024/09/11 横浜BAYSIS 
髙木フトシ
911ワンマンライブ セットリスト

SET

SE 01
01 Underground
02 Perfect life
03 Unbirthday

SE 02
04 Illusionary eyes
05 Clown smile and lies
06 Dark ferris wheel

SE 03
07 Story of soul
08 No Angel’s here,,,
09 無知の支配
10 Where

SE 04
11 緑の深淵へ
12 Delusion of justice

SE 05
13 What

SE 06
14 冷めた目の子供達
15 Death in the snowstorm

SE 07
16 天使の像
17 hallelujah

-mc

18 Core

En
01 Blind / Blind
02 Keep it carefully

髙木フトシ公式HP ブログより転載

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