螺旋。
暗い夜道を私は一人で歩く。
街の喧騒は、まるで今の心を表しているみたいだ。
星の綺麗な今日、私は嘘つきに会いに行く。
ま、星が出ているかなんて知らないけれど。
大切だったお揃いのペンダントを、この喧しい世界に見せつけるようにぶら下げて歩く。
ずっと前からわかっていたのだ。
あいつにハナっから愛なんてなかったと。
それでも私は。
世界で一番大切だったから。
信じて歩いてきたのだ。
笑って我慢してきたのだ。
『美羽、愛してるよ。』
今でも耳にこびりついて離れない呪いの調べ。
浮気されたことより。
泳いだ目で誤魔化されたことより。
私の見える景色や聴こえる音、何もかもを彩づけた言葉が。
全部嘘だったことが許せないのだ。
”もうすぐ着くよ”
私は嘘つきにLINEをする。
本当は胸を叩いて『酷いよ!』ってあいつを責め立てたい。
独りよがりな私の愛の言葉も、今日もまた誰にも届くことなくふらふらと揺蕩うのだろう。
「美羽〜」
私は嘘つきに手を振ると、その偽りの太陽に向かって駆け出す。
「ごめんね○○、待った?」
私は目一杯の笑顔で問い掛ける。
「大丈夫だよ、美羽は今日も可愛いな。」
嘘つきは私の頭を撫でながら話す。
あぁ、ダメだ。
この声に泣きそうになる。
「じゃあ、行こっか。今日は美羽の好きなラーメンでも食べに行こう!」
「うん!」
私はラーメンが好きだなんて一度も話したことはない。
痛みが胸を支配する。
今日は、いつまで笑っていられるだろうか。
一体、私はどこまで涙を我慢すればいいのだろうか。
いつになったら、私は…
「美羽?」
その声にハッとする。
「ご、ごめん。何?」
「聞いてなかったのかよ。」
嘘つきは少しムッとした表情になる。
「ごめんって。」
私は精一杯の作り笑いを浮かべるが。
「美羽、なんか今日変だぞ。どうした?」
「ごめん、今日ちょっと仕事が忙しかったから。」
私は嘘つきに向かって嘘をついてみる。
「んだよ、なら先言えよな。別に無理に会わなくったって…」
そうだよね。
わざわざ私に会わなくても、あんたには運命の人がいるもんね。
「ごめん、でもラーメン食べたら復活するから!」
私は一体、誰に向かって話しているんだろうか。
もはや、わからなかった。
それからラーメンを食べた私たちは、当たり前のようにホテルへと向かった。
ここから先はこいつと何を話したかなんて覚えちゃいない。
だって、全て嘘だから。
私の事なんて上辺だけでしか視界に入れていないから。
『私だけ見ててよ。』
暗がりの部屋の中で、そんな言葉が何度も何度も喉元に引っかかった。
「じゃあ美羽、またな。」
家に送り届けてもくれない嘘つきは、当然のように私に背を向ける。
あぁ、またあいつは。
私の知らない顔をして今日も違う世界に入っていくんだ。
私は歩きながら幾度も振り返る。
期待なんてしてなかったけど。
追いかけて来てくれないんだね。
もう二度と会うものか。
あんな最低で最悪な男になんて。
少し遠回りをして家路に着く。
それはまるで本当を隠している私とあいつみたいに。
私は、気が付くと電話をかけていた。
もちろん、あの嘘つきに。
『もしもし、美羽?どうした?』
「ごめんね、今日はちょっと疲れちゃってて、気遣わせちゃったよね。」
『あー、別にいいよ。』
私は、一生懸命に言葉を探す。
「えっと、次はいつ会えるかなぁ?」
『わかんね。また連絡するわ。悪いけど明日早いからさ?』
「あ、ごめんね。おやすみ。」
本当は「寝ないで」って泣きながら言いたい。
でも、泣いたらいつも困った顔をするから。
私は物分りの良い女を演じる。
『あぁ、おやすみ。美羽、愛してるよ。』
電話の向こうで笑う声に、また愛しさが募ってしまう。
もう少しだけ。
あと少しだけ。
あなたの傍に置いてください。
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