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お気に召すまま。

私は小田倉家に仕える執事。



元々は家族ぐるみの付き合いがあったので、そのコネで屋敷の雑用などのアルバイトをしていたのだが、今年から正式に麗奈お嬢様の執事を任された。



『お嬢様、行ってらっしゃいませ。』



麗奈「行ってきます。」


麗奈母「麗奈、気を付けてね。」



麗奈「はい。お母様。」


○○「麗奈お嬢様、こちらへ。」



麗奈「ありがとう。」


私はお嬢様を車まで案内する。



車に乗り込む所作一つ取っても美しい。


更にはあまり表情を変えないクールな雰囲気のお嬢様。



おそらく屋敷中の人達が麗奈お嬢様のことをそう思っているだろう。


だが実際は全く違う。


麗奈「上にウェーイwww」


○○「……」



麗奈「昨日のもつ鍋美味しかったな〜。もつ帰ればよかった〜www」


○○「…………」



麗奈お嬢様は幼なじみである私の前でだけ、ハイテンションでダジャレばかり言う。


今も学校へ行くだけだが、こんな調子である。



麗奈「ねぇ、○○。」


○○「いかがなさいましたか、お嬢様。」



麗奈「その呼び方やめてって言ってるでしょ」


○○「…まだ業務中ですので」



麗奈「今は2人きりだけれど?」



○○「ご主人様に叱られてしまいますよ」



麗奈「パパなんて怖くないわ。家でもめちゃくちゃ立場低いじゃない。」



○○「…お願いですので本人には仰らないでくださいよ。」



麗奈「それと○○、この前の約束の件はどうなったの?」



○○「約束…?と、仰いますと、ゴルフ場購入の件でございますか?あちらはお断りしたはずです。」



麗奈「ちーがーう!私と久しぶりにデートしてくれるっていう話!いっつもはぐらかすじゃないの!」


○○「……」



麗奈「ねぇ、そんなに私と居るのが嫌なの?」


○○「いえ、そういう訳では…」



麗奈「お願い…」


お嬢様は上目遣いでお願いしてくる。



こんなに可愛い顔を見せられては断るわけにも行かない。


○○「…分かりました。」



麗奈「やったー!○○とデート♪」



…お嬢様は私の前でだけ甘えん坊だ。



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放課後…


麗奈お嬢様を迎えに学校へと向かう。



麗奈「あ!○○ー!」


○○「お嬢様、お疲れ様です。」



麗奈お嬢様は私の姿を見つけると手を振りながら駆け寄ってくる。



麗奈「ねぇ、○○。」


車に乗り込んだお嬢様は満面の笑みで話しかけてくる。


○○「いかがなさいましたか。」



麗奈「今日は何もレッスンがなくて暇なの。」


○○「…左様でございますか。」



麗奈「だから、朝言ってたデートに行きましょう!」


○○「…私はまだ業務中なのですが。」



麗奈「ねぇ、○○?あなたは私の執事よね?」


○○「ええ、勿論でございます。」



麗奈「私の我儘を聞いてくれるのも執事の役目ではなくて?」


○○「それはおそらく私サイドが言うべき台詞かと。」



麗奈「ねぇ〜!!!!お願い〜!!!」



○○「はぁ…わかりましたよ。但し、あまり遠出はなさいませんよ?」


麗奈「わかってるわよ〜。ねぇ○○!私、海を見に行きたい!」



○○「海…ですか…?こんな冬に…?」


麗奈「そうよ、冬の海の方が透明で綺麗なの。ほらほら、海に向かってレッツゴー!」



○○「かしこまりました。お嬢様のお気に召すままに。」


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○○「お嬢様、到着致しました。」



麗奈「ありがとう、○○。」


お嬢様は車から降りようとするが。



麗奈「あ、そうだ○○。もう一つお願いがあるのだけれど。」


○○「……まぁ、聞くぐらいは致しましょう。」



麗奈「そんなファイティングポーズやめてよー。今日は執事○○じゃなくって、幼馴染○○とデートがしたいの。」


○○「と、いいますと?」



麗奈「だから、その畏まった話し方じゃなくて、前みたいに接してくれない?」


○○「…かしこまりました。」



麗奈「ありがと。じゃあスタート!!!」







○○「寒い!寒すぎる!麗奈!帰るぞ!」


麗奈「ちょっと!ダメに決まってるじゃん!」



○○「でも、時間も時間だからマジですぐに帰るぞ?」


麗奈「わかってるってー。ほら○○。近くまで行こ!」



○○「はいはい。」






麗奈「懐かしいな〜。小さい時はこうやって○○とよく遊びに行ったよねー。」


○○「まぁ、今はだいぶ特殊な関係になっちまったしな。」



麗奈「ねぇねぇ○○!写真撮ってよ!」


○○「しゃーねぇなぁ。」



携帯でパシャパシャと写真を撮ってやる。


○○「そら、こんなんでどうだ。」





麗奈「あらまぁ!だーれ?この美少女は?ビックリしたー!」

○○「……。」



麗奈「ちょっと!何とか言いなさいよ!」



○○「そのボケに対するツッコミが浮かばんかったわ。」



麗奈「ボケてない!!!」



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その後は海岸沿いを2人で散歩し、夕焼けを見ながら並んで座る。


麗奈「ねぇ、○○。」



○○「ん?」

麗奈「…いつもありがとう。」


○○「なんだよ、急に。」



麗奈「本当は嫌でしょ?幼馴染に畏まって話すの。」


○○「まぁ…正直めっちゃ気遣うけど、別に嫌ではないかな。」



麗奈「ほんと?」


○○「うん。むしろ麗奈が何でも話してくれる俺にしかできないことかなって思うし。」


麗奈「…それもそうね。私も○○が執事になってくれてよかったよ!」



○○「ありがとさん。さ、そろそろ帰るか。」



麗奈「うん!ねぇねぇ○○!帰りに肉まん買って帰らない?」


○○「お、いいね。コンビニ寄るか。」



麗奈「美味しい肉まんのことは憎まんどこー!」


○○「お嬢様、大変おあとがよろしいようで。」



麗奈「ちょっと○○!私がスベったようにするのやめなさい!」


○○「ははっ。」








確かに昔に比べて関係は変わってしまったかもしれない。




でも、心の距離は全く変わっていないんだ。




だって、お互いが対等でいようと努力しなくても。





こうやって心が落ち着く場所になっているから。



愛とか恋とかそういうんじゃなくても。








確かな愛情をくれるって信じてるから。

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