トロントで車を買う

カナダで最初に買った車はスバル・フォレスターである。車のことは詳しくないけど窓が大きくて室内が明るいのが家族に好評だったのでこれになった。トロントで車を買う手続きはとくに難しいことはない。ただディーラーに行って、試乗したらこれを買いますでおしまいである。もちろん、交渉するのが好きな人は色々と手練手管があるのだと思うけど、今は車不足だし、欲しい車種の在庫があったのでラッキーと思うことにする。(ちなみに、北米で車を買うときのコツは一つ。一度セールスマンと「買います」と合意すると、おもむろに奥から偉そうな人が出てきて「おめでとう」と言った後にかなり強引にディーラー・オプションを付けさせようとする。これは間違いなくいらないものばかりなので、相手の目をしっかり見て、ノー、ということが肝要である。でないととんでもなく無駄な追加出費を強いられるから。)


車を買うのは簡単だけど、車の保険に加入するのは簡単なことではない。トロントで運転経験のない人が車を買って保険に入ろうとすると、まず問題になるのは保険料である。この保険料がなにしろ信じられないくらい高い。運転初心者なら年間5,000ドル(約43万円)は軽くかかってしまう。500ドルじゃなくて5,000ドルである。アメリカとか日本の相場とは文字通り一桁違うのである。


このような事態を避けるためには、なんとかして自分の過去の運転履歴を証明しなくてはならない。カナダに初めて来た人の場合、これまで住んでいた国で運転していた証明や、保険会社で支払いを請求したことがないという証明をなんとか集めて提出する必要がある。それも、これまでずっと一か国に住んでいた人ならまだ簡単だろうけど、ぼくのように複数の国に住んでいて、使った保険会社は5社以上という人にとってはこの作業はまさに地獄である。


カナダの保険会社はアメリカの保険会社からの情報を重視するようなので、香港と日本の会社はあきらめてアメリカの会社からなんとか無事故・無請求の証明をもらおうとしたのだけど、これもすごく大変であった。なにしろアメリカの会社としては「請求があった」という記録は簡単に見つかるのだけど、「請求がなかった」という事実はなかなか確認が難しいらしく、時間がかかったり、たらいまわしにされたりと、何度も何度も電話して本当に消耗した。アメリカの会社としても、もうすでに客でもない人間からしつこく電話を受けてさぞや迷惑だったことだろう。


で、そこまでして必死に証明書をかき集めた結果、初年度の年間の保険料はかなり下がって、それでもなんと1か月$235(約2万円)である。繰り返しになるけど、これは1年の保険料ではなくて1か月の金額である。一般的な人の車の運転技術とか、道路の状態がほとんどトロントと同じアメリカの東部の都市では、大体1年間の保険料が500米ドルくらいだった。事故が起こる確率がアメリカとカナダで同じとすると、カナダの自動車保険はアメリカの5倍近く割高であると言える。自分で運転してみた実感としては、トロントでの運転マナーはアメリカの住んでいた場所よりもやや良いと感じる。みんな歩行者優先を徹底しているし、高速道路の運転速度や車線変更の仕方など、あまり酷い車が多いとは感じない。となると、いくらトロントの道路が入り組んでいることを考慮しても、この割高感は尋常ではない。もちろん規制の違いとか、競争制度の問題とかもあるのだろうけど、こんな無茶苦茶な事態をカナダ人は放置しておいてそれでよいと思っているのだろうか。


というわけで、トロントで車を買う場合に問題になるのは、どの車を買うかではなく車の保険をどうするかである。車を選ぶのと違って全然考えても楽しくない問題であるけど、なんとかやっていくしかない。子供がいない家庭であれば、トロントでは車はあきらめてとても便利な路面電車やUBERを利用したほうがずっと賢い選択肢ではないかと思う。

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