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2023年のXMアノマリーを(まとめて)振り返る

2024Q1のXMアノマリーシリーズであるCryptic Memoriesの振り返りをしようと思っているのですが、前提として2023年のシリーズの総括をしておいたほうが色々捗るよな…ということで、同人誌には書いた記事を引っ張り出して参りました。
文体変えたりの改稿はしていますが、中身はそう大きくは変えておりませんので GameDeep vol.44 を既にお読みになられた方は(来週中にぼちぼち上げていくと思う)次の記事をお待ち下さい。

2023年のXMアノマリー

2023年のXMアノマリーシリーズは、年間通じてあまり大きくルールが変わらずに行われました。従来はシリーズが変わればそれなりにルールを変えていたので、ここまでルールが安定していたのは初かもしれません。

ルールが安定するということは、シリーズをまたいでも傾向が変わらないということなので、(いつものstats talkとは)やや趣向を変え、年間を通じての傾向にも着目して分析してみたいと思います。

2023アノマリールール

2023年には、4-6月期のEcho / 7-9月期のCtrl / 10-12月期のDiscoverieの3シリーズが開催されました。ルールについて、大枠は変わっていないためまずはまとめて説明しましょう。
大雑把には、以下の2つのゲームが中心でした:

  • BB戦

  • シャード戦

BB戦

BB戦は、運営によって設置されたバトルビーコン(*1)の勝敗を争うゲームです。使用されるのはレアBB(*2)で、設置後13分/16分/19分後の3回の計測(CP=Check Point)での所属陣営に2/3/4点の素点が計上されます(*3)。また設定対象ポータルの中にはボラタイルと呼ばれる高得点対象では通常の3倍の得点が得られます。
約3時間のイベント時間中には25分間隔でwave1から7の都合7回に渡ってBBが設置されます。全7回の素点(*4)合計のうち最大の素点が陣営スコアとして採用されます。
両陣営のスコアの比で、300/100点(*5)が分配され、これがBBによる得点としてアノマリースコアに参入されます。

(*1) 設置ポータルにて設置後約20分の間に何回かのチェックポイントが設けられ、その戦闘結果が記録・表示されるようになるゲーム内アイテムのこと。
(*2) 他にベリーレアBBというものもあり、計測タイミングや計測回数、各計測回の配点等が異なります。
(*3) 過去のルールで存在したことのある「バトルカテゴリ(実際に発生した戦闘の激しさの指標)」による得点倍率ルールはありません。
(*4) ただし、開催都市によっては、関連イベントGoRuck Urbanの勝利報酬によるボーナスポイントが加算されることがあります。
(*5) プライマリ都市では300点、サテライト都市では100点です。

シャード戦

シャード戦は、全部で60/20個(*6)発生するシャード(破片)を、陣営ごとに設定されたゴール(ターゲットポータル)に移送するという、球技を模したゲームです。

ターゲットの発生ルールにはシリーズで若干違いがあり、Echoシリーズでは40分間隔で4回・各回に各陣営毎に3/1個が発生。Ctrl / Discoverieシリーズでは開始直後に陣営毎に10/4個が一斉に発生しました。
各ターゲットには有効ゴール数の上限が設定され、同一ターゲットへの5個目までのゴールだけが有効で、6個目以降は無得点となります。

ゴールあたりの得点は、Echoシリーズでは単純に1有効ゴール5点Ctrlシリーズでは開催規模と開催種別(プライマリ/サテライト)とで区分され1有効ゴールあたり2-15点が最終アノマリースコアに加算されました。Discoverieシリーズでは最終スコアへの反映ルールが変更され、両陣営の有効ゴール数の比で300/100点を分配してアノマリースコアに参入する(BB戦同様の)方式が採られました。

(*6) 発生数は、(おそらく)会場の規模に応じて設定されました。

この他シリーズ毎に以下のようなボーナスポイントが設定されました:

  • Ctrl : Goruck Urban勝利により、BB戦指定wave素点への+20%ボーナス加算(*7)の権利

  • Discoverie : Goruck Urban勝利により、BB戦指定wave素点への+10%ボーナス加算、各開催日間のグローバルチャレンジ(*8)勝利陣営に対する総得点1.331倍ボーナス(*9)(*10)

(*7) ルール上は指定waveへの自陣営+20%ボーナスもしくは敵陣営-20%ペナルティのいずれかを選択、という設定でしたが、これをペナルティとして適用した陣営はありませんでした。
(*8) 全世界での指定期間内のプレイヤー行動を陣営間で競うイベントが設定されました。
(*9)グローバルチャレンジは(これまでのIngressの歴史で)総じてRESがわずかに上回って勝つことがほとんどなので、今回も実質的にはRESへの1.331倍ボーナスのようなものとして設定していた可能性があります。
(*10) (RESの方にはやや不快に思われる発言かもしれませんが)このルールを見たときの私的な感想は「実に不公平なルールだが、おそらくゲームとしては均衡したいいバランスになるだろう」でした。

ルールから考えられる動き

結果のレビューに入る前に、これら2つのゲームが同時に行われることで、どういうゲームが展開されることになるか、という理屈のことを考えておきましょう。
まずは開幕、wave1のRBB戦の衝突で全体のだいたいの趨勢・支配率が見えることになります。ここで出てきたスコアが、以後のゲームを通じた原点になると考えて良いでしょう。
その後、各陣営にはいくつかの選択肢が生じてくることになります。引き続きRBB戦を継続していくか、それともシャード戦に戦いの主軸を移していくかという選択です。2つのゲームのどちらに、いつ、どのぐらいの比重をかけていくか。その選択と、それが敵陣営の選択とどう噛み合うかという点とが、ゲームの展開を作り上げていくことになります。

ゲーム全体としては、その戦況判断や、作戦を実際にどのぐらい上手く遂行できるかといったあたりに綾が出ながら進行していくことになるでしょう。とはいえXMアノマリーは、(ゲームとしては)極めて多人数で行われるゲームです。まず「戦況判断」が全体として正しく行われるかが疑わしいですし、仮に指揮組織としては正しい判断が行えたとしても、数十 - 数百人の組織の全員にその判断が正しく伝わるものでもないでしょう。判断が全体に伝わるだけでも相応の遅延=タイムラグが(必然的に)生じますし、それが行動に反映されるとなればなおさらでしょう。そうした諸々の(もっと少人数で行われる多くのゲームでは生じない)複雑な綾の集大成が、実際のゲーム状況として観戦する立場からは見えることになるのです。

各都市スコア表

閑話休題。
ここからは、そのように類例のあまりないXMアノマリーというゲームに対して、各都市各陣営がどのような選択をしたのか、という傾向を読み解いていきましょう。
それにあたっては、もちろん各都市の結果を把握していく必要がありますので、長いですが2023年のXMアノマリーシリーズのスコアをまとめた各表をご覧ください。

各表の左半分ほどはスコア表で、これは単にゲーム内スコアを提示している表なので、特に説明はしません。右半分は分析値表になっており、こちらは(毎度の数値なのでお馴染みかもですが)各数値の導出方法・意味合いについて説明します。

BB支配率

BB戦における、各waveでの確保スコアの割合です。ただし「合計」行ではwave1-7の数値の合計数を使って同様の値を算出しています。
これは、おおよそのアノマリーゾーンの支配率(ポータル確保率)を示している数値となります。

支配率平方根

BB支配率の平方根です。「戦力数予想値」を算出するための数値です。

戦力数予想値

BB戦がランチェスター第2法則に従った動きをするという仮定の下で、支配率から予想される参戦人数の比率を示す数値です。RESの数字を1として、これに対するENLの人数の比(の推定値)を導出しています。

ゴール数比 - 実測値

シャード戦でのゴール数(無効ゴール含む)のENL/RESの比率です。
ただし INF はRESのゴール数が0だったことを示します(計算上無限大になってしまうので)。

ゴール数比 - 期待値

戦力数予想値の4乗の値(=支配率の2乗比)です。
戦力数予想値から期待されるENLとRESのゴール数比を示します。

シャード戦におけるゴールの達成しやすさについて、「ゾーン内のある2点間にリンクを張る難易度に比例」「ゾーン内で『ある1点を支配できている確率』は『戦力数予想値の2乗=支配率比』に比例」という2つの仮定を置いた上で、ゴールの達成しやすさは「1点を支配できている確率」の2乗で求められるだろう、という推論に基づき導出した期待値となります。

この期待値 < 実測値であればENLが、逆に期待値 > 実測値 であればRESがよりシャード戦に傾倒した結果を出したということになります。

各都市傾向分析

ワンサイドゲーム群

これらの結果を見るにあたり、まずは終始ポータル支配率が極端に偏った都市群をとっかかりに考察をはじめていきましょう。

Echoではバギオ、ジャクソンビル、ブリスベン、ウィニペグ
Ctrlでは松坡(*11)、神戸、タコマ
Discoverieでは台中、アトランタあたりがこれに該当します。
また、Discoverieホノルルもやや近い傾向を出している気がします。

(*11) ソウル市やや南側の地区名。「オリンピック公園」と言われたほうがわかりやすいかもしれない。

これらは主に人数の問題で勝負になっていない、圧殺のワンサイドゲームが生じた都市ということになります。
こういう場合、数的劣勢側には、素直にBB戦で衝突するか、はたまたシャード戦に戦力を集中させて少しでも点数をもぎ取るかという選択が一見存在している、ように思えます。

この点、極めて特徴的なのはEchoバギオです。
ゴール数比の実測値9.00に対して期待値は42.28。BB支配率から考える期待値の通りであるなら、RESは1個もゴールを奪えずに終わってもおかしくなかった(20個しかシャードが湧かない設定のゲームで期待比が40を超えている)のですが、実際には2ゴールを奪いました。その結果が、実測値と期待値が大きく乖離するという形で数字に反映されています。
BB戦の方もその集中ぶりを如実に示しており、中には完封されたwaveもあったほどの割り切りぶりでした。RESはBB戦のスコアについては(おそらく免疫タイミング(*12)をうまく調節した) wave2での一発でそこそこの数字を確保し、以後はとにかくシャード戦に集中していきました。
純粋に人数だけで考えれば180-20ぐらいのスコアでの完膚なき敗北の可能性もあったところを、なんとか37点をもぎ取り(人数差を考えれば)RESは大いに善戦したと言えると思います。

(*12) 強制的にポータルの所属色を変更する反転アイテム(Jarvis virus / ADA refactor)の「使用後1時間は反転アイテムを使えない」という特性を使って、戦闘中に反転されてしまうことを抑止すること、及びそれに伴って発生する1時間ごとの反転可能化タイミングをどう扱うかというのは、XMアノマリーでの戦術を考える上で重要な要素です。

逆に無策ぶりが目立ったのはEchoジャクソンビルEchoウィニペグDiscoverieアトランタといったところ。いずれもENLのワンサイドゲームですた、シャード戦でBB戦以上の大差がついています。
これらは「ゲームとして成立していない」とでも言うべきラインですが、北米大陸の都市の名前ばかりが並んでいます。
北米でのアノマリーがこうしたワンサイドゲームになりがちなのは以前からの傾向で、なにか文化的な背景が手伝っているように思われます。

劣勢側による「選択と集中」群

残るEchoブリスベンCtrl松坡Ctrl神戸CtrlタコマDiscoverie台中といったところは、劣勢側がなにがしかをしようとした痕跡がスコアに見られる都市ということになります。しかし(実際のリモート観戦、あるいは現地での参戦での見解を交えると)その「なにがしか」は必ずしも正解ではなかったのではないか、という疑問が浮かんでくる都市群でもあります。

これらの都市では以下の2点のいずれか、もしくは両方のスコア的な傾向が見て取れます:

  • 劣勢側がBB戦で明確な集中waveを設定している(神戸以外)

  • ゴール数比が劣勢側優位(ブリスベン、神戸、タコマ)

これらの特徴は「戦力の意図的な集中運用」の結果として出てくるものではないでしょうか。
1点目の「明確なBB戦集中waveがある」はわかりやすいです。全体のオーダーとして「この時間帯はBB戦をやる」という意思統一の下に行動して、成果を得たという明らかな傾向を示すものだからです。
2点目は、1点目の裏の事象とも言えるもので、ではBB戦に集中しない時間帯を作ってそこでいったい何をしていたか=シャード戦に集中していた、ということを示すものだと思います。これが上手くいくと全体的なポータル支配率では負けるも、それに比してシャード戦は優位にゲームを進められた、という結果が出てくることになるというわけです。
とはいえ相手のいるゲームですから、そうした目論見が上手くいくとは限りません。戦力を集中させたにも関わらずシャード戦までもを叩き潰されると、松坡・台中のような結果が出てきてしまうことになります。

なお神戸でもwave1/7にRESがBB集中をしている気配は若干あるのですが、全体の規模が大きすぎるせいもあってかさほど目立った動きには見えません。ただ神戸ではゴール数比でのRES側への傾倒が顕著なため、少なくともシャード戦への戦力集中を行っていたのだろう、とは想像されます。
要はこれらの都市群では、数的な劣勢を前提とした上で「選択と集中」「明確にメリハリを付けて戦う」という戦略的行動が採られ、その結果として、上述のような特徴がスコアに出てきたのでしょう。
これは一見クレバーな選択であるように思われます。

「選択と集中」は正しいのか?

しかしその「選択と集中」は正しいのだろうか? という点に強く疑問を挟んでくるのがDiscoverieバンコクホノルルの結果です。
バンコクはRES優位、ホノルルはENL優位のゲームでしたが、バンコクではwave1、ホノルルではwave7に設定された劣勢側のRBB集中waveが大いに成功して、その一瞬だけは互角と言えるようなスコアを叩き出し、支配率比でワンサイドゲーム群の範疇をやや外れたスコアとなった群です。

そこまで特徴的ではないものの、傾向としては似た方向を示しているのはEchoブライトンCtrlバンドンランスDiscoverieコロンボあたりでしょうか。
これらの都市では、劣勢側の劣勢度合いは「選択と集中」群ほど極端ではなかったものの、やはりメリハリを付けた戦いが選択されているように思われます。当然、スコア上では「明確なBB戦への集中waveの発生」「ゴール数比が劣勢側優位」というという特徴が出てくることになります。

さて数字上では明示していませんが、バンコク戦は開幕だけみればかなりENL優位に見えるような出だしで始まりました。BB戦では五分、シャード戦もENLの方がゴール数で先行し、一見するとENLがゲームペースを握れているように見えました。
しかしゲームログ上の人数比ではややRESが上回る(戦力数予想値とそう乖離していない比率の)数字を出している状況で、果たしてBB戦支配率はwave2からかなり極端にRES寄りに傾いていきます。

2023XMアノマリーの主要な2競技、BB戦とシャード戦というのは、一見するとまったく異なるゲームのように思えます。実際、現地の個々の局面では、かなり毛色の違う動きを求められる部分はあるでしょう。
しかしゲーム全体、アノマリーゾーンを俯瞰する目線でそのゲームメカニズムのことを考えていくと、結局のところこれらは「アノマリーゾーン内のポータル支配率をなんらかのロジックで得点に換算していく」というよく似たゲームなのです。
もちろんBB戦のポータル支配率は、実際のアノマリーゾーン内全ポータルの支配率とは異なります。ですがアノマリー時間中、参加者たちはアノマリー得点につながるタスクに追われることになります。なので自ずとそれ以外の――BB対象でもシャード関連でもないゾーン内ポータルまでは、ケアが及ばなくなっていきます。
そうすると、実際のゾーン内は、それまで各waveのポータル支配率の累積に応じた割合にだんだん染め上がっていくことになります。BB支配率が五分なら双方の色のポータルが入り混じったまだら模様に、支配率がどちらかに傾いたゲームであるなら、時間が経過するごとにどんどんその色に染まっていく、というわけです。そして、この「染まっていく」ことが中盤以降の展開に影響を及ぼします。

片方がBB戦支配率で押すような展開になると、当然ゾーン内のポータルはBB戦優位側の色に染まっていきます。対する劣勢側では(シャード戦を戦うための)リンクの出し先の選択肢が減ることになるでしょう。同じようなリンクを出したい場合に、優勢側はリンクの出し先の選択肢が多く、もし1箇所がダメでも似たような別の場所を選べるのに対し、劣勢側はどうしても特定の1点を選ばざるを得なくなっていきます。
選択肢が多ければ妨害の狙いは絞りにくくなり、逆に少なければどこを妨害すればいいかがはっきりとわかるようになるのです。すると手数が多い側が手数の多さを武器に(手数の少ない)劣勢側に戦力の分散運用を迫るという展開が増えていきます。
という状況を一言で(劣勢側から)語るなら「ジリ貧」となるでしょう。

バンコクはまさしくその典型のようなゲームでした。
ENLは寡兵を集中させて開幕のゲームペースこそ握りましたが、RESはwave2以降BB支配率でだいたい7割をキープ。局面局面では翻弄されることこそあれど、全体としては徐々にゾーン内のポータル支配率を高めていきます。
その支配率の高まりが中盤以降(*13)に結実し、ENLは徐々にシャード戦を上手く進められなくなり、逆にRESは豊富な妨害リンクでENLの狙いを封殺し、最終的にはシャード戦でもRESが逆転するに至りました。

(*13) より具体的には開幕後1時間で訪れるシャード戦ターゲットの免疫張り替えタイミング以降で、このタイミングでのゾーン内支配率は、免疫を付け直し再構築したターゲットからの(盤面制圧とターゲット自体の防御力向上を兼ねた)リンクの飛ばしやすさに直結し、その後の盤面再構築に大いに影響していきます。

ホノルルはそれがもっと極端だったゲームで、計算上の戦力数予想値は1.45倍。しかし実際のログ数からの戦力比はどう見てもENLが1.2倍ぐらいが関の山で、実際はもう少し差が小さかった(1.1倍ぐらいENL有利)かもしれません。
RESは開幕からシャード戦に戦いの狙いを完全に絞り、序盤(wave3あたりまで)はシャードゴール数でも優位を取っていきます(GoRuckの勝利等による事前情報やボーナスジャンプタイムを上手く使い、ピンポイントかつ万全のタイミングでシャードポータルだけを確保したような動きが何度か見られました)。
ですが完全に放棄したBB戦では話にならないぐらいの劣位に追い込まれ、wave1のENLの80%を超える支配率がその後何度も更新されるという異様なスコアが並ぶことになりました。当然wave6まで盤面はどんどん緑に染め上がる展開となり、実質的にはwave3でのターゲットの反転張り替えでENLが(アノマリーゾーン内の高い支配率を活かした)完璧な盤面再構築を見せたことで、ほぼゲームは決着したと言えるでしょう。
RESは(GoRuck Urbanの勝利による)ボーナスポイントをBB wave7に設定し、そこだけBB戦に集中して48%ほどのポータルを支配した(*14)のですが、時期としてはあまりに遅く、最終スコアではかなり決定的な差が付くことになりました。

(*14) おそらくはこの48%という支配率が実際の人数比を本当に反映した数字ではないかと思います。

BB戦ルールの「最大スコアだけを採用する」ことを素直に考えると、全7回のwaveのうち1回だけに集中するというのは一見効率が良さそうに思えます。また、GoRuck Urbanの勝利によってボーナス得点waveを設定できるというルールもこの考えの背中を押すでしょう。
しかし一方で「特定の1回だけに」戦力を集中することは危険な発想でもあります。問題となるのはその発想によって(結果的に)選択される「それ以外のwave以外ではBB戦をやらない」という裏の選択の方であり、その選択によって生じる「アノマリーゾーン全体の支配率向上活動の放棄」なのです。
(Echoバギオのようなあからさまな劣勢の場合はともかくとして)ゾーン内ポータル確保数の不足、そこから生じるシャード戦のためのリンク先の選択肢の極端な減少という形で、真綿で首を締めるように「選択と集中」をした側の陣営の戦いの幅は徐々に失われていくことになります。
バンコクENLは集中waveを1に設定したため前半はまだなんとか戦えていた(数的劣勢のわりに僅差の敗北で済んだ)のですが、集中waveを7に設定してしまったホノルルRESの戦略的な失陥はかなり明白で、これをせめて中盤のどこか(wave4あたり)に設定していれば、もう少し均衡した戦いになっていた可能性があったように思います。
こうした都市ではBB戦結果から導出する戦力数予想値と、実際のログ上の人数比とが乖離するという傾向も少なからずありました(手元で全都市のログを見れたわけではないので数字としては出していません)。
それに見合うだけの得点をシャード戦で取り返せているならもちろん悪くない選択なのですが、BB戦のスコア悪化・シャード戦終盤の選択肢の喪失といったデメリットを考えれば、必ずしも正しくないかもしれないことは考慮すべき事項となってくるでしょう。

バンコクENL・ホノルルRESはかなり顕著なので目立っていますが、「素直にシャード戦への集中を選んでしまった」という失敗は2023年のアノマリーシリーズではしばしば見られた類例でした。

逆方向への集中、という選択

そうしたシャード戦集中型に対しての典型的な反例と思われるのがDiscoverieイズミルだと思います。
ここは序盤でRBBの優位を取ったENLがシャードも優位に進めたゲームですが、ENLのシャード戦への傾倒が進んだwave4-6あたりでRESがRBB戦で顕著に挽回を見せています。程々の差で終わったRBB戦に対して、シャード戦でENLに終始ペースを握られ大きくゲインを稼がれ、ENLが100点ほどの差を付けて勝利しました。というとENLのワンサイドゲームのように見えるが、これは「劣勢側のRESがシャード戦は捨て気味に、RBB戦をずっと平均的に戦った」結果でもある。それは、「選択」をしなかった結果ではなく、「RBB戦メインで行く」という選択をした結果なのではないか、とも考えられるわけです。

これに近いのがおそらくEchoピーターマリッツバーグブライトンCtrlチャールストンあたりで、下手に策を弄するより素直に戦って戦力差通りの負けとするほうが最終的なスコア差は小さく抑えられる可能性が見えてきます。
また劣勢側がシャード戦に重きを置きながらも、さりとてBB戦も放棄せずに継続的に戦い続けたEcho上田でのRESも「差を小さくする戦い」の例としては見るべきものがあるように思います。

ただXMアノマリーにおいて事前に彼我の数差が読み切れているかというと必ずしもそんなことはなく「劣勢側の戦い」と一言で片付けてしまうのは難しいです。
また数的には僅差ながらシャード戦での振る舞いがゲームの勝利を呼び込んだEchoモンテビデオDiscoverieパレルモ、数的にも戦略バランス的にもほぼ均衡だったもののGoRuck Urban報酬のボーナスwaveに合わせた動きで差を確保したCtrlサンタクルズ・デ・ラ・シエラのような例もありました。
なので、人数集めではほぼ互角ぐらいの結果が出ることを祈りながら、勝利の確率を高めるために少しだけ戦略にメリハリを付けるという決定をして当日を迎える(そして当日に蓋を開けると数的劣位に直面する)、というのはあながち間違った選択だとは言い切れないところです。

またCtrlランスのように、ENLはBB戦、RESはシャード戦に集中という棲み分けが綺麗に成立してしまい、結果的には均衡したゲームで終わるというのもひとつの面白い類例かと思います。

それぞれの完勝形

さて、2023年を通じたRESの全体的な戦い方の象徴として挙げておきたいのがCtrlローテンブルグオスロDiscoverieマドリードの3つだと思います。これらはいずれも「RESが数的優勢を(差をつけるためではなく)確実に勝つために使い込んだ」という展開でした。
ローテンブルグ、オスロでは安定した高支配率からBB戦では集中waveを作って得点を確保、シャード戦では(開幕直前に)ゾーン全体を使う大きな周回構造を作り、それを維持しながら無理はせずにシャードを確保し回していくというやや消極的ながら確実な戦法での完勝プランを完遂しました。
対してマドリードではおそらく同様のプランを狙っていたのですが、そのために必要な数的優勢を確保できないままに遂行してしまったのだと思われます。マドリード戦は全体を通してみればRESが数的優位で進めていたはずなのですが、BB戦wave1での(事前免疫戦を取られたことによる)大敗、開幕前のENLによるゾーン横断リンク等での妨害が効果的に働きました。数字上は互角で均衡した戦いをRESが僅差で制したように見えるのですが、実態はRESが1割程度の数的優位を活かせぬ下手な戦いに終始し、大いに差を詰められて危うく掴んだ勝利という構図だったように(リモート観戦していた身としては)感じられました。
RESの完敗で終わった諸都市も実は同様の形を目指していた可能性があり、この「RES中欧型」とでも言うべき戦い方のフォーマットが有効に働く条件が、実はかなり狭いことがこれらの結果からは窺えます。

ここまで言及せずに最後に残ったのはEchoアテネなのですが、これは数字だけから読み解くのは実に難しいゲームでした。
スコア分析だけでは数的に1割ほど上回るENLによる無難な勝利のゲームに見えるのですが、実は(当日ログ人数からの推定だと)逆にRESが1.2-1.3倍ほどの数的優位の状況にありました。
これは普通ならRES勝利のワンサイドゲームになるはずの人数差だと思うのですが、どういうことかENLは数的不利を挽回(というか数的優位側の動きが悪すぎる)して、ENLが完勝してしまうという全く意味不明な展開となりました。ENLが強いのか、それともRESが弱いのか。おそらくは両方なのだと思うのですが、これは数値的には完全な外れ値ということになるでしょう。いったい何があったのか、ギリシャでは過去のアノマリーでも同様の結果が続いているので、XMアノマリーにはまだまだ奥が深いなにかがあると感じざるを得ないところです。

2024年に向けて

2023年のXMアノマリーは、コロナ禍空けの時期に運営の省力化を進めたXMアノマリーの今後の標準とも言うべきフォーマットを安定させるための一年だったように思います。

ただこの一年の趨勢としては、ENLとRESの間には(世界的な傾向として)かなり大きなゲーム理解への差がついてしまったのではないか、とも感じます。Discoverieシリーズではその点を均衡させるべくかなり歪んだルール設定を行ってきたと思う(そして実際狙いは成功している)のですが、この傾向が2024年も続いてしまうとすれば、参加者としても観戦者としてもあまり面白くはないと感じると思います。

2022年から引き続いてあまり大きくフォーマットがいじられず、アノマリーが「標準化」されたことにより、もう少し双方のゲームに対する理解度が接近するのではないかと思っていました。しかし2023年を終えてみると、むしろ差は広がりつつあるようです。
ルール理解による改善は(ルールが固定化されている以上)そう遠くないうちに限度が来るので、どこかで理解が接近し始める=スコアが均衡に近づいていくはずなのですが、2023年の段階ではその萌芽は見えません。
この状況が続いてしまうのは、正直(XMアノマリーというイベントにとっては)あまり好ましいことではありません。
この規模で遊ぶ大規模ゲームというのは、他にはなかなか存在しておらず、代替し難い体験なのは間違いないです。この大変おもしろい体験の寿命がもう少し伸びるためには、自然ともう少し均衡の取れた状態になっていくほうが望ましいと思います。

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