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【テレ東シナリオコンテスト/シナリオ投稿】柴田百合子さんの『テレビ東京#100文字ドラマ(案)』

◆選んだテーマ

◆作品タイトル

魔女の蒸風呂

◆あらすじ

東京の下町には“魔女”が営むサウナ「魔女の蒸風呂」が存在する。薬草と骨董品に囲まれた、丑三つ時(30分)だけオープンする女性専用サウナだ。オーナー マダム凛子の魔法にかかれば、どんな恋でも成就するという。
凛子の弟子 設楽初音は、清掃ばかりの毎日に飽き飽きしていた。凛子に一人前だと認めさせたい初音は、ある日、魔法で凛子を眠らせ、一人でサウナをオープンしてしまう。
そこにサウナの客 土屋光がやって来る。友達期間が長い坂本悠太に告白“させたい”というのだ。そこで初音は薬草を煎じた「告白したくなるアメ」を授ける。
光は坂本をデートに誘い出す。初音が見守る側で、光は坂本にアメを食べさせる。すると坂本は「セックスをしたくない。人に触るのが苦手だ」と告白する。初音の魔法が拙いせいで、アメは「本音を告白したくなるアメ」になってしまったのだ。
女性としての魅力がないのかと激昂する光に対し、坂本は「セックス以外のことは今の関係のままでもできる」と語る。光は初音の魔法に絶望し、帰ってしまう。
凛子にこっぴどく叱られ、初音は清掃に戻る。そんな初音の元に、光が訪ねてくる。初音の魔法のおかげで、恋人がいるというステータスを追い求めていただけだったことに気づき、坂本とは今の関係のままでいることにしたという。
初音と光のやりとりを見た凛子は、初音にサウナの運営を任せる。かくして、初音の魔女としての第一歩が始まったのであった。

◆登場人物

□設楽初音(したら はつね/25歳)
凛子の弟子。大阪出身でテンションが上がると関西弁になる。
ヤンキーのような見た目だが恋愛経験は少ない。
□マダム凛子(まだむ りんこ/年齢不詳 ※見た目は45歳くらい)
魔女。「魔女の蒸風呂」オーナー。ドラァグクイーンのようなメイクをしており性別は不明。
□土屋光(つちやひかり/23歳)
「魔女の蒸風呂」の客。友達期間の長い坂本に告白”させたい”。
□坂本悠太(さかもとゆうた/23歳)
光の想い人。

◆シナリオ

○魔女の蒸風呂・外観(夜)
   蔦が這った木造の古い建物。
   傾いた古い看板には『魔女の蒸風呂 男子禁制』と書かれている。
   コンサバな服に身を包んだ土屋光(23)がやってくる。
   振り子時計がボーンボーンと鳴る音。

○同・フロント(夜)
   振り子時計が2時を指している。
   光が入ってくる。
光「(躊躇いがちに)すいません」
   設楽初音(25)が眠っているマダム凛子を番台に座らせている。
光「あの……ここですよね? どんな恋も魔法で叶えてくれるっていうサウナ」
   初音、ハッと光を見て、
初音「(自信満々に)その通りです!」
光「お姉さんが魔女?」
初音「そうです!」
   光、凛子を一瞥し、
光「(不安げに)お若いんですね」
初音「魔法はバッチリですので。どうぞ、お着替えください!」
   目をギラギラさせた初音。
初音のN「そう、すべては30分前に始まったのだ」

○(回想)同・フロント(夜)
   振り子時計が1時30分を指している。

○(回想)同・サウナ・内(夜)
   初音がモップで掃除をしている。
初音「毎日毎日……こんなのもうイヤや!」
   初音、モップを床に叩きつける。

○(回想)同・フロント(夜)
   凛子が番台に座ってメイクをしている。
   サウナの扉を指差し、上下に振る。
   カチャっと鍵の閉まる音がする。

○(回想)同・サウナ・内(夜)
   初音、扉に手をかける。
初音「もう我慢できへん! 私だって、マダムみたいに……あれ」
   扉が開かない。
初音「マダム! 開けてください!」
   初音、扉を指差し、
初音「開きぃ!」
   何も起きない。

○(回想)同・フロント(夜)
   凛子が真っ赤な口紅を塗っている。
凛子「言葉遣いに気をつけなさい」
   凛子、扉を指差す。
   扉が開き、初音が倒れこむ。
初音「痛っ!」
凛子「あんたにはまだ早いって言ってるでしょ」
初音「もう3年ですよ? 3年も経ったのに掃除ばっか……そろそろ接客させてくれても」
凛子「まだ3年」
   初音、凛子の口紅を指差し、上下に振る。
   口紅が吹っ飛ぶ。口裂け女のようになる凛子。
凛子「初音!」
初音「なんでなん!? 魔法も使えるし、薬草も扱えるのに!!」
凛子「(冷静に)あんたが思うほど物語は一本道じゃないのよ」
初音「なんも教えてくれへんくせに!!」
凛子「はあ……間違いだったかな。あんたを弟子にしたの」
   初音、拳を握りしめる。
   凛子、番台から降り、冷蔵庫の前に立つ。
初音のN「マダムは必ず1時45分にコーヒー牛乳を飲む」
   凛子、腰に手を当ててコーヒー牛乳を飲む。
初音のN「必ず入り口に背を向けて。この時がチャンス」
   凛子の後ろに初音が立っている。
   凛子、全てを悟った顔でコーヒー牛乳を飲み干す。
初音「眠りぃ!」
   コーヒー牛乳の瓶が床に転がる。
   凛子、膝から倒れ落ちる。
初音「(小声で)できた……」
   凛子、片目を開き、優しく閉じる。

○元の魔女の蒸風呂・フロント(夜)
   初音が光の背中を見つめている。
初音「(大声で)よっしゃあ!」
光「(驚いて)な、なんですか!?」
初音「私にもできるってこと証明したる!」

○同・サウナ・内(夜)
   タオルを巻いた光が座っている。
   タオルを巻いた初音が入ってくる。
光「えっ? 魔女さんも裸なんですか?」
初音「これぞ裸の付き合い! アッハッハ!」
光「はぁ……あっ、私、土山光っていいます」
初音「初音と申します。よろしくお願いいたします」
   初音、光の隣に座る。
初音「で、ご相談は?」
光「気になってる友人がいて……坂本くんっていうんですけど……」
   光、恥ずかしそうに俯く。

○(イメージ)ライブハウス・内(夜)
   満員のライブハウス。
   光と坂本悠太(23)が手を上げてノっている。
光の声「マッチングアプリで出会ったんですけど、なかなか恋愛に発展しなくて……趣味が同じだから、友達みたいなんですよね」
   光、もどかしそうな表情で坂本を見る。

○元の魔女の蒸風呂・サウナ・内(夜)
   初音と光が座っている。
初音「では、光さんは告白が上手くいく魔法をお求めなんですね」
   光、キッとした表情で初音を見て、
光「させたいんです」
初音「え?」
光「告白、させたいんです」
初音「は、はぁ」
光「女子から告白とか、恥ずかしいじゃないですか」
初音「光さんは、坂本さんのこと好きなんですよね?」
光「好きっていうか……」
初音「ん?」
光「マッチングアプリで出会ったんだから、恋人になるのが普通じゃないですか?」
初音「ま、まぁ」
光「なんで、私から告白するんですか?」
初音「ま、まぁ、男性に告白してほしいっていう気持ちは分かります」
光「ですよね!!??」
初音「では、坂本さんに告白……」
光「(遮って)さ・せ・る!」
初音「魔法ですね」
光「そうです」
初音「少々お待ちください」
   初音、出ていく。

○同・フロント(夜)
   初音が薬草をトレイに載せて右往左往している。
   凛子、初音をチラッと見る。

○同・サウナ・内(夜)
   初音が薬草を持って入ってくる。
   顔を真っ赤にして座っている光。
光「(苦しげに)ううう……」
初音「ああ! お待たせしてしまいましたか?」
光「大丈夫です……それは?」
初音「これは光さんのお悩みに合わせて選んだ薬草です」
   初音、薬草に手を当てる。ボワっと煙が出て、アメに変わる。
光「すごい! 本当に魔女だったんですね!」
初音「え? 疑ってたんですか?」
光「だって……ヤンキーみたいだから」
初音「それ、言わんといてください」
   初音、アメを紙に包み、光に渡す。
初音「これが、告白したくなるアメです」
光「これで、坂本くんが告白してくれるんですね?」
初音「もちろんです!」
   光、初音を疑わしそうに見て、
光「お願いがあるんですけど……」
初音「はい?」
   初音、不思議そうな表情。

○カフェ・外観
   オシャレなカフェ。
   入り口の近くに光が立っている。
   上下ともに柄の入った服を着た初音がやってくる。
初音「お待たせしました」
光「うわぁ……」
初音「どうかしましたか?」
光「その格好……」
初音「魔女の正装です」
光「嘘だ!」
初音「気合が入るんですよ。これ着てると」
   光、疑わしそうな目で初音を見る。
   初音、わざとらしく咳払いをする。
初音「本当にいいんですか?」
光「(小声で)だって……信じられないんだもん」
初音「え!?」
光「(慌てて)一緒にいてくれたら心強いなって」
初音「そうですか」
光「初音さんは先に入っててください。私たちは近くの席に座るので」
初音「分かりました」
光「お願いします」
   初音、店の中に入っていく。
   光、カバンからアメを取り出し、緊張した表情で見つめる。

○同・店内
   ボックス席に初音が一人で座っている。
   光と坂本、入ってくる。
初音「へぇー。イケメンやん」
   店員、光と坂本のテーブルに水を置く。
店員「ご注文はいかがいたしますか」
光「(前のめりに)コーヒーでいい?」
坂本「え? いいけど」
光「コーヒー2つください」
店員「かしこまりました」
   店員、去る。
坂本「どうしたの? なんか今日、変じゃない?」
光「え? そんなことないよ」
坂本「紅茶じゃん。いつも」
光「今日はコーヒーな気分だっただけ」
坂本「そうなんだ」
   店員、テーブルにコーヒーを置く。
店員「お待たせいたしました」
   光、初音に目配せをする。
   初音、坂本を指差し、
初音「トイレ行かんかい!」
   坂本、意志の感じられない表情で立ち上がる。
坂本「(淡々と)ちょっと行ってくる」
   坂本、フラフラと去る。
   初音、光に向かって頷く。
   光、坂本のコーヒーにアメを入れてかけ混ぜる。

○同・トイレ・内
   坂本、入って来る。
   ズボンのチャック下げる。
坂本「あれ、別に……?」
   坂本、不思議そうな表情でチャックを上げる。

○同・店内
   光が座っている。
   坂本、首を傾げながら戻ってくる。
光「おかえり。どうかしたの?」
坂本「いや……」
   光、コーヒーを飲む。
   坂本、おしぼりでコーヒーカップの取っ手を拭いている。
光「(イラついて)美味しいよ。ここのコーヒー」
   坂本、メニュー表を開く。
光「ちょっと! 食べるの!?」
坂本「え? だってさっきメニュー見なかったじゃん」
   光、メニューを奪い取る。
   初音を睨みつける。
坂本「光ちゃん。やっぱ、変だよ」
   初音、坂本を指差そうとする。
   その時、坂本がコーヒーを飲む。
光「ど、どう!?」
坂本「……」
光「なんか私に言うことない?」
坂本「……僕……」
光「何!?」
坂本「セックスしたくない」
光「はぁ!? (震えて)私のこと、女として見れないってこと!?」
坂本「そうじゃない。人に触るのが好きじゃないんだ」
   坂本、お手拭きで手を拭く。
光「(小声で)これが告白……?」
坂本「ずっと考えてた。光ちゃんとどんな関係でいるべきなのかって」
光「……」
坂本「光ちゃんとはこれからも一緒にいたい。だけどセックスはしたくないんだ」
光「ふざけないで!! ……そんなの、私と付き合いたくない言い訳でしょ!!」
   坂本、コーヒーを飲む。
坂本「(冷静に)そうじゃない。セックス以外のことは今の関係のままでもできると思うんだ」
光「セックスセックスうるさい!!」
   光、机を叩くようにして立ち上がる。
   初音を睨みつけ、走って出ていく。
初音「光さん!!」
   初音、光を追いかける。
   空になった坂本のコーヒーカップ。
坂本「あれ……僕はいったい何を……」
   坂本、唖然とした表情。

○同・外観
   光、涙をぬぐいながら走って出てくる。
   初音、一心不乱に追いかける。
初音「光さん!」
   光、立ち止まり、
光「偽物!! 何が告白させるアメよ!!」
初音「……(真剣に)あれが坂本さんの本音とちゃうんですか」
光「何!? 言い訳する気!?」
初音「坂本さんの気持ちを操っても、光さんは幸せにはなれません」
光「あんた、魔女でしょう!?」
初音「立ち止まっている人の背中を押す。それが私の役目です」
光「この役立たず!!」
   光、立ち去る。
   初音、悲しさと悔しさの入り混じった表情。

○魔女の蒸風呂・フロント
   凛子が水晶をのぞいている。
   水晶に映る初音の姿。
凛子「バカねぇ……」
   凛子、優しくため息をつく。

○同・外観(夜)

○同・フロント(夜)
   振り子時計が1時を指している。

○同・サウナ・内(夜)
   初音、力なく掃除をしている。
   凛子、入ってくる。
凛子「ずいぶん大人しくなっちゃったじゃない。相当、反省したみたいね」
初音「……マダムには逆らわんとこと思いました」
凛子「まだ反省したりないみたいね」
初音「(怯えて)そんなことありません!!」
凛子「あんたにお客さん」
初音「へ?」
   凛子の後ろに光が立っている。
初音「光さん!」
   光、気まずそうに頭を下げる。

○同・脱衣所(夜)
   棚に2組の衣類が置かれている。

○同・サウナ・内(夜)
   タオル姿の初音と光が座っている。
   初音、落ち着きなく視線を泳がしている。
光「……あの時はカッとなってすいませんでした。坂本くんとは今の関係のままでいることにしました」
初音「え?」
光「恋人がいるっていうステータスが欲しかっただけなんです。坂本くんの気持ちなんて一ミリも考えてなかった」
初音「……」
光「びっくりしましたけど。よく考えたら、私、そんなに性欲ないし。私たちはこれが一番なのかなって」
初音「じゃあ、お二人はこれから……」
光「恋ではないけど……これからも一緒にいると思います。初音さんの魔法のおかげで気付かされたんです。悔しいけど」
   光、笑う。
   初音、所在無さげに頭を掻く。

○同・フロント(夜)
   深々とお辞儀をし、光の背中を見送る。
   凛子、コーヒー牛乳を差し出す。
凛子「はい」
初音「え?」
   初音、振り子時計を見る。
   振り子時計が1時45分を指している。
凛子「私、お気に入りができちゃったのよね」
初音「は? なにゆうてんの?」
凛子「(呆れて)言葉には気をつけなさい」
  凛子、カバンを持つ。
凛子「ホストクラブに入れ込んでる子がいるのよ。だから、今日からお願いね」
初音「は?」
凛子「悪くなかったんじゃない? 初接客」
初音「え、え、えーーーー!!」
凛子「じゃあ、そういうことで」
   凛子、スキップして出ていく。

○同・外観(夜)
   スキップして出てくる凛子。

○同・フロント(夜)
   呆然としている初音。
   振り子時計がボーンボーンと鳴る音。
   初音、身震いをし、
初音「や、や、やったるでー!!!」
   初音、コーヒー牛乳を飲み干す。
   振り子時計が2時を指している。