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5人一緒に24時間で600km走る!Fleche 2022

■プロローグ
Fleche。それはイースターの時期に世界中で開催されるブルベの一種のイベントであり、仲間との友情を再確認する24時間耐久サイクリングイベントである。

ざっくりFlecheの概要を書くと下記のようなもの。
・24時間走り続ける前提で360km以上の自作ルートとスタート日時を事前に主催団体に申請してエントリー。
・3~5人のチームとして一緒に走り、最低3人がゴールすること。
・24時間走り続ける精神が重要。当日のペース次第で申告ルートの距離±20%の変更は認められ、22~24時間の2時間で25km以上走ること。
規定の詳細等についてはAudax Japanのサイトを参照いただきたい。

ルールとして360km以上ということなので、あえてもっと長い距離に挑戦しても構わない。
過去の記録を詳しく知っているわけではないが、日本のFlecheでは600kmを超えた記録があり、世界のどこかでは700kmを超えた記録も存在する。
我々(メンバーは異なるが)は既に東京↔大阪の500km超をFlecheで三度達成したことがあり、せっかくなので「チームゆるふわ」として600kmも狙ってみようと考えた。

■二度の失敗
まずルートは信号がなるべく少なくスピードが維持しやすい道が求められるため、本来は北海道で走るのがベストだが、主催団体がAR日本橋であり、Flecheのゴール受付であるナイスプレイスが都内であるため、なるべく東京方面に向かう形のルートとしたいことから、これまでの経験上国道4号をひたすら南下して走るのが効率よいと思われた。

最初の挑戦は2017年。
岩手県の安比高原を午前7時スタート、ゴールは千葉県の海浜幕張。
初の600km挑戦というのと、初の国道4号南下ということもありペース配分を間違え、福島県の郡山付近で力尽き、460kmほどでFINISH。

2度目の挑戦は2021年。
岩手県の盛岡を午前5時スタート、ゴールは千葉県の銚子。
ペースは抑え目に福島まで順調にきたがチームメンバー全体の補給の足並みがあわずハンガーノックになるメンバーも現れ480kmまではオンタイムだったもののそこで失速。550kmほどでFINISH。

3度目の今回は岩手県の盛岡を午前2時スタート、ゴールは千葉県の富津岬で601km。
スタート時間を早めたのは、昼頃の仙台がほぼ確実に渋滞になっておりペースを落とされるため、午前中に抜けてペースダウンを回避するため。
また、20時間以上走り続けて徹夜の明け方は睡魔に襲われやすいため、午前2時ゴールであればまだ睡魔に襲われにくいだろうと考えた。
ルートは下記。

■メンバー紹介
ここで「チームゆるふわ」のメンバーを簡単に紹介したい。各メンバーの脚質についても僕個人の所感で勝手に書かせてもらう。
●チャリモ
 昔から一緒に走ってるロングライド仲間。本州一周TT(3300km/9days)も共にクリア。あらゆる知識の幅と応用力が高く、「天才って本当にいるんだな」と思わされた唯一の友人。脚質はスプリンター。
●マウロ
 ファストラン糸魚川で知り合い、こちらも本州一周TTをクリアしたロングライド仲間。チームの中では最年長だがパワーも最強と思われる。非常に温厚な性格だが内に秘めるものはかなり熱い。脚質はTTスペシャリスト。
●ニョロ
 現、東京-青森TT最速記録保持者。一発狙いの集中力はかなりのもので他の国道TT最速記録も有するロングライド仲間。特異なフレームとホイールを愛用しており所謂一般的なロードバイクは持ってないんじゃないかと思われる。脚質はルーラー。
●ジジ
 チャリモさんの紹介で知り合ったロングライド仲間でチーム最若手。ロング経験はまだ浅いもののロングライドの能力は高く将来が楽しみな逸材。脚質はパンチャー。
●フィリップ(僕)
 チームゆるふわのリーダー担当。AR日本橋の幽霊スタッフなのでFlecheのルールを一番把握してるからリーダーやってるような存在。基本的に普段からペースを周りにあわせることが少ないメンバーが集まってるので気苦労してる。脚質はルーラー。

■三度目のスタート
スタート前日にメンバー各々盛岡に現地入りし、宿で仮眠をとって翌日2時前にはスタート地点のコンビニに集合。
あいにく天気は雨で、予報では仙台まで雨が続く見込み。気温も2~4℃と低温であり、本来ならここで24時間600kmの達成見込みはかなり低くDNSも検討するところだが、この時期にしては珍しく台風が発生しており、太平洋沖を北上中。これによって南向きの風が吹いており、風向きの条件だけは最高だった。
「やるしかない」
今回こそは達成できるかもと思うと緊張で僕はほとんど寝ることができなかったが全く眠くないしやる気に満ち溢れている。きっと他のメンバーもそうに違いない。
午前2時ちょうどにコンビニでレシートを取得し、すぐに国道4号を南に向かって走りだした。

■補給食が食べられない
気温は低いものの走りだせばそこまで寒くない。強い追い風なこともあり快調に南下する。
先頭は僕。ローテーションについては事前に「適当に1時間ぐらいずつで交代」と話しており、これは単純に短時間だと時間を気にしだして余計なことに集中力を割きたくないし、先頭になった時に頑張る人を出さないため。
先頭時のペースも「普段一人で走ってるつもりのマイペースで」と伝えており、後ろにいる人がちょっと離れてもすぐ追い付けること、補給食を食べられる余裕をもたせることを重要視している。
ただ序盤の夜間の雨はトラブルリスクが高いしスピードを上げ過ぎたくないのでローテーションする必要性もなく、日が出て明るくなるまでは僕がずっと前を走った。
が、ここで誤算がでた。低気温と雨で指が冷えて動かなく、補給食を取り出すのもパッケージを開けるのもままならない。たぶん僕だけじゃない。他のメンバーもちゃんと補給食を食べられてないように見える。
宮城県に入り、100kmを超えたあたりでニョロ君がついに口に出した。
「補給食が食べられないので止まった方が・・・」
「だ、だよね!よし次のコンビニで止まろう!」
追い風の効果もありこの時点で40分ほどの貯金ができていた。ここでいう貯金とは、600km/24時間に必要な最低巡行速度である25km/hを維持するために停止可能な時間を指す。100kmを4時間で進まないとならないところ、3時間20分で走ったので40分は余裕がある状態だ。
コンビニに到着したら早速手袋を外し、必死に補給食のパッケージを開けて食べた。また、今後食べる分の補給食のパッケージもこのタイミングで開けておき、指が動かなくても食べられるようにした。

■雨はいつ止むの?
補給ができるようになったので先ほどの停止以降どこも寄らずに200kmを超え、仙台に入った。
目論見通り、午前9時前の仙台市街はそこまで車が多くなく、渋滞になっていない。スタート時間を早めたことで関門の1つであった仙台市街を去年より15分ぐらい早く突破できたと思う。
しかし、スタート時点の天気予報では仙台に着く頃にはもう雨が止んでいるはずだったが、一向に止む気配がない。
「おいおい、話が違うぞ…」
メンバーに愚痴をこぼす。
正直、自分は既に暑く、雨に濡れても構わないから雨具を脱ぎたい欲にかられていたが、他のメンバーもそうとは限らないので少なくとも雨が止むのを待っているのだがなかなか止まない。
大河原町ではニョロ君の友人のカゲロウ氏が応援に駆けつけてくれた。ありがたい。今回の道中の唯一の応援だったことも付け加えたい。

■最難関エリア福島
宮城の白石市に入るところで雨が止んだことに気づき、停止。雨具脱ぎタイムをとった。ここで全員装備の再調整。ちょうどここから県境まで登りになるのでちょうどよかった。天気予報的にはもうゴールまで雨が降ることはないはずだ。貯金も30分ほどあるが、これを次の福島でどれだけキープできるかが肝になる。

ちょっとした峠を越えて福島県に入ってしばらくすると風が向かい風になってることに気づいた。
え?今日は終始追い風だと信じていたんだが…?
天候に裏切られた気分を味わいつつもとにかく淡々と前に進む。ずっと25km/hを維持しているので貯金は増えるでもなく減るでもないが、貯金30分というのは正直微々たるものだ。パンク1回で10~15分はロスするだろうし何かトラブルがあればあっという間になくなってしまいそうな時間である。本心としては少しでも貯金を増やしたいけども、福島のアップダウンで踏むわけにはいかない。1回目の挑戦時の失敗があるからこそ我慢できた。とにかくパワーを一定にすることを意識する。パワメ付いてないけどね。
そして郡山バイパス。ここで風が一段と強くなり、バイパスが緩やかなカーブになっているため、徐々に横風になってくる。前ホイールが持っていかれそうなほど風が強く、必死に抑えつけながら走る。
バイパスを抜けたところで300kmを超えたこともあり、いったん10分ほどの小休憩のためにコンビニに入った。
ここからヒルクライムに入るので去年のようにハンガーノックは避けたいし、正直補給食のあまったるい味に飽きていて他の味を口に入れたかったのもあった。ここで食べたフランクフルトは「こんなに美味いものだったか?」と思うほど美味かった。
栃木に向かうヒルクライムも踏み過ぎないように気をつけ、体力を温存しつつ福島をクリア。およそ360km地点で貯金は15分ほどになった。


■再び貯金を稼げ
最初のPC(コントロールポイント)である480kmのコンビニまで残り120kmほど。下り基調で国道4号バイパスを通るので、スピードがのって補給食が食べにくい区間でもあるため、その前にちゃんと補給しておこうと思い、先ほどの小休憩から50kmほどしか進んでいないがまたコンビニに寄ることにした。貯金を使い果たし15分の休憩でちゃんとした食事をとる。僕はカレーを食べた。くそ美味い。24時間補給食だけ食べ続けるなら甘いものだけでなく、しょっぱいものも用意しておくべきだったかもしれないが、一部メンバーからは「ちゃんとしたものが食べたい」という要望もありそれには完全に同意だった。
ここで出発時に僕がメンバーに「貯金がゼロになった」と告げたことで皆が貯金をこれまで以上に意識するようになったように感じる。
宇都宮まで快調に下ると日は沈み、二度目の夜を迎えた。驚いたことに風向きが少し追い風になっているようだった。天は我々に味方している。福島はなんだったのか?
そのまま国道4号バイパスを良いペースで南下。信号がないというのは本当にでかい。目論見通り貯金がみるみる回復し、480km地点のPCにはスタートから18時間25分で到着、貯金は40分ほど。去年はこの時点で貯金ゼロでハンガーノック寸前になっていたことを思えばかなりの進歩。600km達成が現実味を帯びてきた。

■22時間地点の調整
PC1からついに国道4号を離脱し、利根川を渡って千葉県に入る。国道4号はこれまで何度も走ってるためもう皆が辟易しており、
「もう二度と走らねーよ!」
と捨て台詞を吐いて千葉県を疾走する。そう、もし今回の600kmに失敗したらまた来年も再挑戦で国道4号を走らなくてはいけないのだ。冗談じゃない。
関宿から江戸川沿いに南下すると国道16号に合流。このルートは今回初めてのため、ルート作成時に試走しており、普通に走れれば25km/hは維持できることはわかっている千葉縦断の最速ルートだ。ただし、野田市から千葉市までの最短ルートではないため、途中にPCを1か所入れた。時間節約のためにもなるべくPCを増やしたくはないけど少しでも距離を延ばすためには仕方ない。
試走時は昼間だったのでわからなかったが夜間の国道16号はカオスだ。頭の悪そうなクルマや道交法無視なクルマがチラホラ視界に入る。千葉県の治安はどうなっているんだ。
530km地点のPCは5分程度の停止でレシートを取得してすぐに出発する。
次は22時間地点のPCだが、Flecheのルール上、22時間ちょうど、つまり我々の場合は午前0時ちょうどのレシートの取得が必要になるため、現在の貯金である20分ちょいをここで使い果たすことになる。
そしてゴールまではちょうど50kmなので25km/hを維持できればいいのだが、そんなギリギリの2時間は避けたいので、せっかく20分ちょいの貯金があるのだから22時間地点のPCを変更し、20分をつかってせめて5kmでも前に進めれば心に余裕をもてる。
ただし申告上の22時間地点のPCもPCであることに変わりはないのでちゃんとレシートを取得しすぐに出発。信号で止まった瞬間に、スマホであと20分で到着できそうな位置にあるコンビニを探す。ちょうど6km先にコンビニがあるとニョロ君が検索してくれ、そこを目指すことにした。

■念願のゴール
新しく設定した22時間地点のコンビニに5分前に到着し、午前0時ちょうどにレシートを取得。すぐさま出発する。残り44kmを2時間。これはいける。
補給の方もメンバー全員特に問題なさそう。やはり栃木県に入ったところで貯金を使い果たしてでもちゃんと食事(コンビニ弁当だけど)したのは良かったと思う。
そして23時間経過時点で残り19km。チーム内にも達成ムードが漂う。
「勝ったなこれは」
何に勝ったかはさておき、ようやく600kmの呪縛から解き放たれる。
「もしここで誰かがパンクしたら見捨てるかもw」
「いやホイールをダメにしてでもそのまま走り続けるでしょw」
実際誰かがパンクしないとわからないけど、ここまで一緒に走っておいて果たして見捨てることができるのか。実際のところ10分ちょいの余裕はあるので10分以内に修理できるよう全員で協力して速攻で修理するとは思うが、もし自分がパンクした立場なら、残り10km程度ならホイールをダメにしてでもそのまま走り続ける選択肢を選ぶかもしれない。
ラスト数キロの区間は信号が多く、ルート選択を誤ったなと思いつつ、盛岡をスタートしてから23時間47分、601kmを走って富津岬のコンビニに到着した。
認定に必要なのは24時間ちょうどのレシートなので商品をもってレジの前でウロウロと午前2時をちょっと待つ。どうみても不審な集団だがコンビニの店員であるおばちゃんには
「イベントで走ってて2時ちょうどにここにいたという証明が必要なのでちょっと待ってます。」
と説明し、不審者でないことをアピールする。おばちゃんの顔にも笑顔。
そして午前2時ちょうどにレシートを取得し、ついに24時間で600km超えを達成した。

■エピローグ
Flecheの完走認定を得るには、ナイスプレイスとして指定されている代々木の施設で午前9時からゴール受付が行われるので、そこでブルベカードとこれまで取得したPCのレシートを提出しなければならない。
午前2時過ぎの現在では電車も動いてないのでとりあえず仮眠をとるためにいったん解散し、各々の仮眠所に向かう。
ニョロさんはホテルをその場で予約したようでホテルへ、他の4人は木更津の快活clubへ向かうことにした。
日が出てからメンバー全員で電車で新宿まで輪行し、無事にナイスプレイスでゴール受付を済ませて解散した。
後日、AR日本橋から正式に認定の連絡があり、これで我々の挑戦は成功に終わった。
実は仮眠後に発覚したことだがジジさんの前輪がスローパンクしていて空気が抜けていた。あぶねぇ…いや運が良かったと喜ぶべきところだろう。今回はスタートからゴールまで5人ともメカトラブルが一切なかったのは大きな達成要素の1つだが、少なくともタイヤをなるべく新品にしておくというのはやはり重要だった。
最後に、何度も過酷なライドに付き合ってくれた現メンバー、および過去のチームメンバーに感謝。次は360kmちょいの短いコースでニコニコしながら走れるFlecheをやりたいと思う。

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