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言語は若い世代からネイティブができる 言語ビッグバンの事例から

言語の生成プロセスが直接観察された、めずらしい事例がある。

中米のニカラグアで、新言語(手話)が子どもたちによって作られたのだ。

“A Linguistic Big Bang ,” By Laurence Osborne, The New York Times Magazine, October 24, 1999.
(http://www.indiana.edu/~langacq/E105/Nicaragua.html)

1980年代、ニカラグアの革命政権が、ろうあの子どもを集めて学校をつくった。

ばらばらの場所で育ち、ホームサイン(家族にだけ通じる、自己流パントマイム)しか知らない子どもと、手話をまったく知らない教師が集まった。

「どうやってコミュニケーションしたらいいか?」

戸惑う教師たちを尻目に、子どもたちは身振り手振りから新しい手話をつくりだしていった。

この新言語は「ニカラグア手話」と呼ばれ、約1600語のボキャブラリーが確認されているという。

興味深いポイントをピックアップしてみると、

◇新言語の誕生には、共通言語をもたない子どもたちが直接コミュニケーションできること(この場合はろう学校に集まること)が不可欠だった。

これがろうあの子でなかったら、身振り手振りのうえに口の動き(音声)をそえてコミュニケーションし、新音声言語が誕生していたかもしれない。

◇教師たちの証言によると、この学校のろうあの子どもたちが簡単な手話を生み出し、次に新入の幼い子どもたちがそれを覚え、もっと複雑なバージョンを作り上げたという。

子どもたちのなかから、傑出して表現力のあるリーダーが生まれる場合もある。

そして若い世代が加わるにつれて文法や語彙が確立していき、数年から十年で新言語の骨格はできあがったらしい。

中国やインドネシアのように、地方語が多いところで戦後統一国家化がすすんだ地域では、政府やマスコミや教師が「国語」を普及しはじめてから数十年で、かなり定着している。

日本の明治時代のように、国家規模で言語が大きく近代化された場合も、幼児から学童世代は十年もあればネイティブスピーカー、ネイティブライターになり、その後の世代に継承される。

既存の言語をもつ者どうしが接触した場合、即席のピジン語が生まれ、それがある程度整備されて世代間継承されるとクレオール語として新言語化することが知られている。

もし適当な言語がなければ、ニカラグアの子どもたちのように、ピジンでもなくクレオールでもなく、若い世代じしんがイチから新言語を作って継承しはじめるだろう。

いずれのケースでも、言語をつくる、普及させるというのは、案外と短期間でできることなのだという感じがする。

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