【古典】アルジュナの不思議な性転換

インドの伝承は(むしろ、インドの伝承「も」?)、不思議な性転換の物語が結構あります。
有名なのは、乳海攪拌のヴィシュヌ⇔モーヒニーとか、マハーバーラタのシカンディンとか!

こういう↓書籍の標題みたいなキーワードで検索すれば、情報を集めた本が、かなりヒットします。

Same-Sex Love in India Readings in Indian Literature
https://www.palgrave.com/la/book/9780312293246

The Man Who Was a Woman and Other Queer Tales from Hindu Lore
https://www.routledge.com/p/book/9781560231813

この記事にて、ちょっとドキドキするような(?)、性転換エピソードを紹介します!

※以下、男性が性転換して美女になり男性の親友と性的な関係を結んだことを暗示する描写が含まれます※

■プラーナ文献に記載されています

インドの文献のひとつに、聖典の一種である「プラーナ」という、非常に無数の文献グループがあります。

どのぐらい無数かというと、マイナーなプラーナを除外した主要プラーナの英訳が、現在刊行中(未完)なのですが、その主要な部分の英訳だけで、ハードカバーで全100巻(予定)という具合です。
図書館によく「○○全集」「○○大系」のような、書架をまるまる埋め尽くすシリーズがありますが、そのぐらいまたはそれ以上の分量になりそうですね……

「プラーナ」は、特定の書物のタイトルとかシリーズとかの名と言うより、ある時代のある系統の文献の総称、とでも言わばいいでしょうか。

などと、頭をひねって一応の説明を書いてみたものの、インド文献は複雑なので、詳細はちゃんとした書籍をご参照くださいませ。

プラーナ文献については、以下の資料(『インド文献史』の著者のウインテルニッツ氏による概説の翻訳)がオススメです!
資料は公開されており、「PDFをダウンロード」をクリックすると、無料で閲覧できます!

プラーナ概説
https://doi.org/10.11168/jeb1947.1958.25

(以下、資料 P.0091 から引用)

信心の厚い印度人自身はプラーナは太古のものだと信じている。かれらは、ヴェーダを整理しマハーバーラタを編纂したその同じヴィヤーサ (vyasa) がまた現在の劫であるカリユガの始にあたつて十八プラーナを編纂したと信じている。

プラーナ文献のうち、18種類が主要であるマハープラーナ(大プラーナ)とされています。この18種類以外はウパプラーナ(小プラーナ)にあたります。
以下に紹介するエピソードは、マハープラーナのひとつである「パドマ・プラーナ」に記載されています。

■どんなエピソード?

~苦行したら神秘的な泉の力で性転換して記憶喪失になり親友に愛されて天国を経験してしまった~

……一行で表現したら、ひどい扇情的な宣伝文みたいになってしまいました。

記事のタイトルでお気付きのことでしょうが、マハーバーラタに主要キャラとして登場する、あのパーンダヴァ五王子のアルジュナくんのエピソードです。

クリシュナが無数の美しい恋人たちと戯れるという、名高い楽園に興味を抱いたアルジュナですが、その世界は女性しか昇れない境地。
クリシュナは、最初は無理と断るのですが、落胆したアルジュナを見て、友情またはそれ以上の好意から、特別に彼を招いてくれることに…
アルジュナは、クリシュナの楽園を訪れたい一心で、敬虔に試練を乗り越えていきます。全ての試練を乗り越えたとき、彼は全てを忘れ、なんと、麗しい乙女の姿になっていたのでした。

もともとアルジュナとクリシュナは、親友またはそれ以上と言っていい関係です(扇情的な意味でなく真面目な意味で!真面目にですよ!)
また、主にヴィシュヌ≒クリシュナに対する信仰の分野に、いわゆるバクティと呼ばれる思想の一派があります。バクティも広範な意味があるので、一口に説明は難しいのですが、クリシュナのような神と官能的な愛で結び付くことが神聖視されるので、おそらく、この物語はそういう思想の影響があるような気がします。

バクティ思想については、様々な書籍に情報がありますが、ネット上で読めるものであれば、以下の論文がイメージを掴みやすいと思われます!

中世北インドのバクティ思想と女性詩人ミーラーン・バーイー
http://id.nii.ac.jp/1060/00003194/

(以下、資料 P.0029 から引用)

男性の詩人たちが語る時に用いた女性のペルソナは,つねに,正にこのようなペルソナであった。男性の詩人たちが用いた女性の声は真実の内面の声であると伝統は主張するであろうが,しかし,これらの詩人たちは男性であったという剛純な事実が残るのである。彼らは,神を夫や愛人として経験するために女性に「なる」という作業を行わなければならなかった。

■翻訳はある?

英訳は、上述したプラーナ英訳全集こと『Ancient Indian Tradition and Mythology』にて、詳細な訳を読むことができます。

[Motilal Banarsidass Publishers]
Ancient Indian Tradition and Mythology (44)
Padma Purana (06)
[05] 0074. Arjuna's Wish and Its Fulfilment
https://www.mlbd.com/BookDecription.aspx?id=150

また、以下の記事で、この逸話が紹介されています。

Arjuna Becomes a Woman: A Transgender Tale from Padma Purana
by Satya Chaitanya
https://www.boloji.com/articles/10722/

■和訳してみました!

試験的ではありますが、この部分のみを引用して、英訳から和訳してみたものがあります。
長文なので自前Wikiにリンクしております。よろしければ、ご参考までにご利用ください。

パドマ・プラーナ(蓮の古伝説)
第05巻 パーターラ・カーンダ(地界編)
第0074章 「アルジュナの願望とその成就」
https://kkp.wicurio.com/index.php?Translation/Padma_Purana/05_0074

◆参考資料◆


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