「#戸田奈津子翻訳の艦これにありがちなこと」がトレンド入りしたという昔話

今は昔――。

…というほど昔の話ではないけれど、
インターネットの世界ではもう古い話だと思う。

2015年5月5日夜。
Twitterで「#戸田奈津子翻訳の艦これにありがちなこと」がトレンド入りを果たした。Twitterでのトレンドには、その時間にTwitterで話題になっていること、例えば、放映中のテレビ番組やニュース、大規模なイベント、何かしらの記念日などに関するワードが入ることが多い。

「#戸田奈津子翻訳の艦これにありがちなこと」は、ツイッターのユーザーから発信されたものである。
読み飛ばしてもらっていいが、一応「#」、「戸田奈津子翻訳」、「艦これ」について簡単に説明する。

◆「#(ハッシュタグ)」
#(ハッシュタグ)の機能についてツイナビには次の通りに記されている。

#記号と半数英数字で構成される文字列のことをTwitter上ではハッシュタグと呼ぶ 。発言内に「#○○」と入れて投稿すると、その記号つきの発言が検索画面などで一覧できるようになり、同じイベントの参加者や、同じ経験、同じ興味を持つ人のさまざまな意見が閲覧しやすくなる。ハッシュタグはTwitterユーザーが自発的に使用するようになったルールであり、ハッシュタグを使用するにあたっては、Twitter Inc.での申請や登録は必要ない。

◆「戸田奈津子翻訳」

戸田奈津子は日本で最も有名な字幕翻訳者といえるだろう。「なっち」という愛称で呼ばれることも。
膨大な洋画の字幕を手がけており、その翻訳を目にする人も機会も多い分、批判も多い。誤訳や飛躍し過ぎた意訳などにより、原作を知る者をはじめ、作品のファンを失望させることも少なくない。

戸田奈津子の翻訳の特徴として、「なっち語」と呼ばれる戸田奈津子特有の言い回しがある。以下、『ニコニコ大百科(仮)』の例を参考に。

・「~を?」「~なので?」「~と?」「~で?」などの、原語では疑問文でない文章への疑問府への付加。
・音声では小声でつぶやいているような言葉に「!」をつける。
・「~せにゃ」「~かもだ」「~かもけど」「コトだ」などの独特な古臭い、または不自然な語尾の付与。
・「おっ死(ち)ね」などの古い言い回し。また上述の「韋駄天」のように仏教用語の混入した慣用表現も古い日本語表現であり、ジェネレーションギャップを感じさせる。
・俗語(特に卑語や罵倒語)を訳す際のなっち語。「cherry boy」→「プッシー知らず」、「Hasta la vista, baby」→「地獄で会おうぜ、ベイビー」など。
・「バカこくな!」「こいてねえ!」
・敬語とタメ口の混合

検索をかければ、戸田奈津子の誤訳をまとめたサイトのほか、『ニコニコ動画』を見ると、戸田奈津子が○○を翻訳してみた、というパロディ動画も多く存在する。

◆「艦これ」

「艦これ」とは、DMM.comより提供される艦隊育成シミュレーションゲーム「艦隊これくしょん~艦これ~」のことである。プレイヤーは「提督」として、第二次世界大戦期に活躍した艦船を擬人化した「艦娘(かんむす)」を育て、強い艦隊を編成していく。

ゲームの他に、アニメ、漫画、小説などメディアミックス展開もされている。

◆「#戸田奈津子翻訳の艦これにありがちなこと」

さて、「#戸田奈津子翻訳の艦これにありがちなこと」というのは、
つまり、日本語のゲームである「艦これ」を外国語からの翻訳と仮定し、架空の原文から戸田奈津子が翻訳した場合、どのような日本語訳が想定されるかを考える一種の大喜利のお題のようなものである。

コトの発端は、2015年5月5日17時に、産経新聞がオンラインに載せた「映画字幕の翻訳と通常の翻訳は“別もの”、理想的なのは「透明な字幕」」という、戸田奈津子へのインタビュー記事である。

映画会社からは「字幕の漢字をひらがなにしろ」と言われるんですよ。例えば、「拉致(らち)」。「ら致」じゃ重みがない。素晴らしい漢字は感じだからこそ素晴らしいんです。「安堵(あんど)」が難しいから「安心」に変えてくれと言われたこともありました。でも2つは似て非なるもの。その違いが無視されたんです。「日本語が貧しくなっている」と痛感しましたね。[中略]映画字幕の翻訳と通常の翻訳は別ものなんです。字幕が字数に縛られていることを知らない人から、「誤訳」などと批判を受けることもありますが、気にしません。

批判を意にも介さず、自身は字幕の翻訳は通常の翻訳とは違うとしながらも、字幕翻訳に対する注文を、日本語一般の乏しさを反映しているとみなすような、戸田奈津子の発言に対して、Twitterのユーザーの中には怒りに近い反感を覚える者もいた。
この類のツイートを受けて、海沢海綿さん(@ka_i_me_i)が、5月5日18時46分、「#戸田奈津子の艦これにありがちなこと」とツイートする。

以下が、その一連の流れである(下から時系列。一部刺激が強いので伏字な点はご了承願う)。

奇しくも、この前々日にあたる5月3日に、ピーター・バーグ監督の『バトルシップ』が放送され、Twitterで盛り上がっていたことも相まってか(戸田奈津子が字幕担当&艦隊つながり)、
「#戸田奈津子翻訳の艦これにありがちなこと」を付したツイートが、リツイートも含めて次々と発信されていき、20時台にはトレンド入りを果たすことになった。

5月6日から7日に日付が変わった後に集計したところ、この「#戸田奈津子翻訳の艦これにありがちなこと」のツイートは9000件近くにのぼった。

(この集計はツイッター分析アプリを使用)


一見接点を持たないような、字幕翻訳家の戸田奈津子と、日本のオンラインゲーム「艦これ」を掛け合わせられた特異なハッシュタグ祭りであった。

――回顧終了。


AY

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