【BUSTAFELLOWS感想】なぜアダムは攻略対象になれなかったのか?

初めに

 BUSTAFELLOWS(バスタフェロウズ)。eXtendから2019年12月19日に発売された、所謂乙女ゲームです。形式としてはノベルゲームで、選択肢によって攻略キャラクターや結末が変わります。乙女ゲームをプレイするのは初めてだったのですが、正直期待以上の出来でした。具体的に言うと購入して三日ほどで全ルートを読破し、実績も全て回収しました。ストーリーの真相について思うところがあったので、今この文章を書いています。テーマは表題の通りです。

 門外漢の感想なので的外れな意見を多々含むと思われます。
 次章からBUSTAFELLOWSの核心にまつわるネタバレを含みます。プレイ後の閲覧を強く推奨します。




アダムという男

 アダムというキャラクターがいます。ヒロインの幼馴染で、報道番組の顔とも言える人気キャスターです。公式サイトでも以下のように紹介されています。

テウタ(ヒロイン)、ルカ(ヒロインの親友)の幼馴染で、ニューシーグの報道番組『ザ・ゼロアワー』のアンカーマン。特定の政治思想にとらわれず、誰の味方もしないスタンスが人気を呼んでいる。整った容姿で女性人気も高く、プライムタイムの報道番組だけでなく、ラジオやバラエティ番組にも多数出演し、タレントのように扱われることも。※括弧は引用者による。

画像1

画像左からヒロイン、ルカ、アダム。三人は幼馴染で、大人になった今でも週に一度集まるほど仲が良い。

 事件や面倒ごとに巻き込まれるヒロインを心から心配し、忙しいスケジュールの合間を縫って会いに来てくれる好青年です。しかし、彼は攻略対象キャラクターではありません。分岐するストーリーの中で、彼と恋愛をして結ばれる道はないのです。少しひねくれていてクセが強い攻略キャラクターと見比べて、「もうアダムとくっつけよ!」と感じることも多々ありました。きっとこのゲームを実際にプレイされた方なら同意してくれるのではないでしょうか?

 ゲームを進める中で私はてっきり、アダムが実は極悪人だとか何かしらの事件で敵対するだとか、裏があるものだとばかり思っていました。

 アダムが抱えていた秘密は、物語の最終章、 "AULD LANG SYNE" にて明らかになります。確かに彼は過去か罪を犯していました。六年前、ヒロインの実兄を殺害したのはアダムだったのです。

六年前の真相

 当時、ヒロインの兄はドラッグ中毒で精神が非常に不安定な状態にあったとされています。それでもヒロインは昔は優しかった兄のことが大好きで、ギャングの紛争に巻き込まれて死んだとされている兄の死の真相を知りたがっていました。

  その真相はあっけないものでした。ヒロインの兄が、妹の親友であるルカに暴行を加え、それを知ったアダムが彼を殺害してしまったのです。ルカを襲った憤りとヒロインにも危害が加わるかもしれないという恐れがアダムを動かしました。三人は、とても仲が良かったのです。アダムはこの事実を隠蔽し、六年間過ごしてきました。

 これは必ずしもアダムの不誠実を意味しません。当時アダムは十七歳、ヒロインの兄は二十二歳。加えて、ヒロインの兄は体格も良く、銃を所持していました。ドラッグを使用していて、言動も粗暴だった。現に、最終章で真実を知ったヒロインもそう言って、当時のアダムの正当防衛を主張しようとします。アダムの回想でもその通りでした。しかし、アダムは頑なにヒロインの兄を悪人だと言おうとしません。

 アダムは犯罪を犯していたが、その人物像は変わらず優しいものだった。いちプレイヤーとしてはとても嬉しく、同時にアダムの裏を疑っていた自分を恥じました。

 ここで表題の疑問が浮かびます。何故アダムは攻略対象になれなかったのだろう? 私はそこに、「恋愛ゲーム」BUSTAFELLOWSの姿を見ます。

バッドエンドの条件

 BUSTAFELLOWSの攻略対象は五人。悪徳弁護士、殺し屋、美容形成外科医、法医学医(検死官)、サイバーギークと、肩書きを並べただけでも裏のありそうなキャラクターが集まっていることがお察しいただけると思います。

 共通ストーリーの選択肢次第で、それぞれの個別ルートに進むことができます。つまり、五パターンの恋愛ストーリーを読むことができるのです。個別ルートにも選択肢があり、グッドエンドでは二人は結ばれ、バッドエンドに進んでしまうと悲しい結末が待っています。バッドエンドではヒロインや攻略キャラ(もしくはその両方)が死んでしまうことがあります。

 ここで指摘したいのは、我が強く裏のありそうな(それこそアダムがなおさら誠実に見えてきそうな)攻略キャラクターたちは、グッドエンドにおいてヒロインのために殺人を犯すことはないのです。ヒロインが死亡し、その復讐で人殺しに手を染める結末もありますが、それはバッドエンドにしか見られません。

 ヒロインのために人を殺さなかったのが偉いとか、アダムの判断が間違っていたとか、そういった問題ではありません。困難や危機に直面したときに、二人で切り抜けたのか、それとも一人で抱え込んで解決しようとしたのか。グッドエンドは前者で、バッドエンドとアダムの一件は後者に当てはまります。実際にプレイされたことのある方には、バッドエンドの選択肢を思い返してみていただきたく思います。危険な状況でヒロインが一人でなんとか解決しようとする選択肢を選ぶと、バッドエンドになったルートが幾つか思い当たることでしょう。

 ヒロインのために人を殺す、危険を共有せずに一人で解決しようとする。六年前のアダムの選択は、BUSTAFELLOWSの(全てではありませんが)バッドエンドとの共通点を持ちます。私たちプレイヤーは攻略キャラとのバッドエンドに進んでしまうことがありますが、アダムは六年前に既にヒロインとのバッドエンドに片足を踏み込んでいたのです。

渡せなかったコサージュ

 ヒロインは六年前に兄を亡くした当時は忙しく、ちょうど誘われていたプロムに出席できず仕舞いでした。ストーリーの中でも、行けなかったプロムへの憧れを口にすることがあります。ヒロインをプロムに誘っていたのはアダムでした。

 ヒロイン(とルカ)の為に彼女の兄を殺し、結果としてそれが彼女とのプロムを叶わないものにした。六年前の事件に関しては不起訴に終わり、アダムは一時的に故郷へ帰ることになります。空港に向かうタクシーの中で、アダムは夢を見ます。プロムに行けばよかったなあなんて、彼女と笑い合う夢を。前述の通り、アダムとヒロインの物語は六年前に途絶えているのです。行けなかったプロムを最後に。

 最終章を終えるとスタッフロールが流れ、更にその最後にはイラストが表示されます。子供時代の幼馴染三人の後ろ姿が、やがて大人になった今の三人の姿に。そして最後には、線路の上に一人で立っているアダムの姿です。廃線であろうことは言うまでもありません。今は使われていない道、つまりルートがない。仲良しの幼馴染三人が切り離されて、アダムは一人で進んで行かなければならないことと同時に、彼が攻略キャラに至らなかったことを如実に表していて、この演出には上手いなあと思わず舌を巻きました。

終わりに

 日常のストレスから「金払えば確定で顔の良い男が好きになってくれる❗️」と浅い気持ちで手を出した乙女ゲームでしたが、世界観の作り込みに正直驚かされました。続編の制作も決定したとのことで、今から待ち遠しいです。蛇足ですが推しはリンボです。最後までお読みいただきありがとうございました。

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