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マサとハル1

マサとハル1

 マサは、弱い男だ!
名前は、マサキ、いや、マサオ、マサミ?
なんて名前かな⁈
相方のハルは、小悪魔だ!
ハルミかコハルかハルヨ?
いわゆる、そんな類い。
 二人は十年間恋人同士でいた。
いや、同志かな••••••

1.
出会いは、マサがある店でクダを巻いていた十年前のある夜に、ハルが現れたときからはじまる。小走りにフルートを抱えてハルは店に飛び込んできた。なんでもフルート吹きのギター伴奏者を探していたらしい。
入ってくるなりハルは、店長にいきなり
「フルート吹きたいんだけど、誰か伴奏してくれないかな」
その、ぶっきらぼうな言い草に雇われ店長の太一は、くわえタバコを揉み消して
「いいけど・・何吹けるの?」
と、負けない勢いでぶっきらぼうにと、思った矢先、香りにやられた。少し抑え気味に
「ちょっと素のまま吹いてみて」
と、優しい声でたずねた。
いい女の香りは、一瞬で場を華やかにさせる。
 流れてきたのはアメイジンググレース。流れるようなメロディーがひと息で店の雰囲気を和ませた。
メロディーを少し吹いてすぐ、おもむろにハルはつぶやいた。
「ポサノバが本当は、吹きたいの」
ポサノバ好きのマサが振り返るとマサが一言たずねた。
「keyは何!」
ハルは
「F (エフ)」
と、一言言った。
店に置かれた、古いクラシックギターのチューニングをしながら、おもむろにFメジャーセブンの響きが店内に流れた。
「いつでもどうぞ」
マサがいうと、ハルのフルートがイパネマの娘を奏で出した。

2.
イパネマの娘が吹き終わり、その後も、二人のセッションは続いた。コルコバード 、想いあふれて、WAVEと立て続けに、トムジョビンの楽曲がチョイスされ、フルートの優しい音色が店内に響きわたった。いつのまにか、雇われ店長の太一も舞い上がりながらの大喝采!
「とってもイイよ 爽やかだ・・・」
そんな二人が、ユニットを結成したのは、ハルが雨が降り出す街に駆け出す、一瞬の手前、店の片隅に置いてあったビニール傘をハルに押し付けながら一緒に店を連れだって出た、その帰り道だった。
「一緒にやらないか」
どちらともなく言ったのか
二人は一緒になった。
 ユニットを組んだだけでなく、二人は一緒になったのだ。
フルートのアンブシュアと二人の口づけに、どちらが、笛吹きになったかはロマンスの中ではメリーゴーランドのようだった。
二人のユニット名は
ハルが
「笛ろまんす」と名付けた。

3.
二人は、いろいろなライブに出始めた。出るとハルのフルートは拍手喝采を浴びた。ハルのもとへは素敵なプレゼントとファンレターの山。ときには、ラブレターなるものもいくつか送られていた。そんな手紙を何枚かハルはマサにも見せながら、手紙の返信をどう書いたら良いのだろうとマサにも相談をした。
マサは、そんなときいつも
「ハルは良いよな、モテるから、僕はずいぶん心配だよ••••」
と抑え気味に自分の妬く想いをつぶやくのだった。
ハルは人に取り入るのが、うまかった。また、ココロを奪うことも・・・
 あるとき、ファンのある男の恋人らしき女が楽屋に怒鳴りこんできた。
「コイツが、ハルなの!」
「何よ、人の男をとっておいてどう言うつもりなの」
「極悪非道の小悪魔よアイツ!」
そんなときには、決まってマサが相手の女に頭を下げた。
女が言うには、男はハルのフルートに惚れ、吹きながら光るハルの流し目にやられたそうな。演奏の後に一番熱心に聴いてくれた男とデートの約束をしたりする。そんなハルだった。
ハルとて、悪気があるわけじゃ無い、演奏のダメ出しを一番のファンから聞いてみたいのだ。
「アタイの演奏 どうだった?」
それが、ハルのリスナーに対する口ぐせだった。
ファンの中には、ハルのフルートだけじゃなく心とカラダの全てを奪いたいと思う輩さえいる。
多分、さきの彼とはムードに酔いしれる星影でくちびるぐらいは重ねたのだろう。それが、相方にバレて烈火のごとく怒ってきたというだけだ。
「やれやれ」
こんな夜にマサは、そう呟くだけだった。

4.
「笛ろまんす」は、クラシカルな要素もあり、くわえてラテンの流れを組むボサノバのリズムが弾けるオシャレなインストグループだった。マサの持っているギターはブラジル製のギターでハルのフルートにピッタリだった。マサとハルはユニットを組んでから一年ぐらいは行動を共にしていたが、その後ライブハウス以外では別行動が多くなってしまった。
なぜなら、音楽では濃密にやりとりすることができたが、恋愛の上では二人の中で恋愛感が見合わないのだ。多分、それは男と女は違うという何千年も古い昔から決められたルールに二人が縛られているに他ならない。
マサには、三年越しの想いを馳せる人がいた。

つづく

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