見出し画像

セックス

銀杏BOYZの新しいシングルのミュージックビデオを観た。
アクリル板越しに男女が情熱的に舌を絡めてキスをし続ける映像。体から立ち上る蒸気まで見えるようで美しい作品だと思った。
思ったのだけれど、最後に女性が絶望するかのようにうなだれ、男性はこめかみに銃を当てるところでビデオが終わり、気持ちが半端なところで萎えてしまった。

BENTという第二次世界大戦時、ナチスが作り続けた虐殺収容所の中で出会った二人の青年を描いたミュージカル作品がぼくは好きだ。
二人はまもなく愛し合うようになるのだけど、極端に行動は制限される。監視と蔑視と。そんな中、二人はそれぞれの独房の隙間から伸ばした手を握りあう。そして射精するのだ。

銀杏BOYZのアクリル板のキスはたしかに美しかった。だからこそそんなに軽々しく絶望なんかしてくれるなよと思ったんだ。

10年前に作った作品を友人が買ってくれて、飾った様子を写真で見せてくれた。キスをする二人の青年の後ろの壁にベルを持った二人の人間が手と手を近づける誰かの絵が掛けられていた。眺めてたら、銀杏BOYZのビデオとBENTのことを思い出した。

「どうしようもないこと」はいつでも不意に訪れる。抗いようもないんじゃないかと思ってしまうような時間は波のようにやって来続ける。だけどそんな時、そんな場所だとしても、いつもの営みを続けてしまう人間がぼくは好きなのではなんだろうな。そのためにうっかり危険を冒してしまう人。悲惨な状況下でバクテリアのように煌めくユーモア。股間のついでに心を温めるセックス。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?