「Room 420, / Feel your OSUSHI feat. 春乃杼景」を100倍楽しんで聴くためのnote

こんばんは! ゆこなるです!
このnote記事は、2019年にわたしのぷらいべったーアカウントに投稿していたテキストの加筆修正再投稿版です。

以前、「Room 420,」という楽曲で作詞を担当しました。

少し昔の曲ですがわたしが関わったオリジナル曲の中でもかなり思い入れが強い曲なので、note上にもこの曲に関するテキストを残したいと思い書きました。改めて聴いてみていただけたら嬉しいです。

曲の出自について

本題に入る前に、この曲のバックグラウンドについてお伝えしておく必要がありますね。
少しばかりお付き合いいただければ幸いです。

曲を書いた人(?)たち:「Feel your OSUSHI」

まず「Feel your OSUSHI」というのは、わたしの過去noteでもたびたび言及しているkawaii trackmaker・國分。さん(えびのおすし先輩)、UTAU界隈きってのテロリストとして名の高い問題児(ほめています)・秋刀魚@秋P(さんまのおすし先輩)、そしてそんな中に突如迷い込んだか弱き一般寿司・ゆこなる(えんがわのおすし)による即席の音楽ユニット的なものです。
キャッチーでダンサブル、スッと耳になじむ音作りが印象的な國分さんに対し、秋Pはサンプリングを多用したテクニカルで攻撃的なトラックメイクを持ち味としていました。
その二人が音作りの面でタッグを組むことで「柿の種チョコ」を思わせる化学反応を狙うのが、このユニットの主な趣旨です。寿司なのに!

そして今回紹介する「Room 420,」という曲は、そんなFeel your OSUSHIにとって2曲目にあたるオリジナル曲です。
この曲は國分さんによって企画されたUTAU音源オンリーのコンピ「UTAU STREET」のために書き下ろされ、その後動画として公開されました。この曲を語るにあたってこの「UTAU STREET」というアルバムの存在は切っても切り離せないので、そちらにも軽く触れましょう。

コンピレーションアルバム:「UTAU STREET」

「UTAU STREET」は2019年11月(4年前……!?!?!?)にUTAUイベント「君とUTAU日々3」にて頒布されたコンピレーション・アルバムです。

このコンピのテーマは「UTAU×UNDERGROUND」。暗澹たる気持ちになるものからなぜか爽快な気持ちになるもの、ヘドバン必至のノリノリテンションになるものまでさまざまな楽曲がありますが、そのすべてに参加者個々の「アングラ」に対する感情や解釈がぶつけられています。ガチ名盤なので未聴の方は是非聴いてみてください。

一部楽曲はフルで動画が投稿されていたりします。
(cAt CuTの動画投稿は2023年個人的ハイライトのひとつです。阿澄沿線神ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!)


「アングラ」と聞いて皆さんが思い浮かべるものは何でしょう?

わたしがこのアルバムを初めて聴いたときに感じたのは、「人の心の内面を重視するか」「風景・社会的状況などの外面を重視するか」というアングラの捉え方の二極化でした。
具体的に言えば、無生物音源を使用したインスト系の楽曲で参加した方は「路地裏」「宇宙(?)」「廃墟(?)」のように普通なら踏み入れられない状況や環境をテーマにしている一方で、主催である國分さんをはじめ歌モノを手がけた人は「人の心の内側」に焦点を当てているように感じたのです。

そしてわたしが「アングラ」と聞いて思い浮かべたのも、後者でした。

「アングラ」という大好きなテーマ

わたしはこの「アングラ」というものがかなり好きです。

絶対的に偉い人がクリーンな世界を目指すと言ったって言う事聞かない人はごみをポイ捨てするし、壁に落書きするし、万引きをしてしまうし、援助交際に手を染めてしまう。
「そんなのわたしにはありえない」なんて言えないほんのちょっぴりの油断とか、溢れ出てしまう煩悩とか悪意とか、それについ従ってしまう人の悪い部分を、わたしはどうしても憎むことができません

……例えばですけど、映倫認定が下りないレベルのスプラッター映画の公式サイトとか、見に行っちゃうんですよね。絶対にトラウマになりそうだから映画そのものは一生観ないけど。
で、案の定サイト観た時点で「アッやば、これ駄目な奴だ」と後悔してやっとブラウザバックするみたいな。

みんな自分の良くない部分や悪い部分を抑圧して、なんかいい方向に昇華して発散してる。それか、それがうまくできない人は昇華しきれずに何かを引き起こしてしまう。
悪いことを起こしてしまったならその責任は当然それを起こした人が取ってしかるべきなのですが、「良くない部分がある」「悪い部分がある」ことそれ自体を、わたしは否定したくないと思っています。そういう部分込みで人間だから。
例えばスプラッター映画を撮りたい、観たいと思ってしまう残酷な部分だって、それを合法的な作品の制作や合法的な視聴行為に昇華できるのであれば何ら悪いことじゃないのです。うん。


……さて、國分さんから「Room 420,」のデモ音源をもらったとき、そのメロディはとても明るく可愛らしくて、アングラというおおもとのテーマからはおよそかけ離れたもののように感じました。

でもきっとそれは、國分さんからわたしへの挑戦状だったのです。
アングラというテーマに対して、わたしがどれだけ思いをぶつけられるか。そんな、強い期待のこもった挑戦状。
……頑張らないわけないじゃないですかあ!!!!!!!!!!!!

「Room」「420,」

・歌詞を書くにあたり、まずは「アングラ」という部分に思いを馳せることから始めました。
アングラと言ってもそこから思い浮かぶものはさまざま。歌詞として描ける分量が少ないことがわかっていたため、ピンポイントにテーマを伝えられるモチーフを用意する必要があると考えました。

そして、わたしは思いのほかすんなりと「それ」に行き当たります。

……はい、「それ」とは即ちラブホテルのことです。

UTAU STREETのリリースは「ラブホでUTAU音源を録ってみた」の記事より前なのですが、実はそれ以前から、わたしは大っぴらにはしないまでも「ラブホテル」という場所に興味を持ち、好意的な感情を抱いていました。
ほかの人よりも少し多めに知識を持っており、かつ一般的にアングラな印象を持たれがちな「ラブホテル」という場所をモチーフにすれば、他の人には書けない良い歌詞が描けるのではないか……わたしはそう思って作詞に着手するのですが、その思惑はあっさりと頓挫します。

なぜなら、わたしの持っているラブホテルへの印象が周囲の人と乖離していることに気が付いたから。
一般的に、ラブホテルはカップルや危ない感じの人が行ってあれやそれやしていたり、なんとなくさびれて退廃的だったり……まさに「アングラ」と言うにふさわしいイメージがあるものだと思います。しかしラブホへの興味が強いわたしにとっては必ずしもそうではありませんでした。

わたしにとってのラブホテルとはアングラな場所ではなく、むしろ愛し合う人たちが人目をはばからずに好きなことを好きなようにできる、明るくて楽しくて幸せなワンダーランド。
具体的には「かわいかったりゴージャスだったりするお部屋」「ハニトーが食べられる場所」「かわいい衣装やカラオケ設備が置いてある場所」「たまにウォータースライダーやドクターフィッシュの水槽が置いてあるエンタメ施設」……というような、なんとも明るいイメージが先行してしまうのです。

こんな状態ではテーマである「アングラ」からは大きくかけ離れてしまいます。頭を抱えながら調べものをするうち、わたしはもう一つのモチーフとなりうる概念と出会いました。

「420」という数字は大麻を意味する隠語・スラングとして知られています。
このスラングにちなんで4月20日はマリファナ国際記念日として指定されており、この日の午後4時20分になると大勢の大麻愛好家が大麻を吸って祝ったりするそう。大麻が違法な日本ではあまり考えられないですけどね。

そんな大麻にちなんだ420という数字は海外で実質「忌み数」のように扱われている場合があるようで、実際ホテルなどで420号室をあえて作っていないことが多いようです。
420号室を作ることによって愛好家が一気に集まって大麻をモクモクとやられてしまったら部屋の清掃とかめっちゃ大変でしょうし、大麻が合法の場所においては当然の対応のような気もします。日本だったら「禁煙」と張り紙しておけばよいのでしょうが、治安状況によってはそうもいかないでしょうし……。

少なくとも日本において大麻は禁止されています。大麻が合法な国であったとしても、おそらく大麻を吸う上でのマナーとかルールのような「縛り」が存在しているはずです。
でも大麻を知ってしまった人たちにとっては、もしかしたらそんなルールなんかより「大麻を吸いたい」という気持ちが上回ってしまう瞬間があるかもしれません。
当然ルールは守る必要がありますし、それを外れてしまったときには罰をうけなければなりません。でも心の中で大麻吸いてえなあ、吸ってみてえなあと思っているだけならばギリギリ許されていてほしいなと、わたしは思っています。なぜなら、わたし自身そういう危うい感情を持つ人間へ思いを馳せることが好きだから……という、非常に危ういエゴなのですけど。

「420」というスラングに出会ったことで、大好きなラブホテルのイメージを残したまま、詞の中に最大限わたしの「好きなアングラ」を落とし込むことができたと思います。調べものって大切だなあ……。

UTAU音源「春乃杼景」くん

Feel your OSUSHIにおけるわたしの重大な仕事のひとつに「ボーカル音源の選定」があります。音源決めは本当に苦心したのですが、今回は春乃杼景くんに決めました。

杼景くんはおとなしめで幼い、少年と言うより「おとこのこ」と言いたくなるようなかわいらしい声質の音源さんです。本当にかわいいので是非声を聞いてくれ。
ぱっと見アングラなどとは縁遠そうに見える彼をボーカルに起用した理由は、非公式の設定がめちゃくちゃ壮絶だったから
杼景くん、ほんとに第一印象から比べるとギャップで精神をやられかねないレベルの非公式設定があるんですよ……。UTAU界隈広しといえど、設定のハードモードさゆえに読みながら泣きそうになったのはひなひかちゃんが最初で最後だと思います。詳しいことは言わないようにしますが、気になる方は覚悟のうえでネットの海を探してみてください。
(……正直あんな設定を持った子にこの曲を歌わせている時点でいろいろ駄目なような気がするのですが、まああちらのあの設定が「非公式」ならこちらの歌詞も「非公式」ってこととして許してください。杼景くんごめん!)

・ちなみに曲の前半の歌詞が架空言語っぽくなっているのは、この曲構成で歌詞が長すぎると締まらないのではないかと判断したため。杼景くんは架空言語用の音源を持っていないので、スキャットプラグインを使用して無理やり架空言語化しています。
架空言語化の際は響きが硬いと感じた音(具体的にはか/た/が/だ/ば行の音)を使わない設定にしました。杼景くんの声のふわふわした雰囲気に寄り添った、柔らかい響きの架空言語にできたのではないかと思います。

Feel your OSUSHIでの共作

・Feel your OSUSHIにおける楽曲の制作手順はざっくり以下の通り。

①國分さんがデモとしてメロ・うわもの部分の音を作り、わたしと秋Pに提示。
②わたしはそれを踏まえて歌詞を決める。すでに書いている通りUTAU音源選びの権限はわたしに委ねられている他、タイトルもわたしのセンスで決めることになっています。
③秋Pは國分さんのデモから仮のベース・キックの音を抜いたものを元に好き勝手大暴れし、追加トラックを作成。
④各々作ったものを國分さんに提出、國分さんがMIXをしてから完成。

なお②③の工程はは同時進行のため、わたしと秋Pの間でのやり取りがない限りお互いの動向は一切わかりません。
また國分さんサイドも途中経過等の確認をしないため、どういう歌詞やトラックが仕上がってくるのかがデータ提出まで一切わからないのが常です。

……ところが、「Room 420,」制作時のわたしは、あえてその手順を少し崩して秋Pへのみ先に歌詞を見せ、世界観の詳細な説明まで行っていました。破壊担当である秋Pにあえて説明を聞いてもらったうえで暴れてもらうことで、この世界観をより強固にできるんじゃないかと思ったからです。
わたしの勝手な判断で行ったことですが、この試みは大成功しました。Feel your OSUSHI最高!

國分さんに対しては詳しい説明をしていないのですが、後日國分さんから頂いたリアクションを見る限り、歌詞で伝えたかった内容はほとんど正確に伝わっていたんじゃないかな……と思います。すごすぎ。
國分さん、歌詞めっちゃ褒めてくださってありがとうございました。一生肩こり知らずで生きていけそうだし、少なくとも2023年までは「肩こった~」と思わず生き延びられてます。

・曲の聞きどころはなんと言ってもドロップパート。
この曲のドロップは2つのパートに別れていて、前半のメロが消えている部分は秋P、後半のメロのみ部分は國分さんと、それぞれのソロパートのような扱いになっています。
この曲はほぼ歌入りのダンスミュージックと言った印象で、サビに当たる部分には歌が入っていない構成です。そのため歌詞が非常に短いのですが、この曲における物語は杼景くんの歌だけではなく、その合間のinstにも広がっているのではないかと思います。

―――

ということで、少し前の曲ではありましたが「Room 420,」について書きました。ほんとに思い入れがあったので、noteにこの曲に関する記事をどうしても残しておきたかったのです。

ちなみにこの曲は後日國分さん個人によってセルフリミックスされ、「Room 420, ver.1.5」としてアルバムに再収録されました。
歌唱はなんと春乃杼景くんの中の人である須賀まひなさん! やばすぎる。

以前紹介した「Trenta」と同じアルバムです。
こちらはSpotifyやAmazon Musicなどのサブスクでも配信されているので、興味がある方は是非聴いてみてくださいね。

あっそうそう、もともとのぷらいべったーにはこの歌詞の核心的なネタバレにあたる内容を書いていたのですが、今回の記事ではあえてばっさりカットしました。なんか蛇足な気がしたので……。ごめんね。
そんなに考察することもないと思うので、雰囲気で「おもろい曲だな~」と思っていただけたら本望です。

では、今回はこのへんで!


ふたつを 並べ のせて
見た 夢の跡
壊れて おちて
ばらばらなの

「さよなら もうおしまい」
嘘つかないでよ
堂々巡りの
うたを 遺す

あいことばの部屋番号
雲のなかに包まれて 浮かぶ
きみの 声の 遠のいてく

夜が明けたら悪夢 ならば
どこまででもついてゆくの
だから わたしを
好きにしてよ……

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