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かまどうまへびとんぼ。


最初の勤務地、むかしは僻地と呼ばれる地域で山奥のさらに山奥にあった。
コンビニもスーパーもガソリンスタンドもない。 
実家からは車で1時間以上かかる。

電車ではなく、一両編成のディーゼル車が1日に3本ほど。
生徒は学校全体で30人もいなかったように思う。

学校付近には小さな商店と、以前民宿を営んでいた家があった。
そこが、いわばその地域の銀座である。

学校のそばに教員住宅があったが、
産休補充での採用だったから空きがない。
通うにしてもまだ免許をもっていなかったから無理だった。
大きな古い貸家を紹介された。
隣近所に家がないポツンと一軒家に二十代の女の子(笑)がたった1人。

1年2ヶ月ほど住んだその家は、すぐ下に大きな川が流れる所に建っていた。
ザーザーという音に最初は慣れなくて、雨のあとはその音が大きくなり不安だった。

そして、川音よりも苦戦したのは虫の多さ。
家の中に虫がたくさん出るのだ。入るのだ?
仕事から帰るとすぐに、玄関に置いたハエタタキと殺虫剤を持って、家中を点検する。
広い台所、六畳間三部屋、お風呂場、トイレ。

毎回寒気と動悸がするほどに本当に苦手だったが、やるしかない。
夕飯中に出てこられては困るのだ。
古くて隙間だらけの家だし、山や川のそばなので
種類も数も多い。

ある時、台所のシンクの方からバチンバチンと音がする。大げさではない。本当に金属を叩くような音。
そーっと近づくと大きなカマドウマだった。
脚の筋肉が太い、立派な肢体。
その音は彼の足音だったのだ。
どうやって退治したかは忘れたけれど、なんとかやっつけたのだろう。
寝ている時じゃなくて良かった。

仕事から帰ると虫退治、夕飯準備、夕飯、片付け、お風呂…

ある日、お風呂に入っていたら!
なんと、古いタイルの上に、見たこともない虫が。
その時のわたしにはハサミムシの怪獣のように見えた。6.7センチあったように思う。
こちらは裸である。
素早い動きを見せる敵を、素足に触れられないように、お湯で勢いよく排水溝に流した。
心臓はバクバクだった。
完全無防備なわたしを襲ってくるなんて。(襲われてはいない)

翌日、ハサミムシ怪獣の絵を描いて理科の先生に見せた。すると虫博士のような生徒が「ヘビトンボの幼虫」だと教えてくれた。
きれいな川にしか棲まないというヘビトンボ。
指標生物でもあるという。
お湯で流してごめんやで。
しかしかなり強烈なインパクトで、成虫は凶暴らしいし、幼虫ですでに十分に強そうだった。


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