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さらば、スナックカー

2021年2月12日、ある車両がひっそりと姿を消した。近鉄12200系「スナックカー」だ。
名阪特急「ひのとり」の導入で速達便を任されていたアーバンライナーの運用が停車タイプにスライド、停車タイプ担当だった汎用特急が外れて、「スナックカー」は余剰となり今年度中に姿を消すことは決まっていた。しかしこの時期、ファンが集結していては、「3密」が回避できなくなる。実際、その様子をワイドショーが取り上げていたから、混乱が起きることも容易に想像できる。そのため、必要な「ひのとり」がそろい踏みした時点でひっそりおさらばすることとなったのだ。

スナックカーとは?


「スナックカー」は「Ace」「サニーカー」などの「汎用特急」と呼ばれる近鉄特急の1つ。京都、大阪、名古屋、伊勢志摩、奈良、橿原など近鉄主要路線で特急として活躍していた。2両、4両、6両(引退以前に消滅)を組み、汎用特急同士や2階建て特急「ビスタEX」との併結も日常。柔軟に運用ができた。
登場当初、車内に「スナックコーナー」を設けられ、軽食や飲み物などを販売していた。これが愛称の由来にもなっている。しかし、売上の不振から営業しなくなり、後の増備車では、「スナックコーナー」がない「新スナックカー」が登場し、愛称と実態が一致しない事態となった。しかし、顔付きをほとんど変えなかったこともあって、そのまま呼ばれ続けることとなった。

あのVIPも乗った!


登場当時、快適性の高さで「一流ホテル並み」と言われた。これも相まってか、皇族方がご乗車になる「お召し列車」に起用されることが多かった。編成中の1両を対象に、窓を防弾ガラスに交換し、絨毯を敷くなど、当時の国鉄のお召し列車を参考にして、「お召し仕様」に衣替えをして走った。
そんな12200系には海外大物VIPもご乗車されたことはご存知だろうか?そのVIPとは、イギリス王室のエリザベス女王とフィリップ殿下。1日目に京都→五十鈴川間、2日目に鳥羽→名古屋間でご乗車され、皇族方同様の「お召し列車仕様」で運転された。両日とも目的地到着後、女王直々に担当運転士を呼び、労いの言葉をかけ、記念品まで贈呈した。それだけ女王、殿下にとって快適な旅路だったことが窺える。

最後の〇〇


晩年のスナックカーは2つの最後があった。1つは、「近鉄特急最後の座席でタバコが吸える電車」だったこと。昭和の時代は特急列車、新幹線はおろか、普通列車、地下鉄でも吸えるほど当たり前だった。しかし、「健康増進法」などで禁煙、分煙の動きが進み、近鉄特急ではほぼ全ての車両で喫煙ルームが整備された。そんな中でスナックカーは元から引退することを検討していたからか、喫煙ルームを設置せず、着席で喫煙できていた。しかし、2020年2月には健康増進法改正で屋内は原則禁煙になった。列車内も例外ではなく、灰皿を撤去、最後の1年間は全車禁煙で運用されることとなった。
また、利用客に少しでもわかりやすくするために、スナックカー使用の特急は他の車両より早く運用スケジュールを確定させ、アプリの位置情報でも、喫煙ルームの印がないことで判別ができるようにした。
2つ目の最後は「近鉄特急最後の旧塗装車」。喫煙ルーム設置と並行して、既存の近鉄特急のうち、オレンジに紺色の帯を纏ったいわゆる「汎用特急」はオレンジと白を纏う全く印象の異なるカラーリングに変更することとなった。新しめの22600系「Ace」やスナックカーより古い16000系も対象となった。そんな中、スナックカーは先の理由と同じでそのままの色で引退を迎えることとなった。

毎日見ていたけど


近鉄沿線に在住し、もうすぐ5年が経つ僕。列車音が響くほど比較的線路近くに住んでいて、身近にスナックカーを見てきた。近鉄特急は白とオレンジのニューカラーに、喫煙ルームが設置されて徐々に変わりつつあった過渡期において、スナックカーは最後まで己を貫いているように僕は感じていた。歴代近鉄特急の多くが纏ってきた伝統の紺とオレンジを最後の最後まで纏い続けていた。法律改正までは着席喫煙ができる昭和スタイルも貫いていた。それでも、少し後輩の「サニーカー」から1番若手の「Ace」、さらには「ビスタEX」まで。様々な車両と連結している姿は、誰とでも分け隔てなく接するええ人のような雰囲気を感じれた。

乗れなかったが


僕は今の収入が不安定、加えて感染拡大によって遠出はなかなかできなかったことでスナックカーに乗ることは叶わなかった。しかし、毎日近所で見られた列車が姿を消すのは、どの列車よりも惜別の想いがある。どうせならイベントで有終の美を飾ってほしい思いもあるが、こんな状況で暴走するファンを警戒する意味でもこうして、ひっそり終わるのは、物足りなさ半分だが、こういう最後も美しく思う。約半世紀近くも第一線で活躍し続け、様々な人々を運び、大物VIPももてなした。そんな活躍に敬意を表し、感謝をスナックカーに贈りたい。
さらば!スナックカー!

ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。