ビフォーアフターのクセがすごい!!

テレビでたまに「観光列車大特集!!」という感じで銘打った特集をよく見かけます。僕もこないだ「ちゃちゃ入れマンデー」(関西ローカルのバラエティ番組)で関西の観光列車を特集しているのを見ていました。僕は見ていてこんなことを思います。
「元々、古めの普通列車やったところから大出世してねんやなぁ。すごいビフォーアフターやわ。」
実は旧型車を改造したことによる観光列車も決して珍しくありません。詳しくないから人からしたら驚きの事実だと思います。そんな観光列車の中で僕が大胆にビフォーアフターしてびっくりしてしまった列車を3つご紹介します。

ひえい

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2018年にデビューした叡山電車の観光列車「ひえい」。京阪電車の京都側の終点出町柳駅から大原、比叡山の玄関口である八瀬比叡山口駅までの各駅停車として走っている。
濃い緑色の塗装に前面の金の楕円の飾りがインパクトを与え、側面の窓も楕円が並び、1両ながら、ビッグな雰囲気も醸し出している。
車内に目を向けると、明かりは電球色と間接照明が暖かみを与え、座席は1席ずつ窪んでいて、座り心地抜群。
各駅停車で運用されるからか、ベンチタイプの横並びの座席で、通勤通学としても問題ない配置にしている。

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↑改造前の「ひえい」(2016年当時)
この「ひえい」の元は1988年製の700系デオ732という車両。車体は新造で、台車とモーター類は京阪で製造数年で廃車になったものを用いている。
出町柳〜八瀬比叡山口の各駅停車を中心に活躍していて、一時期は下鴨警察署とのコラボで、2面パトカー、もう2面が機動隊のバスをモチーフにしたラッピングが施されたこともある。
そして、この車両に転機が訪れる。京阪HDが比叡山と琵琶湖の観光を強化する戦略を打ち出した。その一環として京阪の子会社で比叡山の京都側にある叡山電車でその観光の目玉となる列車となるべく、デオ732に白羽の矢が立った。
JR東日本や近鉄特急「ひのとり」などを手掛けたGKデザイン総研広島と川崎重工によって改造が行われ、2018年にお披露目、デビューを果たし、「ひえい」として新たな人生を歩んでいる。デビューすると、インパクトのある外観がメディアで取り上げられ、2018年度には「グッドデザイン賞」、2019年には鉄道友の会から「ローレル賞」を贈られた。「ひえい」に生まれ変わったデオ732は驚くべき大出世を果たしたのだった。
僕も1度「ひえい」に乗ってきたのだが、デザインのインパクトさも去ることながら、快適さや通勤列車としての使い勝手も考えられているように感じた。「見た目だけじゃない電車」といったところか。

花嫁のれん

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金沢から能登半島を縦断し、和倉温泉までを結ぶ観光特急「花嫁のれん」。名前は嫁入り道具として使われるのれんから取られていて、幸せを願って嫁ぎ先に贈る加賀の伝統文化である。
列車のコンセプトも「ご乗車のお客様の幸せを願う」思いが込められていて、沿線に点在するパワースポットへ向かう機運を高めるような雰囲気となっている。
車内や外装は輪島塗や加賀友禅などの伝統工芸をイメージした「和と美のおもてなし」をコンセプトにしたデザイン。紅の座席に金箔、桜や撫子などの和柄をあしらった壁面という絢爛豪華さがある。
車内では和の軽食やスイーツなどを車窓を堪能しながら食べられるプランもある。

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↑「花嫁のれん」改造前(写真は兄弟分のキハ47だが、顔と色は種車同様)

そんな「花嫁のれん」、元々は「キハ48」という古いディーゼル車だった。1982年製で最初は敦賀に配置され、小浜線や滋賀県北部で走っていた。
JRになった後、山口県の小郡運転区(今の下関総合車両所新山口支所)に転属し、山口線などで活躍した後、2015年に「花嫁のれん」用として改造を受け、「Jターン」をするように金沢に転属、同年10月にデビューした。
改造直前の写真を雑誌で見たことがある僕にとっては、色あせ、塗り直しが目立っていた「タラコ色」ボディからあんな大胆なお色直しをされているのはいい意味で「ありえへん!」と叫びたくなった。
例えるなら、おばあちゃんがプロのメイクアップアーティストにメイクしてもらったら、知人、親族全員がびっくりしたぐらいの変貌ぶりだろうか。
ただ、特急用ではないため、速度は他の特急に比べると少し遅め。また、エンジンも従来のままで車外では轟音が唸る。それでも、臨時の観光列車ならこれぐらいの速度でもちょうどいいわけだし、力強いエンジン音も、国鉄のディーゼル車を自己主張しているようなもので、これもまた一興といったところか。
まだ、1度も乗ったことがないのでいつか乗ってみたい。どうせなら名前の通り新婚旅行で。

青の交響曲(シンフォニー)

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近鉄特急の1つで、大阪阿部野橋駅から吉野駅を結ぶ観光特急だ。3両編成で外装の紺色に金の帯が落ち着いた”オトナ“な雰囲気を醸し出す、また愛称にちなみ、停車中にはハイドン作曲、交響曲第101番「時計」第二楽章が車外スピーカーから流され、大阪阿部野橋駅での「青の交響曲」専用の発車メロディにはそれをアレンジしたものが使われる。
前と後ろの車内は2+1人がけの濃い緑色の座席のほか、向かい合わせテーブル付きの4人用、2人用のサロン席、さらに真ん中の車両にはバーカウンターもあり、軽食や飲み物、ワイン、地酒、オリジナルグッズなどを取り揃える。バーカウンターに併設して、ソファを備えたラウンジもあり、高級ホテルのようなくつろぎの空間が広がる。

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↑改造前の「青の交響曲」(同系の別の編成)
この車両も実は改造車。1978年製の6200系6221Fという編成だった。赤っぽいマルーン色に白のツートンのボディに1両あたり片側4ヶ所扉で赤色のベンチシートが並び、通勤通学などで活躍していた何の変哲もない近鉄のステレオタイプ的通勤電車だった。
そんな中、近鉄では過去に観光特急「しまかぜ」の成功に端を発して、伊勢志摩の観光列車「つどい」やクラブツーリズムのツアー専用「かぎろひ」などの観光列車が生み出される中で、飛鳥、吉野方面でも歴史的観光地に人を呼び込もうと、観光列車を登場させることとなった。ただ、「しまかぜ」のように新造しても、吉野方面には近鉄系の施設が少なく、相応の収入が見込めないため、改造することで賄うこととなった。そのときに更新時期が迫っていた6200系に白羽の矢が立った。
片側4ヶ所の扉のうち、3ヶ所は客席に改造され窓を取り付け、扉跡は埋められた。残った扉も新しいものに交換、真ん中の車両はさらに窓を小さくした。側面、前面の行先表示は全て撤去され、代わって運転台助手席にフリップ式の行先表示が設置された。さらに、通勤電車時代に無かったトイレも新規に設置され、形式も元の番号に特急用を表す10000をプラスし、16200系に改番されています。
窓の寸法の違和感や大きめで両開きの扉が改造前の姿を物語っている。それでも、庶民派な普通列車系の車両が気品あふれる豪華列車に大変身し、元の姿が嘘のようだった。
ちなみに、テレビのロケでレポートしていたアナウンサーさんが「揺れが少ない」と言っていた。この世代の電車は「ガクン」という独特でクセのある挙動があるのが付き物だが、特急列車の運転の仕方なのか、それとも挙動を抑えた何かしらの改造があるのか…詳しくは分からない。ただ、乗ってみたくなる。

この大変身…


今回は自分の感じたことを入れつつ、観光列車の大出世ストーリーをご紹介しました。豪華列車でもこれらのように大変身したシンデレラストーリーを持つ車両も珍しくないもんです。
実際、コストを下げるために旧型車の改造で賄っている観光列車は多く、逆に一から作る新型は少ない傾向にあります。しかし、現代の進化した技術やユニバーサルデザインを取り入れたり、著名で実績を持つデザイナーを迎えることで、車齢を感じさせないビフォーアフターを成し遂げています。この大変身…
「ビフォーアフターのクセがすごい!!」
と唸れるぐらいではないでしょうか。
観光列車に乗る際はこういう部分に注目すると意外に面白いかもしれませんよ。

ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。