私の法律学習(司法試験合格まで)その2

昭和58年の秋になり、10月末から11月初めにかけて、司法試験最終合格者が発表された。早稲田大学法職課程教室では、例年のように、合格者ゼミを行うということで、12月初め頃からであったと記憶しているが、開始された。民法、刑法について、それぞれ10程度のゼミが設けられ、合格者のレクチャーを受けるという方法で進められた。
私は、民法、刑法双方に登録したが、民法は興味を持てず早々に脱落してしまった。ところが、刑法のほうは、講師である合格者(その後、司法修習を経て検事に任官された)の説明がわかりやすく、毎回出席し、翌年3月に合格者ゼミが終わるまで、皆勤状態で出席した。ゼミでは、当時、受験生によく読まれていた大塚仁・刑法をベースにして、犯罪論について、初学者向けに丁寧な説明があり、説明を聞きながら大塚・刑法を読んでみると、それまで砂をかむような虚しさしか感じなかったものが、徐々に、わかってくるように感じられた。
法律学というものは、特に、司法試験で求められる高度な法律解釈能力ということには、慣れるまでのハードルがかなり高いが、法学部に入学して半年程度が経過し、この段階で、やっと慣れてくることができ、そうなる上で、特に、この刑法合格者ゼミは役立ったというのが、今振り返って実感としてある。司法試験へ向けての良好な環境に身を置いたことが、こういった形で奏功したということも言えるように思う。
こうして、まず、刑法に本格的に取り組むところから、自分の勉強は本格化してきた。
昭和58年暮れから翌昭和59年3月までの、刑法合格者ゼミで、刑法のうち総論(個別の犯罪について論じられる各論に対し、犯罪の成立など全体に通じる問題が取り上げられる)について、当時の司法試験受験生がよく読んでいた、大塚仁・刑法総論に基づき、合格者のチューターからわかりやすく説明を受けることができ、かなり理解が進んだ。その一方で、法職課程教室が開講していた講義の中で、中野次雄先生(大阪高裁長官で退官された元裁判官で、早稲田大学客員教授を経て、当時は法職課程教室で刑法の講義をされていた)の講義は、興味を感じよくわからないながらも出ていたが、こちらも、徐々におもしろくなり、昭和59年3月まで、一通り出席した。刑法総論の、体系がしっかりと構築されているところや、論理、ロジックを重視するところなどが、おもしろく感じられ、法律を勉強するおもしろさのようなものが感じられるような気がしてきた。
振り返ると、このようにして、まず刑法に興味を持ち、身を入れて勉強できるようになった自分は、幸運であったと思う。1つの科目について、そのように勉強が進んでくることで、法律という学問の勉強方法、解釈の手法といったことが、何となく感じられるようになったことは大きかった。その後、他の科目を勉強する上で、そうした、一種の「成功体験」は、プラスにはたらくことになった。
この時期は、法学部や法職課程教室で講義を聞いても興味が持てなかった憲法について、緑法会で購入した、予備校で行われた講義を収録したテープに、司法試験合格経験がある若手憲法学者のものがあり、当時、まだ出たばかりで司法受験生に急速に読まれるようになっていた佐藤幸治・憲法に言及しながら、わかりやすい講義が展開されれていて、この講義テープを聞きながら佐藤幸治・憲法を読み進めたことが、自分にとってかなり勉強になった。
1年生から2年生にかけて、刑法、憲法の順に、徐々に勉強が軌道に乗ってきたが、出遅れてしまったのは民法であった。民法は、勉強すべき量が多く、また、社会経験がない、高校を出て間がない自分にとっては、取り扱われる紛争、問題点になかなか馴染めず(その点、憲法や刑法のほうが問題になっていることがイメージしやすかった)、勉強が軌道に乗らなかったことが思い出される。
2年生になって、所属した緑法会という法律系のサークルで、ゼミを組み1年生に民法を教える立場になり、民法の総則、物権といった範囲について、毎回、予習し、レジュメを作成し、レクチャーするということを行い、徐々に、おぼろげながら見えてくるものがあるような気はしてきた。当時は、「ダットサン」と俗称されていた、我妻・有泉民法(財産法については2巻)が、先輩などから推奨されていて、ダットサンや、予備校が出しているテキストを中心に読んで勉強している状態であった。
今になって振り返ると、その後に最終的には基本書になった有斐閣双書民法を早めに基本書にして、読んでいたほうが、もっと早く民法に馴染めて習得が早かったような気がする。ただ、先輩などに、これが良いと推奨されると、それを選択せず別のものを選択することは、初学者にとってはなかなか難しかったのも事実であった。ダットサンは、3年生の時に択一試験に合格するまでは、よく読んでいて、基本を身につける上では無駄にはならなかったが、2年生当時までは、民法については、なかなか馴染めず試行錯誤の連続であったという印象が強い。
このような勉強をしているうちに、2年生の秋から年末くらいになってきて、翌年の5月には、初めての択一試験を受験することになる、ということを徐々に意識してくるようになった。
(つづく)

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