見出し画像

My Oh My

https://youtube.com/playlist?list=PLQ5VvzLjU8VtJYmwMypJl8MgX49V_8dr0

71 スレイド/My Oh My

イングランドのスレイドは大英帝国の伝統云々と言うよりはむしろとても泥臭い土着的な匂いを纏っている。パンクが登場する以前の1970年代前半の英国のグラムロックと呼ばれるジャンルを担うバンドで、当時、デビッドボウイやT-REXともファン層は近かったと思うが、スレイド独特の土臭い本質的な魅力というのは東洋の音楽ファンは充分に汲み取れていなかったのかもしれない(ステイタスクオーとかブームタウンラッツと同様の分かりにくさと言ったら伝わるだろうか)。米国のQuiet Riotがヘヴィーメタルの文脈でカバーして全米制覇した"Cum' On Feel The Noise"を90年代にOasisが「あくまでもスレイドぽく」カバーしたりと、英国のミュージシャンにもファンは多い。1983年に発売されたアルバム"Keep Your Hands Off My Power Supply"はジャケットアートがギターを握った左手のドアップ。指5本にS・L・A・D・Eと刺青がしてあるだけのヘタうまアートという何の洒落っ気もない泥臭いものだった。この曲が世界的にヒットした後、何故かアルバムタイトルが"The Amazing Kamikaze Syndrome"(アルバムジャケットは何故に日本人サラリーマンらしき人物が正座して祈りを捧げている姿になった)に差し替ったことに当時中学生の私は「業界のやり方」や「大人の事情」を垣間見ることができた。

72 スティクス/Don't Let It End

英国の土着民スレイドに対して、同時代のアメリカのスティクスはとても新大陸的な匂いを放った田舎臭いバンドだ。土着と田舎は同じじゃないのかと言われそうだが、さにあらず、当時のアメリカは広い広い国土に数千余のラジオ局があり、そのラジオからラジオを通じて、大 ヒット曲がじわじわと伝播されるというまさに"Go west"で"Manifest Destiny"な世界。スティクスやジャーニー、バンヘイレンなどはレコードよりも大陸横断トラックの運ちゃん達が買うカセットテープの売上げの方が大きかったという。一つのアルバムから何曲もシングルカットされるのでアルバムも売れ続けるし、ファンも一枚で二度三度美味しい思いが味わえるという息の長いヒットアルバムも多かった(この戦略で最も売れたのが、マイケル・ジャクソンのスリラー)。この曲も♪ドモアリガット、ミスターロバット♪で有名なアルバム"Mr.Robot〜Kilroy was here"に収録されていたシングルカット第二弾の曲。デニスデヤングの粗野で野暮だが美しい歌声が堪らない。

73 Free At Last/HOUSE FOUNDATION + AKIKO WADA

1997年頃だと思うが、HMV池袋で流れていたこの曲を聴いて、ハウスミュージックに乗る和田アキコの歌声に脳天を撃ち抜かれるほどの衝撃を受け、ハウスに傾倒した時期がある。当時、bpm110の四つ打ち音楽に興味こそあったが、筍と揶揄されるリズムに単調さを感じる部分もありなかなかハマるきっかけが掴めなかった。和田アキコについても、彼女が歌手であること、そして、レイチャールズと親交があったことは知っていたが、その真の実力は知るべくもなかった。この曲をきっかけに実力派ソウルシンガーとしての和田アキコを強く認識するとともに、ハウスというジャンルに足を踏み入れることができたことは大きな財産だと思う。

74 ケルティックウーマン/You Raise Me Up

ここからの三曲はゴスペル黒人霊歌の影響を感じた歌を選んでみた。まずはアイルランドのケルティックウーマン。2006年のトリノ冬季五輪のエギジビションで荒川静香さんがこの曲をバックにイナバウアーを披露したことで有名になったこの曲。ケルトの民族楽器フィドルの美しい調べが美しい世界へ誘う清らかなる祈りの歌である。元々賛美歌として歌われていたこの曲はアイルランドのトラッドである"Londonderry Air(Danny Boy)"と旋律が似ており、この曲にアイリッシュの血が湧き上がる何かを感じたからこそケルティックウーマンか取り上げたのかもしれない。アイルランドの楽曲全般には日本の童謡や唱歌に通ずる懐かしい匂いを感じるが、ケルティックウーマンに新たな生命を吹き込まれたこの曲にも日本の里山の風景に通じる懐かしさを感じる。

75 プライマルスクリーム/Come Together

1990年代初頭は80年代の半ばに市民権を得たハードロック/ヘヴィメタルが全盛期を迎えたが、ロックファンの誰もが「それじゃない何か」、すなわち、オルタナティブを求めて新しい音楽を模索し続けていた時代だった。ニルヴァーナが短髪で装飾ない出立ちでヘヴィロックに載せたティーンエイジャーの衝動と激情を叫び、グランジというコンテキストで多くの支持を集める一方で、ブラックミュージックをリスペクトしそれに接近することで、グルーヴ感ある踊れるロックンロールを指向したプライマルスクリームが登場した。1991年に発売されたアルバム「スクーマデリカ」は発売当初こそさほど大きな注目を集めることはなかったが、フロアで流されリミックスされた別バージョンが発売されるにつれて、大きなうねりとなり、売れに売れて大成功を収めた。マキシシングルに収められたこのfaiiy mixの出来映えは特に素晴らしく、ゴスペルミュージックの恍惚感をそのまま閉じ込めた「三拍目の魔法」を大いに堪能することができる。

76 Queen/Let Me Live

映画ボヘミアンラプソディの影響でフレディよりもラミマレックのイメージが広く定着しつつある昨今のクイーン。フレディの死後、1995年に発売した"Made In Heaven"というアルバムがあるが、フレディがソロ名義で発表した楽曲や尺が足りずにアルバムに収められなかった歌を、フレディ以外の三人が編曲・再録音して一枚のアルバムにまとめたもので、れっきとしたクイーンの正式盤である。その中に収められたこの"Let Me Live"。完全なるゴスペルといえるこの曲は1984年発表の"Works"の制作時に録音されたもので、当時A面B面合わせてせいぜい50分程度というアナログレコードの尺に足りずお蔵入りとなっていた未発表音源だった。1984年といえば例の映画のクライマックス、1985年のライブエイドでの演奏の前年であり、フレディ本人も自らの体調の変化に気付いていた節がある。そのような自らの運命を察知し、それに贖うかの如く、生きさせてくれ、と叫ぶフレディの魂の声が鳴り響く。けだし名曲である。

77 スガシカオ/春夏秋冬

「今日の勇気と昨日の痛みを同じだけ抱きしめたら あなたの明日にぼくができることひとつくらい みつかるかな」

78 ダリルホール+グーグードールズ/Iris

ダリルホールの自宅スタジオに多くのミュージシャンが呼ばれて、ホール&オーツのヒット曲やゲストミュージシャンの名曲をセルフカバーする企画が十数年前からyoutubeで配信されている。ダリルホールはそのゲストの良さを引き出す天才と言え、木造スタジオ独特の温もりのある音質で、歌が超絶に上手いダリルホールが楽曲に新たな生命を吹き込み続けている。グーグードールズの1997年のヒット曲"Iris"はニコラスケイジ主演の映画"City Of Angels"のサウンドトラックにも収められている名曲。ダリルとのギターの連弾が美しいハーモニーを奏でる。

79 中村八大/シャルブールの雨傘

中村八大先生は作詞家永六輔さんとともに日本歌謡のComposerとして活躍する以前、Big Fourというジャズカルテットのピアニストとして、戦後間もない日本のジャズ黄金時代の担い手であった。ビートルズ(グループサウンズ)が登場する以前の時代にアイドル的な人気を誇ったBig Fourの主役はドラムのジョージ川口さんだったが、いつもニコニコと笑顔を絶やさないピアニスト中村八大先生の人気も高かった。そんな中村先生が残したジャズの演奏の中でも特に哀切と情感を感じるシェルブールの雨傘をここに選んだ。音質がイマイチなのでぜひサブスクからもハイレゾロスレスでアルバム音源を聴いて欲しい。

80 U2/Walk On

2000年発表のアルバム"All that you leave behind"から。送別の辞最初の10曲に入れるべきか最後の最後まで悩んで最終的に外したのは、前向きな希望に満ちた歌であることに間違いはないのだけれど、PVの最後にアウンサンスーチーが登場するなど楽曲にやや政治的な匂いを嗅ぎ取ったからである。とはいえ、力の入ったzoo三部作を経て、ややレイドバックしたU2の最高傑作を構成する絵もいわれない素晴らしい曲だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?