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旅の備忘録・インド前編(コルカタ)

ようやく旅の備忘録もインドに追いついてきた。

インドを訪れた背景としては、チェンナイにいる現地のビジネスパートナーとの商談。そして、できれば現地起業家コミュニティーと接触し、共に動けるパートナーを見つけることが目的としてあった。

しかし僕が「インド」と聞いて僕の頭に最初に思い浮かんだのは、ガンジス川と死を待つ人々の家だったので、目的地に向かう前に、そのまま勢いで「コルカタ」に行くと決めた。

1690年、イギリス東インド会社の商館が置かれ、ベンガル地方支配の拠点だったカルカッタは、ヒンディーとキリスト、イスラムのカルチャーと倫理感が混ざり合い、独特のカオスさが街に剥き出しになっている。アンバサダーの黄色くてレトロなタクシーと、一台一台異なるペイントが施されたオリジナルバスは、不思議とこのカオスをおもちゃのように可愛く見せてしまう。

かわいいアンバサダー

着いた翌朝、早朝5時に慌てて街に飛び出す。あいにくの前夜の雨で泥沼と化した大通りを少し緊張した面持ちで、ワクワクしながら走り出す。シスターらによる朝のミサが始まりかけた礼拝堂の静けさ、石畳に響く賛美、涙を流して祈る女性。ただその光景が365日、70数年続いてきたことの静寂な重みを、微笑むマザーテレサの銅像を横目に感じる時を過ごした。

マザーハウス

午後も時間があったので、礼拝堂で出会ったイタリア人の医師に誘われて、プレム・ダンと呼ばれるMissionaries of Charityが持つ施設の一つでボランティアに参加することにした。「愛の贈り物」という名がつけられたこの施設には、障がいを持ち、社会的に一人にならざるを得なかった老若男女がシスターと暮らしている。

「彼がボスね、君は彼に従っていればいいから」
そう隣にいるボランティアのお医者さんに言われ、振り向くと、そこにはベンガル訛りの英語が話せないおじいちゃんがいた。むすっとした顔で、多分、そこで待ってろ的なことを言われた(のだろう)。しばらくすると、おじいちゃんは起き上がって、施設の中の子分的な人たち、そして僕に向かって、洗濯が洗い終わったぞ!今から君たちが運ぶんだ!と指示を出す。すると、立場などまるで関係なく、皆でむくむくと動き出して、洗濯物を干すのだ。イタリア人のめちゃんこ優秀なお医者さんも彼にとってみれば、施設の外の人でしかない。彼はこだわりが強いみたいで、洗濯物ごとに干す位置を決めているようなのだ。「そこじゃない!」とベンガル語で言われる。でも、彼がこっちに置くんだろうなぁというところにバッチリとタオルを干すとニコッと笑ってくれたりもする。一度にバケツは4つ。それが終わると、皆で屋上で日光浴。ボスは施設を見渡しながら、洗濯物が来ると、再び皆を集め始める。これが彼らの日常だ。

施設の中で精神的な障がいを持ち、洗濯物は干したりとか、いわゆる社会的な生活は困難であるが、誰よりも明るくて、英語を使いこなす青年がいた。彼に「これが日本っていう場所なんだよ」と話すと、やたらと喜んでくれる。どこで知ったのかはわからないが、日本は電車が沢山あることを知っていたらしい。手を引っ張られ、屋上の裏口に向かうと、確かにそこには電車が集まり始める駅があった。そして、その周りには有象無象とスラムが散見される。スラムを指差す彼を見ていると、あそこにいる人とこのコミュニティに守られている人の違いは何なのだろうか。ここにある平和を享受できる条件とはなんなのだろうかと思わされる。

駅まわりに広がる施設の前のスラム

しばらくすると青年は「Thank youなんて言わないでよ」と言い始める。理由を尋ねると、親しい関係で感謝と謝罪をいうなんておかしいではないかと言うのである。

小熊英二の『インド日記』にインドの値切りについて「値切るという行為は、いわばその行為を通して、顔見知りになる手間を支払うことであるといえる。その手間を惜しむなら、金を余計に払うか、毎日きて自然に顔見知りになって安くなって来るのを待つしかない」という文章があったことを思い出す。インドのカルチャーに迷い込み始める。

帰り道。僕はあいにく土日に両替所が閉まっておた関係で、両替が出来ずに、そのまま街に繰り出していたので、イタリア人のお医者さんや陽気なスペイン人にトゥクトゥクで拾ってもらうことにした。トゥクトゥクも、関係性の公式が適用される一大産業だ。粘って交渉、仲良くなれたら安く乗れる。おまけに途中から知らないおじさんが割り込んで乗ってきたりするもんだから、インドの良いと思ったら試してみようというアジャイルなカルチャーは上陸2日目にして貴耳賤目が通じない。

何人乗れば気が済むのかっていうほど乗り込むトゥクトゥク

この後、両替できずにレストランで会計が出来ない問題なんかも起きたが、そんなトラブルなインドでの日常の一部なので、慌てずに前を向いて進みましょう。では、次はインド後編で。

朝の散歩道

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