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『Performing arts of youth~今知りたい、舞台芸術を仕事にする若者とは~』

青山学院大学総合文化政策学部の8期生で2019年に卒業され、現在はSPAC-静岡県舞台芸術センターの制作部に所属するかたわら、演劇ユニット「ぽこぽこクラブ」の制作としても活動なさっている入江恭平さんに、私たちのマガジンのテーマである「若者と舞台」に関わる話題を中心に、お話を伺いました。
入江さんにお仕事の内容からおすすめ作品まで、舞台芸術の魅力が伝わってくる、そして舞台芸術に興味がある方もそうでない方もこれを読めば舞台芸術への興味が湧いたり、高まったりするお話をたくさん聞いたのでご紹介します!!

ヘッダー写真:SPAC「寿歌」(2018年)撮影:Y.Inokuma

取材協力:SPAC-静岡県舞台芸術センター               

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Q:演劇の世界を目指そうと思ったきっかけは何でしたか?
A:最初から演劇の世界を目指していたわけではなく、縁とかインスピレーションに従った結果です。

Q:どうして青山学院大学の総合文化政策学部に入ったのですか?
A:音楽活動をもともとしていて、ビジネスを考えたときにプロデュースする力を身につけたいと思い、もとは別の大学に行っていたのですが、22歳であらためて青山学院大学の総合文化政策学部に入りました。

Q:初めて演劇を見たのはいつですか?
A:22歳の時大学の課題でレポートを書くために、父親の知人がやっている演劇を観たのが初めてでした。目の前で繰り広げられるドラマに感動して、「演劇いいな」と思ったんです。

Q:演劇に魅了されるきっかけになった作品は何でしたか?
A:これっていう決定的な作品はなくて、だんだん魅了されていきましたね。たとえば、一緒にバイトをしていた人が出演していた、虚構の劇団『青春の門」という舞台は、60年代の学生運動、哲学に影響された台詞があったり、アクションシーンがツボにハマって、演劇の熱量ってこんなにすごいものなのかと興奮しました。そして「演劇ってそもそもなんだろう」と考えるようになって演劇ゼミに入ったり、本を読んで勉強し始めたのもきっかけの一つでした。

Q:ハマった後は、どんな演劇をご覧になったのですか?
A:アングラ演劇のテイストが好きで、そういった60年代の香りがする演劇を観ていました。夜行バスを使って富山県の利賀村で活動しているSCOTを観に行ったりもしましたね。

Q:大学時代はどのようなアート活動を行っていたのですか?
A:1年生のときにアートプロデュース団体「創造文化企画」を立ち上げて、ゴミを拾い集めて作品を作ったり、ライブハウスでライブペインティングを行うなどさまざまなプロジェクトを行っていました。3年生のときには「普段演劇を観ない同年代の若者にその魅力を伝えたい」という思いから公演の企画も行いましたね。その後、個人でも活動していたのですが、観にきていた友達にMoratorium Pantsの公演に手伝いとして誘われ参加したことがきっかけで「ぽこぽこクラブ」の主宰で、『青春の門』で主演を務めた「虚構の劇団」の俳優、三上陽永さんと出会いました。そこから三上さんと仲良くなり、一緒に演劇ワークショップを企画したり、自分の卒業制作でもあった渋谷の神泉・円山町をテーマにしたまち歩き演劇をつくったりもしました。

Q:どのような経緯でSPACに勤めることになったのですか?
A:企画することが好きだったので、お世話になっていたイベント会社に就職しようと思っていたのですが、4年生の夏ごろに悩み出して他の選択肢も考えるようになったんです。そのときお世話になっていた先生に「あなた演劇やっていたのだからSPACいいじゃない!」と薦められて。SPACの作品を観たことはなかったのですが、直感的にワクワクしたので、採用試験を受けてみました。

Q:SPACでのお仕事の内容を教えてください。
A:制作部という部署に所属しています。SPACの制作の仕事は大きく2種類に分けられるのですが、ひとつは「座組み(作品ごとに組むチーム)のマネジメント」です。スケジュールの調整や連絡をまわしたり、外部スタッフとのやりとりなどを行う、チームの調整役ですね。もうひとつは営業、広報、アウトリーチ(教育普及事業)、チケット、総務、接客などといった一般企業的な仕事です。私は営業とアウトリーチを担当しています。

寿歌.壬生_集合写真note用

SPAC「寿歌」(2018年)スタッフ・キャストの集合写真

Q:SPACの強みはなんですか?
A:演劇はもともと採算性が取りづらいので、商業演劇と言われるものは、有名人を呼んだり、より多くの人が楽しめる作品を扱ったり、チケット代も1万円近くに設定することで公演を成り立たせています。しかしSPACは、県が設立した劇団で県から助成金をいただいているので、世界に通用するクオリティの作品を創ることや、とっつきづらいけど世に必要な作品を創ることに集中できます。チケットも一般4200円と比較的安価に抑えられますので、より多くの方に気軽に舞台を見ていただける環境になっています。また、専属の俳優・スタッフがいて、専用の劇場・稽古場を持っていることは、クリエーションを行う上でとても有利だと思います。

Q:「ぽこぽこクラブ」について教えてください。
A:「虚構の劇団」の3人の俳優が自分たちでも脚本・演出したいと立ち上げたのが「ぽこぽこクラブ」です。昨年12月の公演では900人ほどのお客様が来てくれました。公演はダンスあり、たまに歌あり、エネルギッシュでエンターテイメント性が強いものになっています。最近は、「アーティスト・イン・レジデンス」といって地方にアーティストが滞在し、そこで得たもので作品を創るということに挑戦し、私たちは愛媛県の内子町というところに行きました。「ぽこぽこクラブ」での私の仕事は、SPACの制作部がやっていることの縮小版を俳優たちと一緒に手分けをしながら行うというものになります。

ぽこぽこクラブ『暴発寸前のジャスティス』(2018)©︎宮内勝

ぽこぽこクラブ「爆発寸前のジャスティス」(2018年)
撮影:宮内勝

Q:将来的にはどんな仕事をしたいのですか?
A:プロデューサー、つまり「こういうことをやったら面白いだろう」と企画を考えて、実現させる人になりたいと思っています。

Q:入江さんが考える舞台の魅力とはなんですか?
A: 舞台上で行われていることが全てではなく、その背景にあるもの、作っていく過程で生まれるドラマが醸し出す空気感をいたるところから感じ取れるところです。創作の過程で生まれるものも多いですし、演劇人は様々なバックグラウンドを持った人が多いので、考えや価値観、感情のぶつかり合いなどが渦を巻く、良い意味でカオスな状況でもあるんです。また創作以外の現場、例えば企画の立ち上げから公演が終了してDVD販売までの中にも、スタッフの工夫、試行錯誤があって、それもドラマチックだと思うんですね。そういった積み重ねの跡をぜひ感じ取ってみてください。広報物やパンフレット、接客などなど全てにその跡は残っていますので。

Q:オススメの舞台作品を教えてください。
A: KARAS (ダンス)
大駱駝艦(舞踏)
万有引力(演劇)
初めて見る際は、言葉に表せない不思議な感覚だったり、恐ろしいもの見たさだったり、おどろおどろしい感じがあってあるので、一見ひいてしまうのいがちですが、そこに美があるような舞台をお勧めオススメします。

Q:SPACのオススメ作品はなんですか?
A:オススメ作品というよりは、県外の方は是非毎年GWに開催している、「ふじのくに⇄せかい演劇祭」に来ていただきたいですね。今年は新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて中止になってしまいましたが、ヨーロッパやアジア、南米など世界各地からカンパニーが来て“世界のいま”を映す一流の舞台芸術作品を上演しています。これは東京でもなかなか観られるものではありません。また東京でやっている演劇は「東京向け」にできていてるものが多く、自分の身近な人間関係や心情、例えば、家族や友達、恋愛、いじめなどについて語る作品が多いんです。でも、海外の作品は内戦や政治、難民などをテーマにした作品や、宗教やダイバーシティを扱ったものが多く、彼らがまとっているリアルな戦慄した空気を体感できるんです。それらを通して、多様な価値観に触れることができるという意味でもこの演劇祭はとてもいいものだと思います。

Q:入江さんが考える大学生のうちにするべきことはなんですか?
A:あまり座学をせず、企画を行うこと、つまりアウトプットばかりしてきたんです。大学卒業間近になったときに自分の浅さや未熟さを感じたんですね。もちろん色々な人に会って話を聞いたり、作品に触れたり、学んだりと様々な経験をして価値観を広げてきましたが、せっかく芸術に関わることをしていて、自分を日常の時間から切り離せる時間が多いにあったのだから、もっと一つのことについて深く掘り下げ、その奥底にある真理のようなものについて考えをめぐらす機会を持ちたかったと思いました。

Q:学生時代からアウトプットをたくさんしてきた気持ちや方法を教えてください。
A:アウトプットすると、自分の欠点、足りない部分が見えるんですよ。それを埋めていくことが学生時代にはより必要でしたね。社会人になると振り返る時間はあまりないですし。原動力は、音楽をやっていたけど将来に悩んでいた20歳の時に、映画「耳をすませば」の主人公のセリフ、『好きなことでも勉強しなくちゃいけないってわかったんです』という言葉にハッとして「勉強しなきゃ、行動しなきゃ」という気持ちになったことが始まりでした。受験勉強しながら「大学に入ったらなんかしてやるぞ」と燃えていましたね。何としてもやってやるぞっていう気持ちがあると、どんな環境でもなんかできることがあると思うんです。よく「何かやりたい気持ちはあるんですけど、どうしたらいいかわからなくて」のような質問を受けることが多いのですが、状況を言い訳にするのではなく誰かに声をかけてみる、ノリで始めてみるといいんじゃないかと思います。臆せずやってみることが大事なんじゃないかと思います。

インタビューの感想
好きなことをただ楽しむだけのノットクリエイティブ人間だったと気づきました。入江さんは若い頃からアウトプットを積極的に行ったり、何かやってやるという気持ちを持たれていたからこそ、その頃に学んだことが仕事につながっているのだと思いました。
大学生になって自由に使える時間が増えた今こそ本を読んでたくさん学び、大学生活を今の状況を言い訳にせずに何か成し遂げたと言えるように努力したいと思います。
今回は貴重なお時間と機会をくださり、ありがとうございました。
この記事を読んでくださったみなさんにも感謝します。

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