魔物の名は。

こんにちは。
 
 薄いの代名詞といえば部活のアクエリアスですが、僕が入ってた部活は相当濃かったです。高校野球夏の選手権、今年は中止が決まってしまいました。
 
 人生で一度だけ、甲子園に高校野球を観に行きました。10年前、2010年8月11日のことです。
 
 中3の夏休み課題、スポーツ観戦レポートを書くために「せっかくだから」とはるばる甲子園球場まで。部活の友達と2人で内野席の3塁側に座ります。日向でしたがアドレナリン全開で全然お構いなし。僕のレポートのメインは仙台育英高校vs開星高校の試合でした。注目していた選手は仙台育英の3番センター佐藤貴規選手。あの仙台育英の佐藤由規選手(現在楽天イーグルスに所属)の弟さんですね。僕は由規選手の豪速球に憧れていたので、その弟のプレーを観られるとテンションが上がってたわけですよ。
で、プレーボール。開星のピッチャーは……おいおい、なんか凄いな。あの人は誰?君の名前は??
白根選手というらしい、デカイ。ニックネームは山陰のジャイアン。引退後政治の世界で参院のジャイアンも目指して欲しい。(プロ入り後はかなり痩せたそうですが。)そんな好投手からも佐藤選手は初回にツーベースヒットを放つんですね。よっしゃよっしゃ、と。これで活躍してくれたらレポートも映えるで、頼むわな、と。意気揚々とメモ帳に「1、ツーベース」と書きなぐります。
 
 ここからかなり荒れたおもしろい展開、フォアボールやデッドボールでピンチチャンスが入り乱れる、そして佐藤選手全然活躍しない。普通のおもしろゲームみてレポートにまとめられるほど僕は野球に興味もないんですよ。ほんで仙台育英負けそうだし白根選手何気に活躍するし。なんやねんこれは。9回表1点負けてる。はい、センターフライ仙台育英負けた〜。と思っていたところにあの球史に残る大エラー。すご、なんやねんこれは。大変なことが起きとるな、と感じました。結局この後仙台育英レフト三瓶選手のファインプレーもあって勝利しました。
 
 帰りの電車でも友達と「すげぇもん観たな。」となるだけで余韻に浸って会話も交わさず、家に帰っても親に「すげぇもん観たわ。熱闘甲子園観てくれ。」とだけ言い残してすぐに寝てしまいました。自分の口から話してもなんかチープな感想になってしまう気がしたんです。この感動は絶対に忘れない。忘れたくない。忘れちゃダメだ。そう思って眠りにつきました。
 
 2010年8月31日(火)、いよいよ明日から学校か。宿題確認しよ。
数学の40ページの課題やったな。美術は家の中の1番好きな景色、描いた。英語、歴史……よし。全部やって…、いや待て保健体育まだやん、やば。スポーツ観戦レポート、やらな。A4用紙と色鉛筆を引っ張り出します。
「そうや、メモメモ。」
あの日のメモは引き出しの奥ですっかりその熱を下げていました。それでもなお、汗まみれでギュッと握ったあの瞬間の形を留めているのでした。
厚紙の表紙をめくります。
 
 
 
 
「1、ツーベース」
 
 
 
それじゃわかんないよ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?