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「憎まれっ子世にはばかる」は本当か。憎まれっ子を14年間追いかけてみたら

人から憎まれるような人が世間では幅をきかせることを意味する「憎まれっ子世にはばかる」。江戸いろはかるたの一句でもあり、同様の言葉が最初に確認されたのは1638年(寛永15年)の書物とのこと1) (そんな昔から・・・)。

また英語やフランス語にも「雑草は生命力が強い」という同じ意味を現すことわざがあり、嫌われ者が威勢を振るうという認識は時代や文化を超えて人々の間で広く共有されているようです。いかがでしょう?皆さんの周りにも「嫌な奴なのに世渡りうまいよなぁ」と感じる人がいるでしょうか。



もしかしたらすぐに思い浮かぶのは、某国の大統領や、「暴君」と呼ばれた歴史上の人物かもしれません。確かに著名なリーダーには「憎まれっ子世にはばかる」を体現するような人物が多い印象ですが、企業などの組織ではどうなのでしょう?

このことを明らかにするために、カリフォルニア大学バークレー校の研究者らは就職前の大学生と大学院生457名の性格診断を行い、14年後の彼/彼女らの性格と職場での地位について調査を行い、それらの関係性について調べました2)。さてその結果とは・・・。

ずばり、自己中心的で不誠実で闘争的な性格を持つ人物が、寛容的で信頼できる気立ての良い人よりも権力を持つ地位につく可能性が高いことを裏付けるデータは得られませんでした。そしてこの結果は人種・性別・組織文化の違いに関係なく同じで、「食うか食われるか」というような熾烈な競争が当たり前の組織においてさえも「憎まれっ子」の方が好感度の高い人よりも出世すると言える事実は確認されなかったのです。

では、「憎まれっ子」が意外と組織で頭角を表していないのはなぜなのでしょう。実は同調査によると、「憎まれっ子」もそうでない人も同じくらいリーダーのポジションにつくチャンスを与えられていたのですが、前者はうまく組織を導くことができていませんでした。その原因は彼らの行動パターンにありました。「憎まれっ子」の支配的で闘争的な行動が持つ仕事上でプラスに働く影響力は、彼ら自身の協調性や寛容さを欠く行動によって無いものにされていたのです(もったいないですね・・・)。



この結果を知って「なーんだ、嫌われ者はやっぱりうまくいかないのか」「ガツガツしなくてもいいんだ」と胸をなでおろした人もいるでしょう。一方で自分の上司や組織のリーダーが攻撃的で自己中心的な嫌われ者だとしたら、「それは長く続かないから」と言われても心穏やかではいられませんよね。ではどうすれば良いのでしょう。

一番大切なことは組織と自分自身のエネルギーを守り抜くこと。そのために以下を実践してみてください:

自分の感情や気分に十分な注意を払い日々ケアする
自分のやるべきことにフォーカスをする
支援の仕組みを作っておく
相手の行動は許しても、その行動によって引き起こされた失敗は忘れない。その失敗を回避するための方法を組織で検討し行動する
相手との対面時間をできるだけ少なくする



昨今はオンラインで仕事をする場面も増えてきましたが、良心に欠ける自己中心的な人物はオンラインではその威力を発揮できないという研究結果があります3)。「憎まれっ子」の影響力を最小限に抑えるために、オンライン面談を活用するのも手ですね。


最後に、自分自身が「憎まれっ子」かもしれないと気づいてしまったあなた。あなたが持つ積極性や意欲という強みが空回りする理由はもうお分かりですね。まずは仲間の声に耳を傾け、感謝の気持ちを伝えるところから始めてみませんか。




まとめ

今日は「憎まれっ子世にはばかる」を検証した研究をご紹介しました。

組織において「憎まれっ子」は意外とはばからないという結果でしたが、その理由は彼/彼女らの他者との関係づくりのまずさにありました。

組織にダメージを与える「憎まれっ子」。できることなら避けたいですが、完全に排除することはできないですし、誰の心にもきっと「憎まれっ子」の要素ってあるのではないでしょうか。あなたの中にはないですか?(私にはあります)。

それが表面化していないのだとしたら、その理由はあなたが所属する組織に、助け合いやお互いを認め合う文化や工夫があるのだと思います。「憎まれっ子」が現れたら、まずその行動を責め、その人を消してしまおうとするのではなく、その人も活かされる土壌作りに目を向けてみませんか。

(寄稿:泉谷道子 - 心理学博士)


1) 憎まれ子世にはばかる - ハバカル ・ハビコル・ハダカルの交渉 小林賢次 首都大学東京日本語教育学教室
http://nihongo.hum.tmu.ac.jp/tmu_j/pdf/10/10-6%E5%B0%8F%E6%9E%97%E8%B3%A2%E6%AC%A1.pdf


Cameron Anderson el al. People with disagreeable personalities (selfish, combative, and manipulative) do not have an advantage in pursuing power at work. PNAS, 2020 DOI: 10.1073/pnas.2005088117


3) Lisa Crossley, Michael Woodworth, Pamela J. Black, Robert Hare. The dark side of negotiation: Examining the outcomes of face-to-face and computer-mediated negotiations among dark personalities. Personality and Individual Differences, 2016; 91: 47 DOI: 10.1016/j.paid.2015.11.052


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