翻訳記事:楊晨U16代表監督インタビュー

国少隊(U16代表)はU17アジアユース予選に参戦。カンボジアに9-0、北マリアナ諸島に11-0で連勝。最終戦で開催国オーストラリアに1-3で敗れ2位も、各組2位内の成績上位で来年開催のアジアユース本大会進出を決めた。

監督は楊晨(Yang Chen)。1974年生まれ、現役時代は北京国安でデビュー後98年にドイツ・フランクフルトに移籍。中国人初の欧州5大リーグ移籍
フランクフルトで4季、その後ザンクトパウリで1季、計5年間プレイ。ドイツ1部で通算15得点は中国人選手5大リーグ最多得点。2021年には長谷部誠らと共にブンデスリーガレジェンドに選出された。
代表でも02年日韓W杯に出場。その後帰国し07年引退後指導者のキャリアを歩む。

元記事↓


ー----------(以下記事)ー-----------

先に開催されたU17アジアカップ予選で、楊晨率いるU17代表(国少队)G组に。(中略)オーストラリアからの帰国後隔離機関に、「足球報」の電話インタビューに応じた。(注:ゼロコロナ政策の中国は、現在外国からの入国後10日の隔離を義務付けている)

《足球報》:あなたが就任して17か月経ったが、これまでの準備過程を紹介して欲しい。。

楊晨:我々は2021年5月16日に成立、この1年余りでキャンプ10回、2度国内のカップ戦(昨年9月の上海金山杯、もう1つは10月山東省淄博の起源地杯。)に参加、他は非公式のフレンドリーマッチ。

選手の選抜プロセスは?

楊:中国サッカー協会の青少部は昨年4月に2005-06年生まれの選抜訓練キャンプを実施。80%が06年生まれ、20%が05年生まれ。
青少部のイベントと同時に、富力足校(注:富力は中国有数の不動産デベロッパー、かつて広州富力(現広州城)ほ保有し、サッカー学校も建設)も大会を主催。富力以外にも恒大足校、魯能足校、緑城足校、星輝足校が参加。
いずれも中国有数のサッカースクールで多くの人材を輩出しており、私も現地で視察し選手を選考し、アシスタントコーチは青少部の大会を視察した。
こうした我々は最終的に2チームを組織した。
(注:恒大は有名な恒大集団、魯能は山東泰山の、緑城は浙江のスポンサー会社だった企業のサッカースクール。星輝は湖北省のサッカースクール)

◆初期に2度国内の大会に参加し、以降公式戦もなく、チームの実戦経験はまだ物足りないのでは?

楊:この2年は新型コロナウイルスの影響で中国サッカー全体が影響を受けている。我々も心理的準備はあり、当初にA、Bの2チームを作った。2チーム一緒にキャンプし、金山杯ではそれぞれが参加。その後河北省香河でのキャンプで多くの内部練習試合を実施、起源地杯からA、Bは統合した。我々が参加した2大会は有意義で、特に年上のチームとの対戦は大きな価値がある。今回のアジアユース予選通過にあたり、両大会の主催者に深く感謝する。

◆言い換えれば直近1年は内部の練習試合しかなかったわけで?

楊:まあそうだな、国内のチームとの対戦はあったが、不可抗力もあり克服せねば。正式な試合が不足していたため、各方面の準備を緻密に行った。
オーストラリアに行く前、10回のキャンプで準備できることは全て準備した。全スタッフや我々をサポートしてくれた人たちに感謝する。

◆なぜ10回もキャンプを?

楊:1度のキャンプ期間を短くしたかった。例えば1度に2.3か月キャンプすれば多くの練習ができる、しかし長期キャンプは選手を抑圧する。彼らはまだ若い少年で心理的成長や発育に良くない。むしろ新鮮味や積極性を奪う。
なので回数を増やしても周期を短くし、選手各自に調整期間を与えた。
他にも、選手によっては青超(ユースリーグ)省運会、全運会(注:中国版国体、または省ごとの大会)がある。我々のキャンプは1か月超えることはない。
私はプロ選手が長期キャンプで拘束された時の状況を良く知っている、他に彼らの年代は受験もあるから。

A,B2チーム体制について

◆なぜA、B、2チームを作ったのか?協会の要求か?

楊:いや、私とスタッフが話し合って決めた。
第1に、この年代はまだ波が激しく、選手のコンディションや心理面の影響が大きい。1年経って身長が伸びる選手もおり、最初から選手たちを1チームに制限するのは難しい。
第2に、コロナの影響で常に試合相手を確保はできない。中国外への遠征も非現実的。なので内部の練習試合が多くなり、相応の人数が必要。また我々も十分な時間を以て選手を見れる、私は1人も漏らしたくない。

◆選出された選手の中で、誰が最も秀でているか?

楊:すまないが、個別の選手を批評することはしない。みんな私の中ではチームの一員で、また特別突出した差もない。この年代は将来どうなるかまだ不確定要素が多い。



◆2チーム率いるためにあなたやスタッフの仕事量は大きかっただろう?

楊:アシスタントは馬荃、胡兆軍、楊君、呉明坤,あと戦術分析スタッフや心理アシスタントスタッフがいる。確かに2チームだと仕事量は多いが、効果はあった。馬荃はDF、胡兆軍はMFとFW、楊君はGKを担当し。敏捷性やパワートレーニングは呉明坤が見る。戦術分析の技術スタッフが毎日ビデオとGPSデータを私にくれ、リアルタイムで練習計画を調整できる。
(注:胡兆軍、楊君は元代表、馬荃も元選手)

◆頻繁に練習計画を調整するのは、成年とユースの練習の大きな違いでは?

楊:そうだ、成年は頻繁に練習量を変える必要はないがユースは違う。彼らはまだ発育期にあり、過度の練習で疲労や負傷に至るなら発育に良くない。

◆2チーム率いることで、コーチ陣はどんな困難を克服したのか?

楊:アシスタントコーチは元も大変だった、彼らは時にシャワー浴びる時間もなかった。午前の練習終了後、昼飯食べただけですぐに午後の練習に。
コーチ陣1組で2チーム率いるのは大変で、質も保障するのは大変だ。概してユースチームは監督不在時に練習態度と質は一定の差があるけど、我々はない。毎日のビデオからコーチ達が選手に良い影響を与えていると感じる。

コーチスタッフについて

◆アシスタントコーチの胡兆軍(Hu Zhaojun)と楊君(Yang Jun)はインタビューしたことがあり、共にあなたに似てとても温和、雰囲気の良いチームになっているのだろうか?

楊:当然だよ、嘘じゃない。けど彼ら2人がそんな温和とどうして言える?(笑)それは彼らの1面だろう。私はチームを率いる過程で、皆に自分の観点を提出させる。私が監督だがより良い意見あれば言って欲しい。我々の間も争いはあるが、決して譲らない。これは彼らのもう1面だ。こうした全力で取組むチームのお陰で予選通過できたのだ。

◆自分自身はどんな監督と思うか?穏やかそうで選手も怖がらないのでは?

楊:選手が私を恐れる必要はない、私を尊重し信頼して欲しい。あなたは私の性格を少し誤解しており、日常の私と仕事中の差は大きい。人によっては私はピッチでは怖いという(笑)コロナが無ければ是非マスコミに我々の練習を見て欲しい。すれば私がどんな監督か分かる。私が言うより他のメンバーに聞いてもらった方がいいかな(笑)。

◆なぜ心理アシスタントスタッフを同行させたのか?

楊:心理面のスタッフを同行させるのは欧州では日常的だ。プロ選手の怪我は2種類あり、身体面の傷と、内面の苦痛やプレッシャーだ。両者は相互に影響し合うので、他国は心理面を重視する。しかし目下中国ではあまり重視されていないが、オリンピック競技では重視されてる。なので私も試しに申請したら直ぐにOKされた。協会幹部たちの協力に感謝したい。選手たちの身体と心理の助教を把握でき、我々は選手を励ますことができる。




◆選手たちはあなたの子息と同年代だが、父親としての経験も生きているのか?

楊:この点は少し悔いがある。息子は2007年生まれで選手と近い年代だが、彼にサッカーを教えるべき時期に私は江蘇にいた(注:江蘇蘇寧のアシスタントコーチを務めていた)そのため息子はサッカーがあまり好きでなく、教育は主に妻に任せていた。この点妻や息子に申し訳ないと思う。
だがこれは選手たちへの接し方とは別だ。皆若いが、お互いに尊重しつつ、最低限の距離を以て接する関係になってほしい。

◆この年代の身体と技術は定型化されているだろうか?

楊:まだだ、彼らはこれから大きな変化の可能性がある。16ー17歳の少年たちの身体面と思想の成熟度は大きな差がある。頻繁に身長や体重を測るが、選手たちの練習量をコントロールし、満足させるが過度ではいけない。
例えば測定時にある選手の身長が伸びていれば、パワーのトレーニング強度を下げて技術練習を増やす。体は既に十分なエネルギーを得てるのなら、過度な消耗は悪影響または怪我につながる。だからユースを率いるプレッシャーと責任は大きい。まだ形が定まっておらず、学ぶことも多い。


◆1年余のトレーニングでデータ比較をしたか?またどんな変化が?

楊:変化は確かに大きい、基本的な心肺機能、血中酸素含有量、無酸素能力などは明らかに上昇。サッカーの難しさは有酸素と無酸素の切替時に、早く正確な判断や動作をせなばならない。オーストラリア戦で2度PKを与えたが、攻守切替過程で戦術意識と技術動作に不足があったため、相手にチャンスを与えた。日々の訓練でもこうしたディテールを強調し、多くのディテールを正しく処理せねばならない。

チームの可能性、今後について

◆アジアユース予選の洗礼を受け、U17W杯出場のためにこのチームはどの部分を強化せねばならないだろうか?

楊:強化すべき点はとても多い、最重要はチームワークだろう。この2試合で分かっただろうが、これがサッカーだ。身体能力の先天的差異は1つで、他に高いプレッシャーの中で共に協力し、プレッシャーに打ち勝つことができるか。心理面でプレッシャーに打ち勝つ力も必要だし、戦術理解や基本技術もだ。小さな差に見えても、それがチームになると大きな差になる。
(注:オーストラリア戦では相手の黒人アタッカーに圧倒されたのを念頭に置いた発言か?)




◆基本技術に関連し、最近ソンフンミン(韓国代表・トットナム)の父親のトレーニングが話題になり、他のアジア人にも有効なのかという議論がある。U16代表選手たちが基本技術の練習時間や強度を上げる必要あると考えるか?

楊:ソンはハンブルガーSVで名をあげたが、16歳まで韓国のシステムで育った。その後韓国サッカー協会のプログラムでハンブルガーSVの下部組織に行った。デビュー戦も私は見た。練習方法は人によって変わるが、彼の父親のやり方について、別の角度から見るべきだ。父親のトレーニングだけがソンを育てたのでなく、その理念ややり方がソンの成功過程を助けたのだ。
ソンのデビュー戦を覚えている、途中出場だったが同年代のドイツ人選手より抜けていた。相手との接触プレイの中でも彼の技術動作は安定していた、これは基本技術だけでなく、大局観や意識や速度も必要だ。
(注:ドイツに長くいたこともあり、ブンデスリーガを良く見てるのか?)

近年科学の影響でトレーニングが偏っていると感じる。科学、非科学とは?科学的の定義は全選手同じなのか?公平さ、客観性に欠けると思う。ソンフンミンがドイツに来てから毎日練習終了後に父は2時間基礎練習をさせた。彼のシュートセンスなどはこうして磨かれたのだ。変化を求めるなら、量を増やすことが重要。

◆我们这些年学了很多国家的足球理念,那么你的战术理念是怎样的?你认为什么样的战术理念是最适合中国球员的?
◆近年中国は多くの国のサッカー理念を学んだが、あなたの戦術理念はどのようなものか?またどの国が最も中国人選手に合っているだろう?

楊:1試合の中で選手は100回以上の「観察-交流-方策-決定」プロセスがある。高強度の中でこのプロセスを一貫し正確にこなせれば、勝利の可能性は高まる。だからサッカーは戦術が完璧でも、まず己を理解することで、パフォーマンスに繋がり、自分に適した戦術を見つける。完璧な戦術はなく、あるのは向き不向きだ。私の戦術理念は主に選手たちの能力と相手の実力に基づいている。

◆出国前に、選手全員が散髪し軍人カットに統一した。これは議論を呼んだが、誰が決定したのか?また外部の意見はどう思うか?

楊:散髪は私の決定で、批判の声も知っている。彼らは選手の個性を押し殺していると思っているが、実際個性は髪型とは限らない。真の個性はピッチ上で発揮されるだろう。(注:全選手が坊主頭で、背番号なしでは誰が誰かわからない・・)


普段チームをどう管理しているか?休憩時間や携帯、PC、ゲームなど電子デバイスはどうしている?

楊:キャンプ開始後、休憩時間以外は選手の携帯、PC、ゲーム機などは提出し一緒に管理する。休暇や特定時間には選手に返し娯楽の時間を与える。
一部選手はサッカーゲームが好きで、選手同士で対戦もしている。彼らの交流や娯楽を阻止はしない。

◆最終戦後、選手に胸を張って、顔をあげろと言ったが、なぜそう伝えた?

楊:試合に負け、差も見えたが、これは選手たちのパフォーマンスが悪かった訳じゃない。選手たちは大部分の時間で私の要求通りプレイし、戦っていた。精神面も問題ない。試合は負けたが、尊厳や自信は失っておらず自己否定する必要はない。私はあまり選手をほめないが、これは彼らのパフォーマンスへの肯定だ。スコアだけが評価基準ではない。

◆来年のアジアユース本選に向けてのプランは?
楊:まず隔離終了後各自のクラブに戻る。選手たちは青超などの試合があり、その後スタッフと手分けして視察し、年末か年初に再度集まる。私も協会幹部に総括を報告をし、上層部の意見を聞き、計画をする。


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雑感

現役時代を知る選手たちがどんどん指導者の道を歩んでいる中で、
楊晨は実績の割にあまりインタビューを聞いたことが無かった。

たかがアジアユース本大会進出、、と言われるかもしれないが近年中国はU17,U20でアジアユースにすら進めないことも頻繁だった。
私も試合を観戦したが、オーストラリア戦はアウェイで実力差はあれど、不運なPKや主審のホーム偏重もありそこまで大きな差は感じなかった。

一方でピッチ外の影響が心配、インタビュー内でも度々言及されてる通りゼロコロナ政策の影響は大きい。海外遠征や、外国のチームを招くことが困難。国内の試合もすぐに延期や中止され、思い通りの強化は難しい。
「タイに負け、ベトナムに負け、そのうちミャンマーにも負ける」と揶揄されるように凋落の一途だが、さらにゼロコロナ政策という足枷で中国サッカーの未来に明るい要素は少ない。

一方この年代は、バブル期に恒大などが育成に投資した中で育った世代であり、期待する声も大きい。

2005年以来U20、U17とも世界大会に進出できていない。今のU16選手が生まれる前の話だ。世界大会進出は現実的では無かろうが、恥じない戦いをして欲しい。


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