編む* 夏蜜柑は冬を越して、初夏にならねば甘くはならぬ。

冬の白日が、柑橘の葉の隙間を抜けて、あなたの額を照らす。木には満月のようにまんまるく、大きな実がいくつもなってはいるが、今はまだ、口に含めば涙がにじむ程に酸っぱい。窓から手を伸ばし、その実を撫ぜる。表面はすべすべとして、小さな丘と谷がいくつもある。風にふかれてひんやりとしているが、芯にはぼんやりとした、柔らかな夏が抱かれているようだった。
旅立った日の夏の野を思い出した。遠くまで来たような、よくわからない気持ちだった。

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