きっと今、不安な君へ

山茶花にメジロが来ている。空は晴れて、暖色の西日が彼らの羽を照らしている。もう午後の3時だよ。一日が、気がつくと過ぎてしまっている。

小さな庭には、いくらかの樹を植えた。引っ越して来た当初は、さほどの賑わいはなかったが、4度目の冬を迎えて随分“らしく”なって来たように思う。家は中古家だったから、もともと何本かだけ、古い樹がある。山桃、万作、杏、さつき、そして山茶花。僕はそこに、月桂樹、梔子、藤、葡萄、源平桃、小手鞠、蜜柑、ローズマリーを植えた。
もともと和室だった部屋は板張りにしていて、南の掃き出し窓の横に、僕は今、座っている。外に向かって濡れ縁を伸ばしてあって、暖かな小春日には、日向ぼっこをしながら君のピアノを聞いたりした。それは、ついこのあいだの、冬の隙間。

今日は気温はやや高め、でも外に出るには冷え込んでいて、指先が冷たくなっている。冷え性だから、時にどうにもかたくなになる自分の身体にため息をつく。背もたれにもたれ、左の上の、薄い水色の空を見上げる。すこし大きめに息を吸えば、また薄い雲がうごくような気がする。硝子には小さな羽虫がとまっていた。

こんな日が続くと、物事も心も息を潜めてじっとしているしかないように思えてくるけれど、樹々は蕾や若葉をゆっくりと膨らましているのも見える。道の向こうの電柱には雉鳩が一羽とまっていて、こちらを見ている。

鍵盤に指を乗せたり、太鼓を撫でたりしながら、声さえもちょっと強く響きすぎる午後だった。だから今日は、言葉に頼るよ。

杏に四十雀が来ているよ。


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