世界名作激情『魔女と竪琴』第4夜

世界名作激情
『魔女と竪琴』第4夜

そろそろ満月の夜も白んで明けそうです。
この夜というのは不思議なもので
色々な人に色々な作用をもたらすものの様で。

『父さん!僕は音楽がやりたい!』
『………母さん………死んじゃやだ……死んじゃやだよ!』
『……父さん。僕も跡を継いで、軍人になります。』
『軍楽隊に配属されました。許してくれますか?父さん』

『……好きな事をやるのも、義務が伴う。か……』
『この国の人達あってのこの国。軍隊。軍楽隊……』

『王様から直々にこの竪琴を下賜された。けど
それは楽士としての俺にじゃなかった………
あの時、城に近づく敵の騎馬隊を大砲で撃ち殺した
殺人者としての俺に対する褒美なんだ………』

『血で汚れた両手の指で、この竪琴にしがみついてる
俺は何と野蛮で愚かな男なんだろう………』

や………やめろ!来るな………来るな……撃つぞぉぉ!

寝床で汗びっしょりになって、楽士の青年は目覚めます。
やたらと喉、いや口の中もカラカラに乾いてます。
『………紅茶、飲みたいな。夕べ錬金術師が飲んでた奴が』

楽士の青年の父親は軍人でした。
息子が軍隊に入ると聞いた時、『そうか……』と一言だけ。
息子の夢はもう少しマシな形で叶えてあげたかったそうです。
でももう、この世の人でなくなっています。

楽士が時々見る夢、それは彼の
思い出したくない、過去の話。

朝は誰の上にも平等に訪れます。
『先生。先生!朝ですよ!起きてください!』
橙黄色の長い髪と、つぶらな瞳の若い娘が
魔女をゆさゆさと揺すって起こしています。

『うーん……もう朝なのー?ありがと……?』
魔女は自分を起こしてくれた美しい娘を見て
何が起こっているのかわかってない様です。
『………貴女………誰?』
『誰って………その………』
一呼吸置いて、娘はこう告げました。
『昨日からお世話になってる、犬(もの)です』

錬金術師の家では朝っぱらから珍客が2人。
水晶玉を操る眼鏡のオッサンと、山賊王。
『おはよう!相変わらず色気の無い家だね( ̄^ ̄)ゞ』
『ああおはよう。かく言う貴公は相変わらず語彙の成長が見受けられないね』
『どうしてもって言うなら、僕の娘を君にあげるよ( ̄^ ̄)ゞ』
『遠慮しとくわ。1人で3人前も食うような逞しい娘なんて、いくら僕でも持て余すのは目に見えてるしね。』
『おお我が悪友よ!久しぶりだな!会いたかったぞ!』
『おお我が悪友!こんな南の辺境へようこそ。
で、お前さんのとても良く出来た奥方はどうした?』
『家出る前に数カ所、ルーンを刻んでおいた。
運が良ければ苦しまずに天に召されてるだろうよ』
『………だからあの女はやめとけと言ったんだ。
で、警備団から逃げて来たと』
『おいおい人聞きの悪い事言うんじゃないよ。
酸素と食糧の浪費を止めた、この国の功労者と言ってくれ』
『………妙なところで威張るなよ。悪友の占師どの』

眼鏡のオッサンは占師です。
錬金術師とは西の港町にある魔導師養成所の同期です。
錬金術師も占師も一応魔法は使えますが
どちらかと言うと、専門職と言った分野です。

錬金術師の家は元々は鍛冶屋です。
そこの次男として生まれ育ちました。
魔導師の素質があるからと言われて村を出て
養成所に入学しました。

しばらくは錬金術師として生計を立て
西の港町で結婚もし、子供も生まれたのですが
兄が死んで、跡継もいないので
渋々村に帰ってきた経緯があります。

錬金術師は生家が鍛冶屋だった事から
剣術を習っていた事がありました。
山賊とは剣術道場で知り合った旧友です。
………剣術では山賊の方が遥かに上でしたが。

錬金術師も今は独り身です。
流行病で家族を皆亡くし、身寄りもいません。
眼鏡の占師はそれを聞いて、北の村から来た様です。

場面は変わって朝の市場。
紅茶とパンを買いに出て来た楽士の後を
ごそごそととある人影がついていきます。
バサバサの黒髪、肉のつきすぎた体、異様な匂い。
ビア樽のような若い女がずっと楽士の後を付けています。

ようやく話が転がって来たところで
この続きはまた明晩。世界名作激情
『魔女と竪琴』第4夜

そろそろ満月の夜も白んで明けそうです。
この夜というのは不思議なもので
色々な人に色々な作用をもたらすものの様で。

『父さん!僕は音楽がやりたい!』
『………母さん………死んじゃやだ……死んじゃやだよ!』
『……父さん。僕も跡を継いで、軍人になります。』
『軍楽隊に配属されました。許してくれますか?父さん』

『……好きな事をやるのも、義務が伴う。か……』
『この国の人達あってのこの国。軍隊。軍楽隊……』

『王様から直々にこの竪琴を下賜された。けど
それは楽士としての俺にじゃなかった………
あの時、城に近づく敵の騎馬隊を大砲で撃ち殺した
殺人者としての俺に対する褒美なんだ………』

『血で汚れた両手の指で、この竪琴にしがみついてる
俺は何と野蛮で愚かな男なんだろう………』

や………やめろ!来るな………来るな……撃つぞぉぉ!

寝床で汗びっしょりになって、楽士の青年は目覚めます。
やたらと喉、いや口の中もカラカラに乾いてます。
『………紅茶、飲みたいな。夕べ錬金術師が飲んでた奴が』

楽士の青年の父親は軍人でした。
息子が軍隊に入ると聞いた時、『そうか……』と一言だけ。
息子の夢はもう少しマシな形で叶えてあげたかったそうです。
でももう、この世の人でなくなっています。

楽士が時々見る夢、それは彼の
思い出したくない、過去の話。

朝は誰の上にも平等に訪れます。
『先生。先生!朝ですよ!起きてください!』
橙黄色の長い髪と、つぶらな瞳の若い娘が
魔女をゆさゆさと揺すって起こしています。

『うーん……もう朝なのー?ありがと……?』
魔女は自分を起こしてくれた美しい娘を見て
何が起こっているのかわかってない様です。
『………貴女………誰?』
『誰って………その………』
一呼吸置いて、娘はこう告げました。
『昨日からお世話になってる、犬(もの)です』

錬金術師の家では朝っぱらから珍客が2人。
水晶玉を操る眼鏡のオッサンと、山賊王。
『おはよう!相変わらず色気の無い家だね( ̄^ ̄)ゞ』
『ああおはよう。かく言う貴公は相変わらず語彙の成長が見受けられないね』
『どうしてもって言うなら、僕の娘を君にあげるよ( ̄^ ̄)ゞ』
『遠慮しとくわ。1人で3人前も食うような逞しい娘なんて、いくら僕でも持て余すのは目に見えてるしね。』
『おお我が悪友よ!久しぶりだな!会いたかったぞ!』
『おお我が悪友!こんな南の辺境へようこそ。
で、お前さんのとても良く出来た奥方はどうした?』
『家出る前に数カ所、ルーンを刻んでおいた。
運が良ければ苦しまずに天に召されてるだろうよ』
『………だからあの女はやめとけと言ったんだ。
で、警備団から逃げて来たと』
『おいおい人聞きの悪い事言うんじゃないよ。
酸素と食糧の浪費を止めた、この国の功労者と言ってくれ』
『………妙なところで威張るなよ。悪友の占師どの』

眼鏡のオッサンは占師です。
錬金術師とは西の港町にある魔導師養成所の同期です。
錬金術師も占師も一応魔法は使えますが
どちらかと言うと、専門職と言った分野です。

錬金術師の家は元々は鍛冶屋です。
そこの次男として生まれ育ちました。
魔導師の素質があるからと言われて村を出て
養成所に入学しました。

しばらくは錬金術師として生計を立て
西の港町で結婚もし、子供も生まれたのですが
兄が死んで、跡継もいないので
渋々村に帰ってきた経緯があります。

錬金術師は生家が鍛冶屋だった事から
剣術を習っていた事がありました。
山賊とは剣術道場で知り合った旧友です。
………剣術では山賊の方が遥かに上でしたが。

錬金術師も今は独り身です。
流行病で家族を皆亡くし、身寄りもいません。
眼鏡の占師はそれを聞いて、北の村から来た様です。

場面は変わって朝の市場。
紅茶とパンを買いに出て来た楽士の後を
ごそごそととある人影がついていきます。
バサバサの黒髪、肉のつきすぎた体、異様な匂い。
ビア樽のような若い女がずっと楽士の後を付けています。

ようやく話が転がって来たところで
この続きはまた明晩。

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