世界名作?劇場『魔女と竪琴』第2夜

世界名作?劇場
『 魔女と竪琴』第2夜

魔女は1人の女の子の前で当惑してます。
女の子から一匹の犬を差し出されています。
『先生ごめんなさい。お月謝、払えなくなったの……』
月謝と言っても貨幣とか貴金属とかではなく
野菜とか魚とかパンでも魔女は喜んで受け取ります。
………一番喜ぶのは鶏肉と、お酒ですが。

『ねえ、お月謝は出せる時でいいのよ。
それよりどうして、学校辞めるなんて言うの?』
魔女は自分がこの女の子に、何か悪い事したのではと思い
泣きそうになるくらい動揺してます。
『先生……私ね、村を出て行く事になったの。
西の港町からお祖父ちゃんが迎えに来てくれたから
一緒に行くの。』
『そっか……てっきり先生、貴女に嫌われたかと思った』
『そんな事ない!先生大好き!だけど……』

そう言って感極まり泣き出した女の子を
魔女は優しく抱きしめました。
しばらくの間、魔女の胸にしがみついてた女の子が泣き止むと
女の子が連れてきた犬を抱えてこう言いました。
『うん。じゃあこの子がお月謝ね。
でも貴女の大事な家族でしょ?』

コクリと頷く女の子に魔女は続けて
『だったら約束してくれるかな。
貴女が大きくなって、自分の足でここに帰って来たら
また先生の授業、必ず受けなさいね。
この犬ちゃんは、貴女のお月謝のざっと2年分の前渡し。
授業受けないと、貴女、大損するわよ』

女の子は小さなお下げ髪をペコペコ下げて
自分の恩師にお礼と、暫しのお別れを告げました。

一人になった魔女は、ふとこう呟くのでした。
『あの子に、私、何もしてあげられなかった………』

ここで時間は数ヶ月戻ります。
この平和な村で暴れ回った悪魔、流行病の猛威の日々。
村には酒好きの医者が一人いますが
彼だけでは到底対処できず
医学の心得のある魔女も治療に当たってました。

薬剤師という職業が存在してない時代
医者の指示で錬金術師が薬を調合していました。
都とその周辺の様に医者が多いわけではないこの村では
魔女も錬金術師も同じ村に住む一般人。
魔女狩だ何だと言ってもそんな御触書は関係ないのです。

ましてやこの村は魔女の生まれ故郷。
とある事情で都を出て行く事になった魔女にとっては
守るべき大事な土地。
大好きなお酒でさえ、錬金術師に頼んで
薬に変えさせてまで、災厄と戦いました。

あのお下げ髪の女の子の両親は
流行病に斃れたという事も知っています。
だからこそあのお下げ髪の事が
凄く気掛かりになるのでしょう。

いつのまにか眠ってた魔女は、
顔の辺りにくすぐったさを感じて目を覚ましました。
新たな同居人となった、犬でした。
痩せてはいるけど毛並みは良く、行儀も良い様です。

窓の外は満月。
起きて魔女さん戸棚からまたお酒を出してます。
ソーセージを茹でておつまみにする準備。
新たな同居人の、ささやかな歓迎会の始まりです。

『こんな夜、あの楽士さんの歌でもあれば
言う事ないのにな………』
乙女モードに入った魔女さんをまん丸い目で
犬さんはじっと見ています。

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