世界迷惑劇場『魔女と竪琴』第3夜

世界迷惑劇場
『魔女と竪琴』第3夜

1人と1匹っきりのささやかな宴の夜も更けた頃………。
村と隣町の境の山で、ちょっとした事件が起きました。
隣町の畜産小屋に強盗が入り、豚が一匹盗まれたのです。

強盗は2人組。男と女のカップルです。
どこのボニー&クライドだと言うツッコミはさておき
縛り上げた豚を荷馬車に積んで、隣の村へと逃走。

積んでる盗品は豚以外にも、パン、服、酒………。
他には弓矢とか剣とかいう物騒なものまであります。
その中に一風変わった逸品が………。
『絶対に高く売れる』と盗み出した水晶玉がありました。

荷馬車を引く馬は1頭。
対する馬車の総重量は決して軽くありません。
御者が見てたら『素人だ』と鼻で笑われるそうです。

そんな素人の御者強盗でもどうやら、
境の峠道を越すことが出来そうです。
このまま何事も無ければ………ですが。
散々馬をしばき上げて坂を登りきると
馬車の操縦に神経を使う下り道が待っています。

背中や額に汗をかき、鼻の奥がヒリヒリする思いをして
どうにか山道を抜けようとした、強盗カップルの運命は?

昔の人は言いました。
人生には3つの坂がある。
登り坂、下り坂、残り一つは
『まさか』………。

強盗カップルの前に立ち塞がったのは
3人の武装した女の子と
舌舐めずりをしつつ口の端を片方上げた笑みを浮かべる
人相のとてもお宜しい中年男。
この辺りでは知られた、山賊の頭領とその3人娘です。

『お腹減ったよーお父ちゃん』
『何〜また人間なの〜。』
『お父ちゃん。お洋服は私のだからねっ』

『……お前達静かにせんか!』
お洋服を欲しがってた女の子は父親の剣幕に驚いて
ちょっと失禁した様です。
『あー大姉ちゃんがまたお漏らししたー』
『お前も静かにしろ!ここで尻叩きされたいのかコラ!』
囲んだ相手が人間だと言う事になぜか不満な女の子は
父親の怒号にあっさり涙目になりました。
どうやらこの子は末娘の様です。

『……ゴホン!じゃあ悪いがそう言う事で
君達の荷物は僕達がありがたーく頂戴するよ( ̄^ ̄)ゞ』
父親はやっと山賊の頭領らしい威厳を見せて
強盗カップルを威圧します。
カップルの男の方はすっかり震え上がってしまい
『いいいいいいのっっちいいだっっっけはおおおおおおたすけをおおお』
『お兄さん大丈夫?』と山賊の次女は心配しています。
『あああああの、こここここの女をおおお、ササササ差し上げますんでででで』
『…………お兄さん色々サイテー』山賊次女は一気に冷めました。

男の言葉がスイッチとなって、女は馬車の後ろにさっと逃げました。
女は槍を持ち出すと、常識外れの動きを見せて
山賊次女の背後に回り、槍の穂先を次女の顔に突きつけます。
不意を突かれた山賊パパは娘の名を叫び
女に向き直ってこう言いました。
『おい彼女さんよ!こんな事してただで済むと思ってるのか!』
『アタシを襲った山賊の言う台詞じゃないよそれ!
それより山賊さん、アタシと荷物を逃しなさい。
その下衆男はあげるから、代わりにこの女の子、頂くわね〜
悪く思わないでね〜』

呆けていた次女の姉妹も事の重大さに気づいて
軽量のサーベルを抜き、女を取り囲むのですが
時々槍を振り回されるので中々間合いが掴めません。
このままじゃ…………。

山賊の父親と娘2人は、とうとう持ってた剣を下ろしました。
姉の、妹の、娘の命には代えられません。
滅多に泣かない次女の目にも涙がジワリと………。

と、その時です。
女の頭に小石がバラバラと降って来ました。
その後、眩しい光が女の目を眩まして、
女は持ってた槍を手放しました。
次女は自分より背の高い女の腕を掴むと
しっかり腰を入れて女を背負い、地面に投げ飛ばしました。

光の量が小さくなると同時に
強盗とは違う、眼鏡を掛けた中年の男がそこに立っています。
彼の手にはあの水晶玉が。

この後、騒ぎを聞きつけた山賊の手下共があっと言う前に
周囲の後始末をしてしまい、この場には山賊と
眼鏡のオッサンだけになりました。

『娘を助けてくれて、ありがとう( ̄^ ̄)ゞ』
山賊の頭領は、実はかなりの律儀者です。
『何、礼には及ばんさ。それより山賊王。
アンタに聞きたい事があるけどいいかい?』

『僕に答えられる事なら何でも( ̄^ ̄)ゞ』
『人を探してる』
『………誰かな?』
『麓の村に住む錬金術師。私の悪友さ』
『……………!( ̄^ ̄)ゞ』

オッサン2人が会話をしている間に
馬車の荷台から、ごそごそと人影が動き
そして村の方へ消えて行った事は
……空に浮かぶ満月しか知りません。

あれ?ここにいた人って山賊とその娘達と
強盗カップルと、眼鏡以外に誰かいたでしょうか?

その答えと共にお話はまだ続きます。
今宵はこれまで。

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