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クルンクルンの世界7

アネールには父親の面影がなかった。幼き頃母親のニーナがひた隠しにしていたのがトラウマになっている。しばらく行くとザンジロウが泣き始めた。
"あ〜あ。うるさいうるさい。何で泣くのよ!早くクルーグルに行かなきゃいけないのに"
ザンジロウは手足をバタバタさせて泣きじゃくる。アネールは根負けして立ち止まってしまった。
"どうしたっていうのよ!"
アネールがザンジロウを抱き上げたとたん泣き声はピタッと止んで抱きついてきた。
汚い鼻水と涙でぐしゃぐしゃになっていたのだが、あんなに泣きじゃくっていた赤子が黙ってアネールに抱きついた姿を肌で感じてしまったのが感極まってしまいアネールは泣き出してしまった。アネール自身に抱いてもらった記憶はなかったのもあった。
"い、一体なんなのよ!わたしだって好きでこんなことやってるんじゃないんだからね!"
しばらくザンジロウを抱いて座りこんでいるところに後から来たラーネルと従者が馬車に乗ってやってきた。
"ラーネル。ごめんなさい。勝手にクルーグルに連れて行くだなんて、あなたが母親なのに"
アネールは気落ちしていた。
"私もあなたの気持ちも分からずにいてごめんなさい。ザンジロウはね、あなたに心を開いているようだわ。しばらく抱いてあげてもらっていいかしら"
"う、うん。わかったわ"
しばらく馬車に揺られてからザンジロウをラーネルに渡し、アネールが語り始めた。

"わたしね。誰からも愛されてないって。ずっと思ってた。強がる原因はソレね。きっと。てもね。それでもいいと思ってたの。だって望んだって手に入らないでしょ。ただね。ぎゅーって抱きしめてもらえればよかったんだな。ザンジロウがね。母親から連れ去ってもなかなかったのに、こんなところで急に泣き出して、お腹が減ったのか、オムツなのかって思っちゃったのね。そうしたら抱いてほしかっただなんて。そう思ったら、こんなに大泣きして抱いてほしいなんて気持ちが分かったら、私もそうなんだって泣いちゃた。泣いちゃったよ"
"もう大丈夫なの?"
ラーネルは言った。
"どうかな。素直になれないのは変わらないと思うけど、ザンジロウの父親には会いたいかなって。今はそう思うわ"
アネールはそう言うと、ラーネルの胸の中でぐっすり眠ったザンジロウを愛おしく眺めた。
馬車一行はクルーグルへ向かった。

#クルンクルンの世界

西野亮廣さんのモノマネみたいに夢が広がってゆけばいいなと信じてやってゆくよ!