私YouTuberになる!
「私YouTuberになる!」
コンビニのフライヤーをすすぎ洗いしていた時、同級生のバイト仲間女子に突如として告げられた。現実身が微塵も感じられないこの唐突感は、エレンに自分自身が鎧の巨人であることをカミングアウトするライナーを彷彿とさせる。
「...急にどうした...笑」
これは昨日あったガチの実話である。ごく普通のバイト仲間に突如としてYouTuberになる旨を伝えられた時、あなたならどうするだろう。
僕は苦笑混じりで微妙な返事をした後、何事もなかったかのように油汚れをセコセコ落とすことしかできなかった。
「ほんとだよ?ひよごんって知ってる?あんな感じのスタイルでいこうと思ってる」
実直な眼差しで淡々と語る彼女を尻目に見ていた僕だが、今考えても意味がわからないし笑える。
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なぜ彼女はこんなことをわざわざしたんだろう。今日はその真意を紐解いていく。
結論から言うと、彼女は「恥ずかしい人間にならないよう僕に釘を刺した」のだ。
彼女はよく自身の過ちを僕に報告してくる。例えば二人でレジ打ちをしている時
「ねぇ〜、さっき間違えて''ありがとうございます''て言おうと思ったら''ありがとうございません''って言っちゃった笑」
と喋りかけてくるなど。
彼女に限った話ではないのだが、人はなにか間違いや辱めのある行為をした時、なぜかそれを世間に訴えかけがちだ。
これはでんがんというYoutuberの動画の一部だ。写真の通り、彼は動画内で脇汗をかいた。見るも無惨で羞恥的だ。
彼はなぜわざわざ字幕を使ってまで脇汗のことを指摘しなければならなかったのだろうか。
「恥ずかしかったから」という理由で片付けてしまえばそれまでなのだけど、もっと深ぼるとするなら「普段はこうではない」という意思を世間に伝えたかったのではないかと思う。
『普段はこんな脇汗をかくような下劣ではしたない人間ではない。普段は清潔だから勘違いしないで欲しい。』
バイト仲間の女子も、『普段は''ありがとうございません''などと知的レベルの低い過ちを犯す低知能な人間ではない。普段はもっと一般的な立ち振る舞いだから勘違いしないで欲しい。』と誤解を解こうとする無意識が働いていたのではないかと思う。
それを踏まえた上で''私YouTuberになる!''の真意についてだが、これも恥ずかしい人間にならないために布石を置いたにすぎない。
Youtuberは確かに輝かしい。承認欲に飢え名声を欲するさとり世代には喉から手が出るほど羨ましい職業だ。
その眩いダイヤを掴み取ろうと多くの若者がYoutubeという戦場に躍り出てくるわけだが、当然センスのないものは地獄のような動画を屍として残し死んでいく。
そういうこともあってかYoutubeを始めまいとする人間には軽蔑の目が向けられがちな風潮がある。「え?ゆーちゅーばー?笑」みたいな。
彼女がYoutubeを始めたとして、例に倣い蔑まれる運命にある。センスがあろうとならろうと、その事実は揺るがない。
だとすれば、少しでもその痛みを軽減しまいとするのが人間だ。自分を少しでも傷つけないためにとった行動、それが”私YouTuberになる!”なのである。
宣言しておけば、『私はそこらでのうのうと軽蔑される底辺とは違う、至極真っ当なYouTuberだから勘違いしないで欲しい』という訴えになる。言語化するとこうなるんだろう。
彼女は本気でYouTuberになろうとしている。だけど傷つきたくない。だからYouTubeをやっていることがバレたとしても、軽蔑されないように先に宣言して釘を刺しておく。
宣言をすることで軽蔑の目を軽減できるかは甚だ疑問だが、本能が彼女を突き動かしたのだろう。
以上が結論だ。彼女にはひよごん系YouTuberを頑張って欲しいと心から思う。
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