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ひな祭りの前の日の思い出 図形の問題からうまれたストーリー

 昨日の夜のことでした。帰宅が遅くなった私を練る前の娘が呼び止めました。

「算数の宿題見て」

彼女は,算数の宿題で図形の問題に取り組んでいました。

 それは,「縦10cm,横7cm,高さ5cmの直方体を竹ひごで作る場合に,竹ひごは全部で何本いりますか?」といった問題でした。

1.思考と体験 現実と想像の統合

 彼女は,一生懸命考えていました。でも,わからないようです。
「描いてみる?」
断ってもいいよという感じで,娘に提案してみました。私の提案を1回は無視して頭をひねっていた娘でしたが,5分くらいして再度
「図に描いてみるかい?」
そう言うと,私は直方体を描きました。彼女は,私の持つ鉛筆の先からでてくる線を見ていました。ティッシュの箱をモチーフにして描いた直方体。見たままに描きました。


「1.2,3,・・・」
彼女は,元気よく数え始めました。でも,「9」で数は止まってしまいます。見えている辺の数は確かに9本です。


「ごめん,ごめん。描いてみるかい?」
と私がいうと,娘は少し悔しそうに,でもすぐにそれが洞窟に入る探検家のような目に変わり,図を描き始めました。

 2Bの鉛筆特有の少しぐにょぐにょした太い線のややゆがんだ直方体ができました。
「11?13?」
彼女は目には映らない見えない世界が,でもその裏に確かにあることに気づきます。

「あ!12,12でしょ!?」
彼女は,目の前に広がる世界と自分自身の立ち位置からは見えない世界を統合し,とうとう発見したのでした。でも,まだ彼女は自分の発見に信頼を寄せきるところまでは言っていません。大人の僕に,真実の審判を委ねようと僕の顔から真実を読み取ろうと覗き込んできています。そこで,僕はティッシュの箱を彼女に渡しました。
「確かめてみて?」
彼女は,早く結果を知りたいのか,お手玉のようにまだまだ小さな手をフル活用し,ティッシュの箱を回しながら数えていました。
「あっ,12!!」
彼女は,真実にたどり着いたようです。ニコニコしています。


2.4×3と4+4+4の物語

 そこで,僕は彼女に訊いてみました。
「ねぇ,ねぇ,竹ひごは全部で12本だけど,5cmのは,何本いるんだっけ?」
「えっと,それは4本よ!決まっとるやん!」
彼女は,さも当然のように言いました。今の彼女は,世界の成り立ちだって知っていると思っているようです。
「じゃあさ,7cmのは?」
「4本よ!一緒やん!」
「そうか。じゃあ,10cmのは?」
「4本だって!!だって一緒やん」
何を言ってるんだ,もうすべての謎は解き明かしている。とでも言いたそうに彼女は妹にでも言い聞かせるように言いました。
「わかってるって,4本ずつでしょ。ほらここが4本,ここ,1.2,3,4,4本でしょ。そしてここも長方形だから4本」
ティッシュの箱を持って僕に見せながら解説してくれます。
「そうだね。それぞれ4本の竹ひごが3つあるから,4×3になるよね。だから全部で12本ということでいい?」
僕が言うと,彼女は僕の意見が間違いだと意外なことを言いました。
「それ違うんじゃない?違うと思う」
彼女は言い切りました。

「どうして?」
僕は彼女が言うことが分かりませんでした。そして,次に何を彼女が言うのか,楽しみに待っていました。ちょっとだけ,めんどくささを感じながら・・・(すまぬ。娘よ!)。なんとなく,娘がまだ図形について理解しきれてないのではないか?また説明しないといけないのではないか?僕は,大人の視点から彼女を勝手に評価していました。でも,そんな僕の考えは,打ち砕かれました。


 彼女は,僕に教え諭すようにこう言ったのでした。
「だって,ひごの長さは違うでしょ。違うもんやん。だから,4+4+4で12本やろ」
僕は,はじめ彼女が何を言っているのかよくわかりませんでした。でも,彼女の主張はこうでした。
「みかんが3つのカゴに3個ずつあると,3×3でしょ。これは,みかんが同じだから。みかんが3個とリンゴが3個だと,3×2じゃなくて,3+3でしょ」
彼女は,掛け算と足し算をそのような物語で理解していたのでした。確かにそうかもしれない。何だか妙に納得しました。4本ずつの長さの違う竹ひごをグループという観点で見れば,4本ずつの3つのグループがあるから4×3,ひご1つ1つを個性と考えれば,4本,4本,4本が独立にあって,4+4+4。そうかぁ。僕は,大人になるにつれて,数を記号としてみるようになり,そこにある物語が見えなくなっていたのかもしれません。彼女は,物語と記号の間を行き来している最中なのでしょう。その感性を大切にしたいな。そう思った僕の姿を,娘が不思議そうに見ていました。

 そして,そんな親子の姿を,お雛様がそっと見守ってくれているのでした。

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