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プレイヤーに気持ちよくロールプレイをしてもらうための「6つのテクニック」 - マーダーミステリー「サザンクロス20xx」のノウハウ

■はじめに

※当エントリには、マーダーミステリー「サザンクロス20xx」のネタバレを多く含まれます。
未プレイの方は、プレイされてからエントリを読んでいただくことを強く推奨致します(GMレスでも実施可能です!)
https://booth.pm/ja/items/3514126



(※ネタバレ防止のための改行※)



「サザンクロス20xx」、非常に多くの方にプレイして頂き、誠にありがとうございます。既に第一作目である「異世界転生者になろう!」を超える売り上げとなっており、予想をはるかに超える反響に嬉しい悲鳴の状況です。

大変ありがたいことに、好意的な評価を数多く頂いていますが、その中でもとりわけ「ロールプレイが面白い」作品としてご紹介を頂くことが多いと感じております。

自分は「エモさ」や「感動的なシナリオ」を書くことは全く才能が無いと自覚しており、作品のウリは「ゲームシステム」の面だと認識していました。
(どちらかといえば、ココフォリア盤面を2画面使った調査であったり、選択式のペア制による物語が変わることの方が作品として特徴となる部分かと思っていました)

しかし、蓋を開けてみると、ここまでロールプレイ面が評価されている理由はなぜか、という面について、改めて掘り下げて考えてみました。

■前提

繰り返しますが、自分は「エモさ」や「感動的なシナリオ」を書く才能はありません。よって、巧緻な文章表現や、壮大な物語設定登場人物の感情の機微、といったものは一切何も期待しておりません

一方で、システム面については色々と考えて作っており、プレイヤーに対して快適なプレイ環境を提供することが、結果としてロールプレイが捗るシナリオとしてご評価いただいているのだと考えました。

この「ゲームのつくり」は、システム的な枠組みであるため、特定の物語に依らず、汎用的に活用が可能なノウハウとなります。よって、「サザンクロス20xx」のみならず、次回作や、他の作者様に提供することを目的として、このノウハウをまとめたいと思います。

では、具体的に実施した内容を以下に提示致します。

■HOの表紙にRPの方針を明示

サザンクロスはキャラクター選択のHOの時点で、右下に「〇〇なプレイヤー向け」という一言コメントが添えられています。

三葉リザのHOの表紙

一ノ瀬マリン:真面目なプレイヤー向け
二科トシヲ:チャラいプレイヤー向け
三葉リザ:ノリノリで美少女RPできるプレイヤー向け
栄島エレナ:優雅で気品のあるプレイヤー向け
尾藤テツロウ:苦労しているプレイヤー向け
椎名ユイ:仕事のデキるプレイヤー向け

これらの情報は、メタ推理(=犯人が透ける)ことを避けつつも、プレイヤーに対してロールプレイの指針を明確に提示しています。

プレイヤーの趣向とキャラクターのロールプレイ趣向の一致というのは非常に重要です。

例えば「恋愛に興味がない」と書かれたキャラクターを選択したのに、HOで「実はあなたは恋愛に興味津々だ、目的は〇〇に告白することだ」と書いてあったら、その時点でキャラクターとプレイヤーに断絶が起きてしまい、満足度が著しく下がり、ロールプレイどころではなくなります。

そのため、この「一言コメント」は偽りなく情報を提示しています。

また、これはプレイヤーの意思表示にもつながります。

例えば二科トシヲであれば「お前は公開されている情報を元に、意識してチャラ男を選択したんだぞ」とプレイヤーに意識させることになりますし、同時に、他のプレイヤーからも「あの人はチャラいキャラクターを選んだんだ」と、キャラクター選択の時点で既に意識づけすることができます。

実際、この情報を明示することによって、キャラクター選択の時点から

「俺、今回はチャラ男をやっちゃおうかなーw」
「〇〇さんのチャラ男見てみたーい!」
「じゃあいっぱいみんなを口説くからよろしくねwww」

といった会話がゲーム前に行われ、ゲーム開始前からロールプレイの土壌がプレイヤー間で形成される様子は何度も目にしてきました。

HOの表紙に、ちょっと一言RP方針を書くだけで、その後のミスマッチを防ぎ、ロールプレイの土壌を作れる、作り手としてもさほど労力がかからない、非常に効率の良いシステムだと思います。

おまけとして、ロールプレイ方針だけではなく、ゲームとしての役割からも、以下のような狙いを籠めて一文を書いています。

■プレイヤーにメタを意識させない

「メタを意識させる」ことはロールプレイの大変な阻害要因となります。

慣れたプレイヤーであれば「〇〇と書いてあります」とか「俺の目標は〇〇です」なんてことは言わないように配慮した上でプレイしますが、そんな慣れたプレイヤーでも、どうしてもメタを意識してしまう瞬間が存在します。

それが、「進行・ルールの確認」「休憩時間中のプレイヤー会話」です。

★進行・ルールの説明

マーダーミステリーがゲームである以上、どうしてもルール説明は必要ですし、キャラクターではなくプレイヤーとして傾聴する必要があります。
それ自体は必要なのですが、ゲームの途中で追加ルール説明が入ってしまうと、それまでキャラクターとして思考していた頭が一気にプレイヤーまで引き戻されてしまいます
また、GMに対して質問を行う際は、思考も声色もGMに対するそれに急に変わるため、基本的にプレイ中はGMに対する質問を発生させるべきではありません。

そのため、サザンクロス20xxの進行では、プレイヤーとして傾聴すべき部分は冒頭部分に集中させ、調査が始まってからは追加ルールの類は一切出さず、常にキャラクターとして動いてもらうような時間配分としています。

★休憩時間中のプレイヤー会話

休憩時間の雑談は非常に厄介で、ここでプレイヤーとして会話されてしまうと、完全に頭がプレイヤーとしての思考に切り替わってしまいます。

先ほどまで近未来の世界にいたのに、突然現実世界に戻って「ゴールデンカムイの最終回見た?」とか「〇〇さんのチャラいRPウケるwwいつもと全然違うじゃんwww」とかいう会話は、仲が良い友人間の会話としては別に悪いことではないのですが、キャラクターとしての集中が途切れてしまい、折角高まってきた雰囲気がリセットされてしまいます。

これに対する対処は明瞭で、「休憩時間を5分にする」ことです。

体感ですが、10分以上の休憩時間があると、手持無沙汰になってしまい、雑談を交えてしまう率が非常に高いです。
一方で、3分未満の休憩時間では、飲み物の用意やお手洗いをする時間として短すぎるという声も頂いたため、「プレイヤーに対して最低限の休憩時間を与えつつ、雑談は発生させない時間」として、5分の休憩時間が適切だと自分の中では結論付けています。

こうすることで、ひとたび物語が始まると、プレイヤーにはキャラクターとして一環して振る舞ってもらえるように段取りが組まれています。

以下のように進行を分析してみるとわかりやすいですね。

■フキダシ読み合わせシステム

「読み合わせ」および「エンディング」で採用しているフキダシを使った読み合わせは、言ってしまえばよくある読み合わせにキャラクターのグラフィックとフキダシを重ねただけで、単なる見栄えの問題です。

ただし、この見栄えの問題は、単純ではあるものの非常に重要だと思っており、豪華なグラフィックはプレイヤーのワクワク感を刺激し、純粋にプラスに働きます。

読み合わせるだけであれば、テキスト文章に台本を打ち込むだけでも事は足りますが、可能な範囲で以下の通り手間暇かけて作成しました。

★会話用のキャラクターの顔グラフィックの用意
 ⇒名前と顔を用意し、毎回表示させることでプレイヤーにキャラクターの顔を見せて印象付ける。また、それによりプレイヤーの顔は隠され、キャラクターの顔が代弁してくれるため、プレイヤーは「声優」として声を出すことだけに集中できる。

★背景画像の設定
 ⇒白地の背景は寂しいため、近未来っぽい背景画像を用意

★フォントの設定
 ⇒明朝体やゴシック体は見慣れた書体で安っぽさが出てしまうので、フォントの選定は見栄え上非常に重要。Windows10以降に標準で搭載されている「教科書体」と、商用利用可能なフリーフォントの「あかずきんPOP」が、視認性もデザイン性も汎用性も高くお気に入りのフォント。
あかずきんポップ - FLOP DESIGN - BOOTH

★フキダシの設定
キャラクターのセリフをフキダシに乗せるだけで、キャラクターが活き活きとしてきます。また、同じフキダシでも、WordやPowerpointで標準となっているフキダシは、フキダシではあるものの見た目がやや貧相であるため、見た目にインパクトがある特殊なフキダシを利用しています。

このフキダシを使うだけでぱっと見のインパクトが相当変わります。

これらを掛け合わせて、視認性が良く、見た目も楽しい画面を作ることを心がけました。実際、こちらの画面はプレイした皆さまからの評判も良く、手をかけてよかったなと感じているところです。

ベタテキストとの違いは、実物を比較すると一目瞭然ですね。

Before:テキストベタ打ちの読み合わせ台本

After:色々装飾した読み合わせ台本

これはひたすら根気との勝負なので、テキストベタでやればすぐ済むドキュメントを、どれだけ手間暇かけるかという勝負です。頑張りました。

■アイスブレイクのための推奨質問

一部キャラクターのHOには、「ゲームの点数にもならず、必須ではないですが、このように質問することを推奨します」という項目が存在します。

代表的なのが、以下の推奨質問です

二科トシヲのHOから抜粋

この質問は、作者としてとても気に入っている仕組みです。

議論が開始された後に、いかに二科がチャラいキャラクターだとしても、まだ様子見状態でのプレイヤーでは、突然議論の腰を折って「恋人はいるのか」というノイズでしかない質問をすることはまず無理でしょう。

そこを、HOから質問を強制することで

二科プレイヤーは「こいつはこういう言動が許されるキャラなんだ」と認識し、一ノ瀬プレイヤーは「何を突然言うんだコイツマジふざけるなよ」と好感度が最低まで下がり、他のプレイヤーは「二科ってやつ本当に大丈夫か?」と疑いの目を向けることになります。

この質問をすることで、キャラクターの設定だけでなく、プレイヤーの言動としてキャラ付けを行うことと、「こういう会話が許されるマダミスなんだ」という空気感に誘導することができます。

このやりとりがアイスブレイク的に機能し、プレイヤー達が最初にざわつくタイミングなので、観戦する時はいつもこの瞬間を楽しみにしています。

実例として、以下の卓では開幕の二科の質問から、一気に場が動き、プレイヤー間の関係性が構築されていく様子が見て取れます。(この録画は僕が特にお気に入りの動画ですので、よければ最後までご覧ください)

「サザンクロス20xx」 もっぷ様卓 - YouTube(ペア相談フェイズ)

■密談への誘因

「密談」はマダミスにおける核となる要素であり、推理や駆け引き、キャラクターの関係性を深めるにあたって、密度の濃いやりとりができます。

一方で、「全体会議」では、どうしても裏事情を隠したり、全体の推理を進めざるを得ないため、あまりキャラクターとしての色を出しづらく、「特に意味はないけどキャラクターとしておちゃらけたい言動」というのは、全体会議では難しいです。

「全員協力型の推理ゲーム」をプレイするならば良いのですが、ロールプレイや駆け引きを重視するシナリオであれば、いかに密談時間を自然な形で、可能な限り長く割けるようにデザインするかが肝だと考えています。

今作では、「ダイブ調査」という設定を用意することで、プレイヤーに密談を強制的に誘因するシステムとなっています。
勿論、ダイブ調査のために密談状態となることが主な目的ですが、ダイブ調査のついでに別の目的の話をしたり、あるいはダイブ調査をするという名目でただの密談をしたりと、戦略的にも幅が出る形になっております。

形式的に「密談」というシステムを用意するだけだと、なかなか能動的に密談に行けないプレイヤーも多い(特に、全体会議中心で進んでいて密談の口火を切ると黒く見られがち)ので、プレイヤーを自然な形で密談に促すシステムは、マダミスをデザインする上で重要な箇所だと考えています。

勿論、システム的にデザインするだけでなく、それぞれのキャラクターに密談で話したくなるような物語上のフックを用意しておく(一ノ瀬⇒尾藤と個人的に過去の事件について確認をしたい、二科⇒エレナと打ち合わせをしたい、椎名ユイのおねがいを聞きたいなど)のも重要です。

■プレイヤーを物語に干渉させる

物語のクライマックスである、三葉リザが本性を現し、各自が電脳技術を受け入れるか受け入れないか、その結果によってエンディングが分岐する箇所についてですが、最後の決断はプレイヤーの自由意志に委ね、それによって大きく結末が変わるようにデザインしてあります。

最後の「受け入れる」「受け入れない」という質問は、問いかけを受けるキャラクターのハンドアウトには「受け入れてもよいし、受け入れなくてもよい」と、どちらを選んでも違和感がないように設定してあります。
また、最後のこの選択は、プレイヤーの目標にも設定されておらず、完全に各プレイヤーの思想や感情を発露する場となります。

「最後は自分の意思で意見を発表した」こと、そして「その意思によって結末が決定されたこと」によって、プレイヤーの干渉度を可能な限り高くすることで、プレイヤーはキャラクターとしてその物語をやりきった感(=ロールプレイの達成感)が感じられるのではないかと思います。

■おわりに

以上のように、サザンクロス20xxには色々な場所でシステム的な試みが仕込んであります。

マーダーミステリーは、演劇や小説のようでありながらも、ボードゲームや家庭用ゲームとしての側面も持ち合わせており、こうしたシステム面からも工夫のしがいがある所が、非常に面白い分野だと感じています。

新作「マーダーロワイヤル(仮)」も、今回得たノウハウをもとに、皆さんに快適にプレイして頂けるような作品を作っていきたいと思いますので、よろしくお願い致します!



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