グレート・リセットを読んで

「希望のない恐怖はないし、恐怖のない未来もない」17世紀の哲学者/スピノザ
グレートリセットとは、そういう事なのですね。
以下は要約です。

1.マクロリセット
1.1 概念の枠組:
現在社会をあらわす三つのキーワード
1.1.1 相互依存
「地球という惑星に住む70億人の人々はもはや、100隻をはるかに超える船(国家)に別々に暮らしてるのではない。全員が同じ1隻の船の193室の客室で暮らしてるのだ」
by キショール・マブバニ

1.1.2 スピード
1975年の実験で心理学者が発見。「指数関数的なプロセスを予測するとき、人はそのプロセスを10分の1に過小評価する」。大きな社会変化や崩壊も、最初はゆっくりと、やがていきなり物事が変わる。

1.1.3複雑性
本質的な問題は、複雑性が増すと、広い情報を踏まえて何かを決めようとする政策決定者は複雑性に圧倒されてしまうかも知れないこと。
パンデミックリスクについて、WHO、世界経済フォーラム、ビルゲイツはここ何年も世界に警笛をならしていた。

1.2経済のリセット
1.2.1 COVID -19の経済学
歴史を見ると感染症は国の経済や社会機構を組み直す大きな契機となってきた。実質金利を押し下げ、経済活動が停滞する。終息すると労働者側は有利になり、実質賃金が上昇する。ただし、今回はテクノロジーによって構図が変わる。

1.2.1.1 不確実性
2020年4月金奇(中国の科学者)は新型コロナウイルスが「長期にわたりヒトと共存する季節性の病原菌となってヒトの体内にあり続ける可能性が非常に高い」と発表。
可能性が高いシナリオはいずれも2022年まで続くことを大前提としている。

1.2.1.2 命を犠牲にしてでも経済を守るべきという経済論の誤り
命を守らないという決断をしても、経済は改善されない。経済が持続的に回復するには二つの条件が必要。それは、パンデミックが終わったと確信できること&全世界がウイルスに打ち勝った証拠。

1.2.2 成長と雇用
1930年代の大恐慌や2008年の世界金融危機でさえ、数年かけてGDPが10%以上落ち込み、失業率が10%を超えた。このパンデミックでは同じ状況に至るのに要した期間はわずか3週間。ケネス・ロゴフ「もし長期化すれば、あらゆる金融危機の引き金になることは間違いない」

1.2.2.1 経済成長
製造業や農業と違い、サービス業が失った売上は永久に失われる。ワクチンが入手出来るようになるまで常態に戻ることはない。世界中の人々にワクチンを打つには、大きな政治力が必要。弱い環を改善しなければ全体は強くならない。

1.2.2.2 雇用
パンデミックの影響で二種類の労働者が求職難のあおりを大きくうける。それは若い働き手とロボットに取って代わられる可能性がある職種の労働者。
パンデミックに誘発された景気後退は労働者の代替の引き金を引くことになるだろう。

1.2.2.3 将来の成長予想図
複数の機関や組織が、私たちの物理的欲求を満たすレベルをこの惑星が許容できる範囲までとすることで、将来の経済活動の持続可能性を維持しようとする動きを見せている。

1.2.3 財政・金融政策
労働者や企業を守るためなら政府が民間の問題に介入しても構わないという考え方は残るかも知れない。最も懸念されるのは、金融と財政の暗黙の協力が続くと、制御不能なインフレが起きるかも知れないということ。

1.2.3.1 デフレ、それともインフレ?
ポストコロナの時代には、消費者需要が強まることはおそらくあるまい。抑えられていた需要が表面化して、穏やかなインフレを起こすかも知れないが、それは一時的。日本を見れば、人口減少が必ずしも経済力の低下に結びつかないことが分かる。

1.2.3.2 米ドルの宿命
何十年もの間、アメリカは世界の準備通貨を発行する国として「法外な特権」を欲しいままにしたきた。長期的にはドルの地位は終焉に向かっているが、短期的には人民元もユーロも仮想通貨も無理。デジタル人民元は画期的な試み。

1.3 社会的基盤のリセット
パンデミック後には、富裕層から貧困層へ、そした資本家から労働者への大規模な富の再分配が生じる。また、今回のパンデミックは、新自由主義の終焉を告げるものとなる。政府の役割拡大、社会契約の再定義という影響が生じる。

1.3.1 不平等
看護師のように生活に不可欠で本質的な価値のある仕事に対し、それに見合う報酬が支払われていないという不平等を改めて認識した。短期的には製薬会社と病院は力を持ち、不平等は拡大する。しかし、人々の怒りが臨界点に達し、逆方向に向かう可能性がある。

1.3.2 社会不安
パンデミック収束後に直面する最も深刻なリスクは社会不安。もし、政府が暴動や破壊行為の鎮圧に準軍備組織や軍隊の力を使えば、社会は崩壊の道をたどるかも知れない。社会不安を生じさせる最も大きな要因は不平等である。

1.3.3 「大きな政府」の復活
過去500年の間に欧米諸国が得た教訓の一つに、重大な危機は国家の権力を拡大させるというのがある。まずは課税だ。今回の危機でも、過去と同じように増税されることになる。
株主価値は二義的なものになり、ステークスホルダー資本主義が優位になる。

1.3.4 社会契約
パンデミックにより、社会契約について再考し、再定義するよう促される。より広範に、社会扶助、社会保険、医療サービスを提供すること。労働者や弱い立場の人々をより手厚く保護すること。若い世代はグレートリセットの重要な原動力となる。

1.4 地政学的リセット
ジャン-ピエール・リーマン教授
「新しい世界秩序などない。あるのは、不確実性への混沌とした移行だけだ」。アメリカに頼ってきた国は、自分の裏庭は自分の手で管理しなければならない。世界はエントロピーの時代に突入するリスクがある。

1.4.1 グローバリゼーションとナショナリズム
ダニ・ロドリック教授「グローバリゼーション・トリレンマ」→経済のグローバリゼーション、政治的民主主義、国家主義という三つの概念は互いに相容れないものであり、常にこのうちの二つだけしか共存出来ない。

1.4.2 グローバルガバナンス
ビル・ゲイツ「WHOの取り組みは新型コロナウイルス感染症の拡大を遅らせている。仮にその作業が止まっても、彼らに代わって作業を続けられる機関は他にない。世界はいま、これまで以上にWHOを必要としている」

1.4.3 深まる米中の対立
ポストコロナ時代になれば、この感染症が、米中を「新しいタイプの冷戦」に導いたターニングポイントとして記憶されるかも。米中の競争がどのように展開するかは分からない。ただ言えるのは、間違いなく激化するだろうということだけ。

1.4.4 脆弱な国家と失敗しつつある国家
現在、およそ18億から20億の人々が脆弱な国家に住んでいると推定されている。この数字はポストコロナ時代には確実に増えるだろう。豊かな国は関係ないとして見て見ぬふり。しかしいずれは大量移民の発生により無視できなくなる。

1.5 環境のリセット
パンデミックに並ぶ重大なリスクとして思い浮かぶのが、気候変動と生態系の崩壊という二つの重大な環境リスク。環境リスクとの闘いは、現在の消費習慣や社会経済モデルの大幅な変更を必要とするところが、パンデミックとの根本的な違い。

1.5.1 新型コロナウイルスと環境
1.5.1.1 自然と人獣共通感染症
動植物の体内には、未知のウイルスが数多く潜んでいる。生態系を破壊し、自然宿主から解き放たれたウイルスは新たな宿主をさがす。その時選ばれるのが、多くの場合、私たち人間。農業は最も自然を破壊する行為。

1.5.1.2 大家汚染とパンデミックのリスク
大気汚染が、あらゆるコロナウイルスが健康に与える影響を悪化させる。さまざまな研究で、汚染された空気を吸うことでコロナウイルスに感染しやすくなることが証明されている。

1.5.1.3 ロックダウンと炭素排出量
ロックダウンによる炭素の減少は、実行可能な温暖化防止策の足下にも及ばなかった。有効な戦略はこの2つの組み合わせ。世界を機能させ続けるために必要なエネルギー生産方法の抜本的かつシステミックな変化。私たちの消費行動の構造的変化。

1.5.2 気候変動やその他の環境政策へのパンデミックの影響
パンデミック後、大半の国が、地球温暖化問題を一時的に棚上げして経済の立て直しに専念するシナリオがある。しかし、一部のリーダーはパンデミックを無駄にせず、有効利用して環境問題に取り組むはず。

1.6 テクノロジーのリセット
今回のパンデミックは、あらゆる事業のデジタル分野を「ターボで加速する」。接触者追跡技術には想像できないような可能性があり、新型コロナウイルス感染症との戦いにほぼ欠かせない役割を担う。

1.6.1 加速するデジタルトランスフォーメーション
自宅隔離の最大の影響は、デジタル世界がまっしぐらに拡大、進歩し、元には戻らないことだろう。ITに詳しい人々にとっては喜ばしいことだったが、そうでない人にとってはあまりにも(ときには絶望的なほど)先行きが暗かった。

1.6.1.1 消費者
ロックダウンを強いられたことで、消費者の大半は、ほぼ一夜にしてやむを得ず生活習慣を変えさせられてしまった。以前の生活習慣の一部は間違いなく戻るだろう。しかし、テクノロジーの助けを借りた新たな行動の多くにも慣れ、やがてなじむだろう。

1.6.1.2 規制当局
暮らしの中であらゆるものがデジタル化に向かうのは、規制当局も支持し、後押しするだろう。今まで政府は新しいテクノロジーの実用化ペースを遅らせてばかりいたが、ネックになっていた規制がロックダウン中にいきなり、ほぼグローバルに緩和された。

1.6.1.3 企業
ウイルス感染への恐怖は、オートメーション化へのたゆみない歩みへの追い風になる。RPAの活用は、コスト削減できる。それと引き換えに失業率の上昇を招きやすくなる。

1.6.2 接触確認、接触追跡と監視
デジタル追跡テクノロジーは、ウイルス追跡に特化したもので、他意はないと信頼してもらえるだろう。肝心なのは、本気で伝えることだ。テクノロジーを使うならそれは信用できるものであるべきで、監視時代が始まるわけではないと伝えよう。

1.6.3 ディストピアのリスク
公衆衛生という名目の下で、個人のプライバシーを犠牲にしてでも疫病の拡大防止が優先される。そのうち人々はいつの間にか、あらたな監視権力の犠牲者になる。しかもこの権力は決して後退することなく、もっと悪意ある目的の政治手段として利用される。

2.ミクロリセット(産業と企業)
2.1 ミクロトレンド
パンデミック後の時代はまだ始まったばかりだが、強力で新しい、加速するトレンドがすでに動き始めている。最も機敏かつ柔軟に対応できた企業が、この新しいトレンドを最大限に活用できる。

2.1.1 デジタル化の加速
「オンライン」がパンデミックから最大の利益を受けたのは当然のことだ。すでにオンラインで事業を行っていた企業は、競争上の優位性によって、長期にわたり恩恵を受けることになる。

2.1.2 レジリエンス(困難からの回復力)の高いサプライチェーン
レジリエンスよりも効率を優先するという原則に、このパンデミックが終止符を打った。企業はサプライチェーンを短縮またはローカライズして、長期にわたる困難から身を守ることを余儀なくされる。

2.1.3 政府と企業
このパンデミックが終わると、企業は政府から以前よりもはるかに大きな干渉を受けることになる。最も可能性が高いのは、最低賃金の引き上げが中心的な課題となることである。

2.1.4 ステークスホルダー資本主義とESG
このパンデミックは、ESG戦略に対する深刻な責任感と緊急性を生み、強める。中でも最も重要なのは気候変動である。労働者の安全と賃金、福利厚生が中心的な課題となるにつれ、ステークスホルダー資本主義は多くの人に関連し、その力を増す。

2.2 産業のリセット
2.2.1 社会的な相互作用と脱密集化
コロナ禍で最も大きな打撃を受ける業界は、回復も最も遅れることになる。とくにホテル、レストラン、航空会社、小売店、文化施設。

2.2.2 行動変容ー永続的か一過性か
ロックダウン中に見られた行動の変化がパンデミック後に完全に元に戻る可能性は低く、恒久的になるものさえあるだろう。これがどのように展開するかは、まだ非常に不透明だ。

2.2.3 レジリエンス
コロナ禍でレジリエンスという言葉が、困難な状況でも成功する能力は「なくてはならないもの」として、そこら中で見かける流行語となった。ポストコロナ時代は、ビッグテック、健康、ウェルネスの三つの産業が繁栄することになるだろう。

3.個人のリセット
3.1 人間らしさの見直し
3.1.1 現れるのは「よき本性」か、それとも?
自然災害は人を団結させるが、パンデミックは逆に人を孤立させる。パンデミックが引き起こすものの中で最も本質にあるのは底知れぬ不透明感で、それが不安の原因となる。暴力や噂、パニック、反乱の暴発が歴史上繰り返されてきた。
今まで以上の協力体制がなければ、全人類が直面するグローバルな課題に対応できないことに、人類は気付いている。環境問題が果てしなく悪化し、グローバルガバナンスが急速に力を失うリスクに連帯して対応しなければ、人類は滅びる。

3.1.2 倫理的選択
今回のパンデミックによって、ひとは皆、哲学的議論に引きずり込まれた。ダメージをできるだけ抑えつつ公共の利益を最大化する方法をめぐって深く考えさせられた。何よりも、これを機に公益の本当の意味をじっくり見つめるようになった。

3.2 心身の健康
今回のパンデミックによって、世界中で精神疾患の蔓延状態は悪化した。バーチャルなコミュニケーションは脳に負担をかけ、不安にさせる。ぐったりと疲れ果て、底知れぬ不満足感がくすぶる。これがやがて、心の健康をむしばんでいくのだ。

3.3 優先順位を変える
3.3.1 創造性
歴史的に、クリエイティブな人はロックダウンのときにこそ花が開く。たとえば、アイザック・ニュートンの才能はペスト流行中に開花した。同じように監禁状態における創造力の原理は文学でも当てはまり、西洋文化で屈指の名作が生まれた。

3.3.2 時間
ロックダウン中、毎日が変わり映えしないと感じてた人が大勢いた。アフターコロナの世界では、人々は今までと違う意味で時間を大切にし、より大きな幸福感が得られることのために時間を割こうとする。

3.3.3 消費
リベンジ消費を予測するアナリストもいる。しかし、自己抑制という心理が先に働いたら、まったく起きないかもしれない。派手な消費や大量消費は人にも地球にもプラスにはならず、すたれるだろう。

3.3.4 大自然と心身の健康
体がいつも低レベルの炎症を起こしていると、ありとあらゆる病気や不調が起きやすくなる。このような慢性炎症は都市部に住む人々でよりみられる。これからは、地球上の自然という資源をもっと大切にすることがますます重要になる。

結論
パンデミックは「社会を省み、考え直し、リセットするという、千載一隅のチャンス」を与えてくれた。適切にリセットするために不可欠なのは、国家間の協調や協力を強めること。SDGsに向けた進展を遅らせるのではなく、加速させることで、新たな時代の扉を開くことができる。

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