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「年の暮れはあんたと」


年末の30日にあんたは私の家に来て
私は
ソファでお風呂でベッドで
あんたに抱かれた

ううん
ただ抱かれただけじゃないな
私もあいつを抱き
二人で愛し合った

大晦日もあいつはそのまま家にいて
食事は買って置いた食材で済ました

大晦日のテレビはつまらない
違うな
最近のテレビはつまらない
いや、昔からかな

彼もそう思っているタイプの人で
ソファで一緒にDVDを見ることにした

年の暮れは落語もええんちゃう?
そんな彼の提案で小三治の芝浜をチョイス
大晦日に相応しい噺だ

彼の足の間に私は座り
彼に包まれるようになる

そう
それだけで私が幸せになれる形だ

彼もそんな時は
甘える私をそっと包んでくれる

芝浜も色んな演じ方があるが
この小三治さんの芝浜は
まくら無しで始まり
いきなり夫婦の会話に引き込まれていく

腕の良いぼて振り魚屋の夫
酒を飲んで休んでしくじってばかり
そんな夫を支えるしっかりものの妻

久し振りに仕事に出て市場で魚を仕入れる前に
芝・増上寺に近い浜で皮財布に入った大金を拾い
浮かれてまた大酒を飲む夫

妻は酔いから覚めた夫に皮財布を拾ったのは
夢だと嘘をつき通す

あんなはっきりとした夢を見ることもあるのかと
夫は性根を入れ替えて酒を断って商売に励み
三年でぼて振りから表通りに立派な魚屋を構えるに至る

なんだかあんたみたいな話やね
私はそうつぶやいた

そう
三年前に同棲をしていた頃の彼は
酒で失敗することが多く荒れた生活をしていた

そんな彼を私は怒り
同棲生活に見切りをつけた

その後
彼は変わった

私との生活を止めて一人暮らしを始め
噺のように性根を入れ替えて働き始めた

同棲生活は止めたものの
家を出ていく前に言った
「時々はお前に所に来てもええか?」
その言葉通りに
彼は盆や正月には私の所にやってくる

男と女には
色んな形があるのだろう

私と彼は
常に一緒に住んで上手くいくタイプでは
ないのだろう

でも離れられないのは
こうして彼のいて心地良いのは
二人には何かの縁が繋がっているのかな?

もう実家の無い彼にとって
私の家はその代わりで
私は彼の母の代わりのような
そんな感じなのかもしれない

でもそれは私にとっても同じことかな・・

私を抱きしめるように座っている彼は
時々手を動かして私の身体を触り
私のうなじや耳たぶにキスをしてくる

そんな時
私は目を瞑って彼の愛撫を受け止める

そう
それは私にとって安らぎを感じる
幸せな時間だ

芝浜は
ラストの妻の告白の場面

夢と言った皮財布を拾った話は本当で
人の物を取って夫が罪人になるのが怖くて
大家さんに相談して財布をお上に届け
酔いから覚めた夫にはあれは夢だったと
嘘をついたのが真相だったと

また財布は持ち主が現れずに
随分前にお上から
お下げ渡しになっているという

悪かったと謝る妻

そんな妻に
俺の方こそ悪かった
お前におかげで立ち直り
ここまで商売を大きくすることも出来た
子供まで出来て人並みに
幸せな生活を送ることが出来ていると

ねぇお酒を少し買ってあるの
私のお酌では嫌かもしれないけど
久し振りに呑まない?

そう聞く妻

私も彼に聞いてみた

ねぇあんたも久しぶりに飲む?
大晦日ぐらいいいでしょ?
私も少しなら付き合うよ

酒かぁ

そう言って暫く考えるあいつ

酒を浴びる程に飲んでいたあの頃の俺の生活は
今から考えると悪い夢のようやったな・・

いゃ、よそう
また夢になるといけん

(Fin)

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