正しく恐れる
新型コロナウィルス 感染症について、玉石混交の様々な情報が世間溢れている。
数から言えば大半は専門知識のない、いわゆる素人が発信している情報だし、医師とはいえ感染症、呼吸器疾患の知識がなければ上等な一般人レベルかもしれない。特に新型コロナウィルス についてはまだまだ知見が乏しく、学術論文などから情報収集をしていない医師の意見は聞くに値しないものも散見される。「専門家」という看板を掲げた記事は信頼の証しのように思えるが、今回ばかりはよく吟味して理解し、正しく恐れる必要がある。
私も専門家と言えるほどその分野に従事していないし、だからと言って薬学専攻で20年以上サイエンスに関わる仕事をしてきているので素人とも言えないだろう。
そういう私が、どのようにこうした情報を捉えているかを書いてみたい。もちろん自分の認識こそが正しいとは思っていないし、むしろ反対意見など含めて他の人たちの考え方を聞いてみたい。
想像力を働かせる
たとえば、日々発表されている東京都の新規の陽性患者数は3月30日には13人、3月31日には78人と大きな伸びを見せたため、SNSなどは驚きのコメントに溢れている。感染が拡大しているので、数字が増えていくのは誰しもが予想している通りだった。ところが、その予想よりも伸びが大きかったので驚きの声が上がっているのだろう。
しかし、ここで想像力を働かせてみる必要がある。要点は 3月30日が月曜日であること。この状況下において、PCR検査を実施している検査施設は、おそらく土日も関係なく稼働しているだろう。つまり、陽性の疑いのある患者を随時受け入れ、曜日に関係なく、滞りなく検査しているはずである。一方、患者を受け入れる病院やクリニックはどうだろうか。土曜日は多くの病院はいつもどおり半日診療をしていると予想されるが、日曜日は救急診療以外は休診のところがほとんどだろう。更にもう1つ大事なポイントとして、PCR検査は7時間以上を要するため、検査数は前日までの受診者の数字を反映している。その日に受診した人ではない。つまり、これらの状況から、3月29日の日曜日には患者の受け入れをほとんどしなかった可能性が高く、これが翌日の3月30日の13人という、低い数字になった理由であると考えられる。もう1つ付け加えるとすれば、自発的に来院した人ではなく、陽性患者と接触した(永寿病院などの)人たちが大半を占めているのではないか。そして、3月29日が休診だったために、3月30日を待って受診した人たちが本来の受診者数に加わったと想定される。その結果、3月31日が78人と前日の13人より多くなったと想像できる。ちなみに、3月29日には68人と報告されているので、このことからも78人は大きな増加とはなっていないと想像される。30日が13人と少なかったことを考慮すれば、先週末からの伸びは横ばいであると理解している。
こうした状況から、4月1日は横ばいか微増に留まると予想している。これを越えれば私も驚くが、そのときには検査数や患者の受け入れ数などを増やしていないかなど、背景となる他の要因を探るだろう。
もう1つ着目すべきポイントは、感染源不明の患者がどの程度出てくるかを観察するのが重要と考えている。つまり、不特定ルートの感染の頻度が高まっているということは、検査しきれていない隠れた患者の増加を反映しており、危機的な状況に進んでいると想像している。新型コロナウィルス は、中国の病院の報告によると、発熱や咳などの症状を伴わないのにも関わらず、X線レントゲンではほぼ検出不能で、CTでようやく観察できるレベルの肺炎を発症していて、それでも感染させる能力を有している患者の存在を報告している。若く健康な人たちは、こうした隠れた患者になりうる確率が高い。咳も熱もなければ、受診の動機すらないだろう。つまり、感染源不明の患者はこうした隠れた患者から感染した患者を反映する可能性が高いと想像するからである。
上記2点とも、私の想像の範囲内での話であるので、参考にも値しないかもしれない。しかし、ただ与えられた数字を見て怖がるだけでなく、こうしてその意味を考えるプロセスが必要なのではないだろうか。
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