24/03/09 【感想】変な家(小説単行本)

雨穴『変な家』の単行本を読みました。

僕はWebメディア上で一番最初のエピソードだけ読んだことがあったのですが、このエピソードは単行本では全4章中の第1章として配置されています。

本書の魅力は、なんといっても「奇妙な間取り図」それ自体の名状しがたい魅力と、その一枚の間取り図から思いもよらぬ仮説が展開していくという話の広がりの面白さです。
家からはそこに住む人の暮らしが見えるといいますが、それは明るい暮らしと同様に暗い暮らしについても言えます。そしてその間取りから見える暗さを極限まで煮詰めて闇を見出す、与太話の面白さが本書にはあります。

ただ全体の印象としては、活字の単行本というメディアとあまり噛み合ってないかな…という感じ。
「変な家」に始まる変なシリーズってどれもいわば《変な話》で、独特のリアリティラインの上に成り立っているものだと思うんです。我々の住む世界を舞台にしたルポライター風に都市伝説めかして語られていますが、割と突拍子もない想像がポンポンと飛び出してきて、それが真剣みをもって受け取られていたりする。
筆者の雨穴さんの創作スタイル自体が割と不条理というか、「こことは少し違う世界の実写コンテンツ」みたいな作りをしているため、このラインが氏の最も得意とするフィールドなのだと思います。

そしてこういう《変な話》をするのにあたって冗談みたいな記事ばかり載せてるWebメディアや全身タイツの仮面男が喋るYoutubeチャンネルなんかはちょうどよかったのですが、活字の単行本としてちゃんと装丁されて本屋に並んじゃうとちょっと真剣すぎるというか、かっちりしちゃう感じがありました。

より具体的な話をすると、単発記事としての「変な家」およびその他の変なシリーズって「おぞましい推理が語られるが、それが妙に真実味がある…」というくらいの温度感で終わることが多いのですが、連作形式の単行本になるにあたって第1章をうけて第2章、第2章をうけて第3章と話が展開していくようになりました。そしてこの展開のための手続きとして、各章の最後で語られる推理が裏付けされて真実らしいと承認されるようになりました。作中での推理の確度がずいぶんと上がっているのです。

元は「胡乱なメディアでリアリティラインの曖昧な世界において現実離れした推理が語られ、ぞっとした雰囲気を残す」というホラーだったのが、メディアがかっちりして、作品としてもロジックの強度を上げた結果、リアリティラインが上がってしまった。しかもそこで現実離れした推理が本当らしいと承認されてしまうようになった。
これによって…「いやそんなワケあるかい」と飲み込めなくなってしまった感じ! というのが正直な印象でした。

個人的には「変な絵」のほうが好きなのであっちも読んでみようかな。